第69話 呪いふたたび
二人の祭りの夜のデートは終わり、金皇龍であるクラジナを御して地上へ舞い降りる。
そこには骨付き肉にかぶりついているハスキー。
彼が二人に目をやると、そこには青年勇者ユークの姿が無い。
「おや、ミュー。ボーズはどこへ行った? って、おい!」
尋ねながら勇者を探すと、なんと自分の足元に見慣れた姿で立っている。
愛くるしい顔でニコニコ笑っていた。
「なんだよボーズ。お前はまたボーズになっちまったのか?」
「えー。ちがうよー。うん。そーだよ。そー」
「どっちだよ」
「どは」
「笑いごっちゃない」
またもや幼児になってしまった勇者。
本人は脳天気に笑っているが、困ったことだ。
一緒に遊んだ子どもたちと、走り出して祭りの夜を遊び出した勇者を二人で眺めながら考えた。
「シェイドが最後に呪いをかけたから戻ったのかしら?」
「うん……。よほど強い呪いなのかなぁ? しかし神の加護がある勇者だ。普通なら術者を倒せば元に戻るはずだけどなぁ」
ハスキーの言うとおり、生きて恨むからこそ呪いのエネルギーが強くなる。死んだ残留思念は時間とともに消えるはずだ。エネルギーの元が無くなってしまうわけだから。
遊ぶ勇者を見ながら、そんな思いを抱いていると、祭り優先とばかりジエンガの遺体に粗末にかけていたムシロが風で飛んだ。
そこにジエンガの遺体はなかった。
「まさか!」
ハスキーが走り、その臭いの後を追う。
しかしそれは空へと続いている。そして、シェイドの臭いがどこからかまだするのだ。
「ちくしょう! やられた!」
「ど、どうしたの? ハスキー」
「シェイドは双子の弟のジエンガの遺体を自分の身代わりに操って、グラジナに殺させたように見せかけたんだ! そして自分は逃げ、勇者を隠れて見ているに違いない!」
「そ、そんな……自分の弟の遺体で……」
「すでにこの地から物凄いスピードで離れていく。東の都の方だ。つまりアイツは、また勇者を狙うため、勇者が苦しむために落ち延びたんだ……」
「なんて……なんて執念深い……」
追いかけて倒すしかあるまい。それしか人類の希望である勇者を元に戻す方法が無い。東の都はここから少し北に進み、東に向かう。近くには海もあるという。
また長旅になるが、幼児の勇者のサポートをしてやらなくてはならない。二人は顔を向き合わせて大きく頷いた。




