表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章 妖怪の二枚舌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/102

24話 交州の価値


 交州の士家と、中央にある曹操との関係というのは、意外にも繋がりが多かったとされる。

 事実、史実において、曹操が赤壁で破られるまで、士家は曹操側の立場を取っていたのだ。


 では、どのようなつながりがあったか。


 ひとつは「袁徽エンキ」という儒学者の存在があげられる。

 彼に関しての情報はほとんど残っていないが、もともと中央にいて、乱世から難を逃れて交州へ辿り着いた人物らしい。

 戦火から逃れるように交州へ移った知識人は多く、中央と繋がりを持った人間もまた多かっただろう。


 そんな袁徽は度々、荀彧と文通を交わし、士燮の統治を大いに称えていた。

 また、荀彧もそのことによって士燮を大いに評価し、それが曹操にも伝わっていたのではないだろうか。


 そしてもう一つ。それは、士壱シイツの持つ官僚ネットワークだ。

 士壱は中央にいた頃、実はエリート層の官僚であり、大いに実力を評価されていたとされる。


 そしてこの士壱の師匠にあたるのが「丁宮ていきゅう」であり、彼は朝廷の「三公」の地位にあった人物であった。


 さて、この丁宮と曹操もまた、深い関わりがあったのではないか、とする説がある。

 というのも曹操の最初の正室は「丁夫人」と言い、彼女はこの丁宮の親族ではないだろうかと言われている。

 だとすれば、士壱はこの丁一族を通した太いパイプを持っていたとも考えられるのだ。



 表面上を見れば交州は、土地が貧相な、ただの辺境でしかない。

 しかし、この時代を生きる英傑らは、この土地の重要さをよく理解していた。


 例えば「劉焉」は、益州牧を望む前は、交州に赴任したいと朝廷に申し出ている。

 また、あの「劉備」も、荊州から追われた後は、交州に移ろうかと考えていたともされる。


 曹操も、孫権も、もちろんその価値が分かっていない訳ではない。

 どうにかして自分の陣営に引き込みたいというのが本音なのだ。



 ただ、そんな英傑たちが渇望した「交州」。

 ここを押さえること叶った士燮も、易々と利用されるような男ではない。


 煮ても焼いても食えぬ「妖怪」と称されるこの曲者は、二枚の舌でもって、天下をねぶろうとさえ考えていた。





「あぁ、いや、しかし、まだこの屋敷は荷解きさえ終わっておらん始末。申し訳ありませんが、ろくな持て成しも出来ませぬ」


「いえいえお構いなく。賢人とまみえるのです、これ以上の何を望みましょうか」


「これは困ったなぁ。どうも調子が狂う」


 荀彧の笑顔を前に、シショウは難し気に髭を撫でた。

 まだ邪険に扱われた方がやりようはある。相手がこちらを甘く見ているということだから。


 しかし、どうしたものか、大いに評価されていては手を打ちづらい。

 あまり重く見られると孫権との確執にも繋がってしまうからだ。


「では、荀彧殿、辺境に引きこもるしか無いこの老骨に、何の用ですかな? お役に立てるかは分かりませんが、どうぞお使いなさいませ」


「そうですな、本当ならば実際に民政などをお任せしてみたいのですが、そういうわけにもいきませんね」


「交州に帰らねばなりませんので」


「分かっております。そういえば、曹操様との面会を求めてきた理由を、改めてお聞きしても?」


「袁紹が破れ、死んだ。天下の趨勢はもはや決まったも同然。他に理由は御座いません」


「なるほど。庇護を、求めたいと。されど地理的には孫家に従うのが順当なのでは?」


「勿論。されど、強き方に従う。それが世の常でしょう」


 妖怪の言葉には淀みがなく、流れるように、さも当たり前のように、その言葉が吐かれる。

 曹操にも従うが、孫権にも従う。

 それが本音だろうというのは荀彧も分かっていた。しかし、直接乗り込んできてそれを明言する。

 捉えようによっては処罰の対象にもなりうる言葉だが、それを恐れる様子もない。


「そこまで、先が見えていましたか」


「曹操殿と、孫権の坊主がぶつかるのは、もはや必然。さぁ、勝機はどちらに傾いているか。如何様にお考えですかな」


「……先生は今、非常に危うい橋を渡っておられることを、分かっておいででしょうか?」


「果たしてこの老骨、どれほど先があるのやら」


 シショウは笑う。荀彧の顔からは微笑みが消えていた。



「私の考えとして、殿が孫権に敗れることは、まずあり得ない。あの人は軍事の天才です」


「孫権の元にも、かの稀代の天才『孫策』を大いに助けた『周瑜』が居る。水戦となれば、天下最強でしょう。北方の民は、長江を泳げますかな?」


「しかし、孫策は死にました。荊州を抑え、じわじわと圧力をかければ、孫家は自壊するでしょう。あそこは豪族が力を持ちすぎていますので」


「戦わずして勝つ、と」


「されど戦には何があるか分かりません。絶対の勝利は、あり得ない。しかし、勝率を上げることはできる」


「その策をお聞かせ願えますかな?」


「先生の考えていることと同じですよ」



 ──交州を味方につけた方が、勝ちに近づく。



「はぁ……良いでしょう。先生の要求は?」


「士家による交州の自治権、それに相応しい官職。されど、孫家を刺激したくはない。あくまで交州への対応は、劉表への抑えと見せるが一番でしょう」


「こちらは、有事の際は孫家の抑えとなること、加えて物資の提供、人質が条件です。物資は朝廷への貢ぎ物、人質も朝廷へ仕えるという名目で構いません」


「うむ。とりあえずは、それで決まりじゃな」


「最終判断は、曹操様次第とはなりますが」



 疲れたように息を吐き、荀彧は汗をぬぐった。





丁一族と言えば、丁冲や丁儀が挙げられますよね。

曹操に重用されてますが、曹植派についたことで、曹丕の代に一族が処刑されて衰退してます。


まぁ、曹丕は母が卞氏なので、そのあたりも含めて邪魔だったのでしょう。

丁一族もそれを見越して曹植に賭け、敗れたというところかなぁ、なんて。



あ、次回は再びシキさん視点に戻ります。

まだまだ孫権の試練は続きます……みたいな(笑)


面白いと思って頂けましたら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!


それでは、また次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ