第78話 変態勇者6
見ると6メートルほどの単眼巨人が3体。獲物を見つけたとばかりこちらを囲もうとしている。
あまりの巨大さにハスキーもシロフもたじろいでいた。
「クソ! ここまできてやっかいな敵だ。オレたちだけじゃ太刀打ちできない」
「一度撤退しますか?」
「バカ! タッパがありすぎる。走れば馬車に追いつかれるぞ」
「じゃぁどうすれば?」
話し合う二人の前に勇者が立つ。そして涼し気な顔で叫んだ。
「グラジナーー!」
すると聖剣は自ら鞘より飛び出して巨人めがけて斬り込んで行く。巨人たちはそれを虫を追うように手を振り回す。
その間に勇者は指を絡めて魔法の言葉を唱えていた。
「大神よ 大神よ お力をお貸しください わたくしのそばにきて 仇を討ち果たしてください ヒューレの子ボルーダよ きみはうち余る 大神のお力をおさえ わたくしの友人たちを 傷つけないでください 来たれ雷龍の門!」
するとまたたく間に空はかき曇り、大風が吹いたと思ったら雲から稲妻が今にも吹き出しそうだ。
勇者は固くつぶった目を開けたと思うと巨人めがけて指を指して最後の言葉を言い放つ。
「ギドライガーッ!」
途端に3体の巨人へと稲妻が落ちる。巨人は黒く燃えたかと思うと灰になってそこに山を作ってしまった。
ハスキーもシロフのあざやかな戦いぶりに固まっている。その勇者の元にグラジナは回転して帰還し、鞘に元通り戻った。
「では出発しよう」
馬車に乗り込もうとする勇者の背中を掴んだのはハスキー。ミューも馬車から降りて来て勇者の顔をいぶかしげに見ている。シロフだって同じことだ。
結論。いつもの勇者ではない。
様子がおかしい。話し方も大人びているし、戦いかたも大技を使うわけではなくグラジナを囮に使い目くらましからの大魔法。しかもいつものちび勇者よりも破壊力が違う。これが正式なギドライガなのであろう。三人は腕組みをして勇者を囲んで見下ろした。
「どうしたみんな。戦闘は終わった。旅の続きをしよう」
「やっぱり話し方が変だ。どうなってるんだ?」
そう言われて勇者は慌てて自分が子どもだったことを思い出す。
そしてこの後、ミューにまたあの続きをして貰わなくてはならない。
「全然おかしくないよー。ボクは子どもさ」
「おいボーズ。ミューに手を繋がれて馬車に戻るのと、オレにスペシャル肩車されて馬車に戻るのどっちがいい」
スペシャル肩車はちび勇者の大好きな遊びだ。一も二もなく飛び付くだろう。
「えーと。おねえさんに手を繋がれるゥー。エヘ」
三人は顔を見合わせて少しばかり怖い顔。
「様子がおかしい」
「ホントね」
「こりゃいつもの子どもじゃないな」
バレる。勇者の中に緊張が走る。
先ほどの痴態。アレが大人だと思われたらミューに嫌われる。
どうなっても子どもであることを通さなくてはならない。




