決闘、そしてその後。
凶悪な暗黒騎士VS怪力ぽちゃ令嬢。
ものすごい組み合わせの決闘となっては、ギルド中の人々……はたまた街の人までなんだなんだと見にくる始末。
「お館様、意味がわからないことになりました」
魔法ホログラム電話を起動してモモは主人……アンの父に伝えた。返答は豪快な笑い声だった。
「まあ、いいんじゃないのか!? あれだあれ、もし骨のある若者だったら連れて帰ってこい!」
お館様それは、敵国の厄介な奴なんですとか、そもそも多分すぐ負けますとかーーいろんなことを言いたくなったが口をつぐんだ。
「わかりました」
「あ、録画はしといてな。あとで酒の肴にすっから」
「……わかりました」
語尾が苛立ったが仕方がない。そして、ちらっと後ろでスクワットをしているアンを見た。宿に戻ってからバクバクと食べたあとひたすらスクワットをしている彼女は……
「ドラゴン肉めっちゃおいしかったわね! たべたぶんカロリー消費しなきゃ!」
すごくいい笑顔だった。
○○○
決闘当日。
いつもどおり、ふんわりドレスで現れたアンに対して、ナズマの方も軽装だった。軽めの細い剣をヒュンッと回し、
「手加減はなしだぜ」
と笑う。
アンも不敵に笑った。
「ナズマさま、もしわたくしに勝てたら婚約してもらいますからね………………」
「待て待て待ていつそんな話になった」
「昨日寝ながら、あ、そうだ私より強い人なら婚約すればいいんだと思いました」
「俺の意思は」
焦りまくりのナズマに、アンはウインクした。
「惚れさせますから」
とぅくん……
ナズマは一瞬、心臓が大きく鳴ったのを感じて、思わず胸に手を当てた。バッと相手の顔を見る。ふくふくなほっぺを緩ませてニコニコ笑っている表情が何だか可愛く見えたような、いや、
「…………………………落ち着け」
「なんですか」
「俺はデブ専じゃねえ…………………!!」
吠えると、ナズマは駆け出した!
すらっと剣を抜き、一気にアンに飛びかかる!
「暗黒魔術第二章・黒炎散!!!」
「おおっと! ナズマ選手いきなり魔術も使うー! 大人気ない!」
モモのいらん実況!
「いやあああああ!!」
アンの絶叫!
それと同時に、剣がピシッと音を立てて割れた。アンが固い拳でナズマを殴り、ふっとんでいく風圧で割れた。
滅茶苦茶だった。
○○。
その後。
負けを認めたナズマとアンは仲直りの握手をした。けれど互いに、なにか気持ちが変わったようで、見つめ合う目は以前とは違って見えた。
「また会えるかしら」
宴のあと。ふと、アンはギルドの去り際にナズマに訪ねた。
「……会いに行ってもいいんだな」
「えへへ、うれしいわ」
モモには彼の何がいいのか分からなかったが
(相変わらず男の趣味が悪いのね)
そんなことを思いながら、もうちょっと支えていこうと決めた。
「ねえ、最後にいい?」
「なんだよ」
太ってるけどいいのかしら」
「俺はそのほうが好きかもしれねえ」
「……なら、いいかな」
それが聞けただけでも満足だった。馬に乗って去るナズマにウインクをすると、軽く手を降って微笑まれた。
拳で交わらないと、やはり分からないものだ。
身体は重いけれど、なんだか気持ちは弾んだ気がしたから。
とりあえず婚活は終わりでいいかな!




