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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
一章 商売を始めよう!

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16話 最初の投資先


「これより交州は、曹操にも孫権にも、臣下の礼を見せる。あくまで表だけであるがな」


 親父の発表は、一族から、特にシイツ叔父上からの激しい反対にあった。

 人として通すべき筋を大きく外しており、更に、わざわざ危険な綱渡りに挑みに行っている様なものだと。


 既に、交州が袁紹と誼を結んでいたことは曹操なら知っているはずだ。

 なのにどうしてわざわざ、そんな曹操の下に頭首自らが顔を出そうとしているのか。


 江東の孫権も、今は内部の掌握に全力を注いでいる時期であり、こちらから接触を図るのは火中に手を入れる様なもの。

 それに以前より孫家からは従属の指示が再三届いており、こちらは無視している。関係性は最悪だ。


 そして、そんな二大勢力も、互いにいがみ合う関係性である。

 交州はその両方に良い顔をし、言わば二枚舌を使って外交をしようとしている。

 まさに狡猾とも言うべき手法であり、どちらともから恨みを買う邪道。


 しかし、これを保ち、のらりくらりと戦乱を潜り抜けてきたのが「士燮シショウ」の手腕である。

 俗に言う「全方位土下座外交」こそが、親父の真骨頂である。


 曹操にも孫権にも、それに南蛮にも通じていたのだから、劉備とも繋がりを持っていたのかもしれない。

 こうして交州の価値を高め、敵意を逸らし、簡単に孫権にも攻められない土地とした。


 ただ、そんな史実と異なるのは、交州が自ら動き出したという点。

 孫権に降ったのは、交州に孫権の武将の「歩隲ほしつ」が赴任した後の話。

 曹操にも、士燮自らが出向くなんて話はあり得ない事であった。


「分かっていないのはお前たちの方じゃ。交州という土地を、我ら一族の立場を」


 親父はギョロリと目を剥き出して一同を睨む。

 その気迫に叔父上も、他の全員も押し黙ってしまう。


「交州は、弱い。戦で成り上がってきた群雄から力を行使されれば、あっという間に踏み潰されよう。だからといえ簡単に臣従でもすれば、我ら一族はこの土地を奪われよう」


「しかし兄上、性急すぎる。わざわざ危険を招くこともあるまい」


「危険は既に招かれており、気づいてないだけじゃ。俺は、この故郷が好きだ。家族が何よりも大切だ。これらを守る為なら、曹操であろうと、手玉に取って見せよう」


 ここまでの強気を見せてしまえば、叔父上だって異論を唱えることは出来ない。

 これで、決まった。今後の交州の動きが。


「曹操の下には俺と、シキョウで行く。シキョウ、朝廷にも知り合いは多いか?」


「任せてくれ! 親父は朝廷に知り合いが多い。その伝手を頼るさ」


「孫権は、シキに任せる。同行するのは雍闓殿じゃ。孫権は嫌みな奴だと聞くからな、三男という立場を甘く見られるかもしれん。だから、俺と同格である雍闓殿に同行を頼む」


「分かりました。必ず、孫権との交誼を結んでまいります」


「留守はシキンに預ける。後見人にシイツ。補佐にシシだ。もし俺に何かあれば、お前らで交州を保て。話は以上じゃ」





 交州が、交州として生き延びる為。

 その為に取るべき道は、一つだろう。


「天下統一する国家が現れるのを、防ぐことだ」


 群雄の力が拮抗すればするほど、交州の価値は高くなる。

 その価値を利用して、財でもって群雄と交誼を保てれば、自治を維持していける。



「坊ちゃん、入用かい?」


「趙さん、僕がこの数年間、必死に貯めてきた自前の金がここにある。これでありったけの財宝や珍品を買いたい」


「あいや、これは貯めたねぇ。ヘヘッ、一体、どれほどの商人の懐に潜り込んでいったのやら」


「買った品を遠方に届けたいんだ。今まさに消えようとして、命を燃やす者に届けたい。出来る限り、隠密に、内密に、急ぎ」


「……何を考えてるんですかい? そんなに楽しそうな坊ちゃんの目は、見たことが無ぇな」


 見返りの少ないところへ、敢えての全額投資。

 心が躍らない訳がない。

 しかしその分、見返りは絶大だ。


 曹操の覇道を遅らせることが出来て、交州の価値を上げる事にもつながる。

 それに、あの天下第一の名門に、あまりに大きな恩を売ることが出来る。



「僕は、頑張っている人が大好きだ。もっともっと頑張ってもらいたい。だから財宝を、袁煕えんきに、届けてほしいんだ」



 袁紹の次男にして、後継者争いから身を引き、三男の袁尚えんしょうの側に付いた男。

 その評判はパッとしないものばかりで、自発的な性格でなかったことから袁紹にも疎まれていたと聞く。


 しかし、袁煕が袁紹に統治を任された土地は「幽州」である。

 異民族や賊軍が多く、常に乱れ、更には袁紹最大の敵でもあった「公孫瓚こうそんさん」の根拠地。

 ここを統治するのは、並大抵の手腕では無理だろう。


 しかし袁煕はこの地を無難に治め、異民族との交誼も結んでいる様だった。

 証拠に史実では、曹操に追われた袁尚と袁煕を匿ったのは、烏桓うがん族の頭領達である。



 決して、この袁煕は馬鹿ではない。

 博打に値する男だ。


 風前の灯にある、天下第一の名門「袁家」に、もっと頑張ってもらおう。


「このことは……大王シショウ様も、ご存じで?」


「勿論だ。交州を守る為に、力を貸してくれ」


「わ、分かりました」



 よし、次は「孫権」をどう攻略するか、考えないとな。




最初の投資先は、袁紹の次男坊「袁煕えんき」です!


そして次回から新章に入ります。


士燮シショウは、河北平定に忙しい、乱世の奸雄「曹操」の下へ。

士徽シキは、江東掌握に忙しい、運命の敵である「孫権」の下へ。


二人の視点を織り交ぜながら、物語は「三国志」へと収束していきます……!

どうぞご期待くださいませ!



いつもブクマ・評価・誤字修正、大変ありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします!

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