第77話 変態勇者5
勇者が目を覚ますとすでにシロフが運転する馬車の上。
ハスキーは荷台でイビキをかいて寝ていた。
勇者は幸せにもミューの膝枕で寝ていたのだ。目を開けたそこにはミューの心配そうな顔。
「あ。起きましたね? 大丈夫ですか?」
「だ、だ、だ、大丈夫」
「朝食ちゃんととってありますよ。目玉焼きをパンに挟んでおきました」
「あ、ありがとう。お、おいしそうだね」
「じゃ起きて、座って食べましょうか」
「う、うん」
しかしまだ勇者からスケベ心が死んだわけではない。膝枕のまま恥ずかしそうにミューに頼み事をした。
「あ、頭を打って本調子じゃないからミューに食べさせて貰いたいなぁ~……。なーんて……」
ミューはしばらく不思議そうに勇者の顔を見ていたがパンをとって勇者の口に近づけた。
「なんか今日の勇者さまの話し方、ちょっと変ですね。成長したのかしら? はい。あーん」
そのミューの言葉に大人である罪悪感。しかし食べさせて貰えるスケベ心が勝って大きく口を開けて食らいつく。食べている間、ずっとミューの顔を見ていた。その顔には赤みが差してゆく。
食べ終わって水を水筒から飲ませて貰う。
膝枕からようやく起きて、ミューへと体を密着させ今度は慎重に子どもらしく行こうと決めた。
「エヘエヘおねえさーん」
「あら何です? 勇者さま」
「ボクおねえさんとチューしたい」
「え?」
ミューの目がまん丸くなる。勇者の方も行き過ぎたかと思ったがもう引き返すわけにいかない。
子どもらしく唇を突き出した。
「いいですよ。じゃぁはい」
と言って頬を指差す。そうじゃない。頬ではない。しかし子どもなのだからこれ以上「口に」などとも言うのはおかしい。仕方なく勇者は頬に口づけした。だが貼り付いたままだ。頬にキスして息荒く耳の方にまで及ぶのでミューはそれを優しく離した。
「はい。もうおしまいですよ〜」
おしまいと言われても勇者の方では火がついてしまった。もはやムラムラが止まらない。
子どもらしく次なる手段を考える。考える──。
そしてニタリと笑ってまた膝枕の姿勢に戻った。
「どうしました? 勇者様」
「おねえさん。ボク、おっぱい飲みたい」
「──え?」
子どもなんだから甘えてもしょうがない。勇者は思いっきり子どもらしく目をキラキラさせた。
しかしミューは困った顔。
「いつもそんなこと言ったことないのに、甘えん坊さんですねぇ」
「いつもはホラ。ガマンしてたんだよ……その……。頭を打ったからいつも以上に甘えたいっていうか〜……」
「なんか言い方も変ですし。あなた本当に勇者様?」
「勇者だよ。勇者だい。でも今日は甘えん坊なんだ。バブバブ」
ミューは大きくため息をついた。
「私、おっぱいでませんよ?」
「うん知ってる」
「知ってる……?」
「いや知らないけどさぁ、そのぉちょっとは出るんじゃないかなぁと思って」
「え? なんか変ですよぅ」
「あー。頭痛くてボク泣きそう」
頭を押さえて泣きそうな顔にミューは苦笑しながら上着に手をかけた。
「もう仕方ないですねぇ」
「うん。うん。うん」
「じゃぁちょっとだけ……」
高鳴る勇者の鼓動。たくし上げられるミューの上着。そこにミューの肌が表れ始める。ツバを飲み込む勇者だが、馬車が停まりシロフが荷台に走って行く影が見えた。
「あら何かしら?」
下げられてしまう上着。勇者はじれったくなってギリギリと歯噛みした。
しかし起き抜けのハスキーが刀を片手に馬車の扉を開ける。
「おいボーズ。敵の襲撃だ。ミューと馬車を守るぞ。お前も武器をとれ」
「は、はぁ!?」
せっかくいい雰囲気なのに敵の襲撃。勇者は悔しがったが仕方ない。
聖剣グラジナを手にとって馬車の外に駆ける。




