第85話 三武神4
その日の番。ハスキーはたき火の前で愛刀レッドサーディンを胸に抱いている。
ゆらめく炎を見ていると、その後ろに三人の女性がいつものように立っているので身を翻し地に伏して頭を下げた。
「金皇龍、聖剣グラジナさま」
「おや。もう分かったのかえ。大したもんだよ。いかにも我らはいにしえより神に仕えし三武官。今は失われた場所が出自なので本名は玉龍という。神々の命により勇者を守る為にここにいる。しかし、あなたに大変興味がある。面白いやつだ。任務とは別に指導したい」
「そのお言葉にすがるばかりです」
そこに聖者のマントである無縫が近づき、いつもののように構えを指導する。
肩を押され、腹を突かれ、足の指の向きまで形を決められた。
「勇者の技は勇者の技よ。あなたにはあなたの技がある。体が軽いんだから空中で二回回転できるはずよ。それよりも多く回転できればなお結構。そのときに光の波動を飛ばすのいい?」
「は、はい」
ハスキーは無縫に教えられた構えをし、刀は脇腹につけて大きく飛び上がり、空中で三回転した。光の波動が数個の輪となり、ぶれながら飛んでいく。どこへ行くか分からないトリッキーな動きだ。
「こ、これは?」
「ブレイブウェーブとでも名付けようかねぇ」
「いいですねェ。玉龍さま」
シャイニングブレイクはまっすぐに光の波動を飛ばすのだが、ブレイブウェーブはランダムに乱高下する。これを避ける敵は用意ではあるまい。
「これこれ。いつまでも感動しているでない。次はシャイニングブレイクの要領でこれも数回転なさい」
「あ、は、はい」
ハスキーは構える。
慣れ親しんだシャイニングブレイク。だがそれも数回転する。
考えてみれば簡単だがそうすれば光の波動がさらに出るのであろう。
回転が多くなるようにいつもよりも身をよじりそれを解放する。
「いくぞ! シャイニングブレイク!」
闇夜に輝く光。厚い光の層が夜に輝き消える。
ハスキーは感動しながらがそれを眺めていた。
「ふむふむ。これはダブルブレイクだ」
「なるほど。玉龍さまは名付けの天才ですわ」
三人はさして感動もせずに名前の方に集中しているようでハスキーは口を開けてそれを眺めていた。
「これらの攻撃は接近戦ではなく、中距離に広がる敵に有効よ。しかし単体戦となるとその力は分散されます」
「ま、まことにその通りです」
「刀剣による攻撃は斬るよりも突く方が殺傷能力が高い。ですから突きによる光撃を致します」
「突く……。な、なるほど」
「左腕の肘を曲げ、その腕の上に刀の中程を置きます。そしてそれを弓のように引き、切っ先を腕の上まで引いたところで光をのせて突き放つのです」
「は、はい」
ハスキーは言われた通りに構える。
そこに無縫が近づいてまた細かくチェックをして直す。
直されたところで、レッドサーディンを大きく引いて突き放った。
すると分厚い光の槍が飛び出し闇夜を突き進んでいく。
シャイニングブレイクの光の波よりも遠くまで。
これが突く力なのだと実感した。
ハスキーが言葉なく笑いながら三人の方を見ると、三人は腕組みをしながら真剣な顔。
うまくできたと思ったが、三人は気に入らなかったのかもしれない。
ハスキーはそう思ったが、玉龍が顔を上げる。
「ふむ。ウルフファングね」
「なるほど〜。狼の牙ですね」
やはり三人は名前ばかり考えていた。
こうしてハスキーは三つの技を覚える事が出来た。
それをうまく習得することが今後の課題だと言われ、夜の見張りの際には特訓に励んだ。
それには紫鸞や無縫が付き合ってくれたが、次第にどちらも来なくなり、やがて誰も現れなくなった。
「あとは一人でやれってことか。でも一人のままじゃこんなことできなかった。全くもってありがたい勇者の装備さまたちだ」
とハスキーは馬車の方を向いて礼をするのであった。




