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第55話 オーガ2

途中、ニセ勇者の屋敷に差し掛かると、たくさんの人々が這いつくばってニセ勇者の出馬を願った。


「もちろん! 私が行けば大鬼(オーガ)たちはたちどころに死体となるでしょう」


それに歓喜の声があがる。


「ただ、準備が必要なので、少々お待ち願いたい」


そう言うとニセ勇者は屋敷の中に引っ込んでいってしまった。


「へぇ。ニセ勇者のお手並み拝見と行くか?」


ハスキーは少し高いところに上ってニセ勇者の対応を見ようとしたが、彼の行動は早かった。

馬車に高額そうな金銀だけを詰め込んで、ローブを纏った男に馬車を運転させ、さっさと街から逃げ出してしまったのだ。


「はは。こりゃいい。魔王はほっといても人間は自滅すると言っていたがまさしくその通りだ。だが、この城壁はオレとボーズで守ってみせる!」


ハスキーが高台から駆け下りると、街は大騒ぎだった。

勇者が逃げ出した。もうお終いだと言う声に、ハスキーは激怒して叫んだ。


「いい加減にしろ! この小さな子どもでさえ剣を取る。人外のオレだって今から戦いに行く。お前らには守るべき家族がいるだろうが! そう簡単に諦めるなーー!」


そのままハスキーは城壁の階段を駆け上った。

大鬼(オーガ)は城壁とまだ少し距離があった。

これは剣技で攻撃しても上手く行かない。

体が大きすぎる。表面は傷付けられても致命傷には到らない。


「ボーズ! 魔法だ! 魔法で攻撃するんだ!」

「うん、わかった~」


勇者がむにゃむにゃと魔法の御題目を唱え始めた。

だがいつも聞く契約の言葉ではない。

手は印を結んで一心不乱に唱え続けている。


「う、うぉい。そんなに時間がかかるもんなのか? 城壁まで来ちまうぞ?」


「てんにかがやく ひのかみがみは サーマンス ウェンデス ウィンザー つきのかみがみ ジュフェブ マチプリル メイジュン ほしのかみがみ ジュリァガ セオクプ ノブデス どうかおちからをおかしください」


大鬼(オーガ)はゆっくりとこちらに近づいてくる。

片腕は樹齢何千年と言う樹木のように太く、これに一撃でも食らえば城壁は崩れ落ちてしまう。

足の太さはその倍以上だ。これを振り上げて城壁を蹴れば、城壁は倒れ一区画の街が壊滅する。


「くそぅ。なぜよりによって長い契約の言葉なんだ。オレに出来るか? いや、出来るかじゃない。やるんだ。街の連中にも啖呵を切ってきたんだから」


城壁の下から声が聞こえる。


「勇者さま、頑張って! ハスキー! しっかり!」


それはミューからの喚声。その周りには声を出しはしないがたくさんの人がいる。


「バカヤロウ! アブねぇ! 城壁から離れやがれ!」


ハスキーが下を向いて叫ぶと、その後ろに大きな手が迫る。


「あぶね!」


体勢を変えて回転しながらその大きな手に刀による一撃を加えると、驚いた手は一時引っ込んだ。


「ダメージなしかよ。ま、当たり前か」


ハスキーは刀を勇者のように構えた。


「魔法の準備が整わないなら、その援護をするしかねぇ。前には一度光の波が出たんだ。あれからオレ自身がグレードアップしたとは思えんが……」


もはや時間はない。大鬼(オーガ)はハスキーをつまみ上げて食おうとしている。ハスキーは軽く目をつぶり、それを大きく開く。


「行くぞ! シャイニングブレイク!」


飛び上がって大きくひと回転。すると、ハスキーの刀から光の波が大鬼(オーガ)に伸びる。大鬼(オーガ)は驚いてその場に尻もちをついた。その衝撃が地震のように街を揺らす。


「もう1回か? 精神を統一しろ。オレ!」


しかし、勇者のほうも契約の言葉がいよいよ佳境に向かっていた。


「せいれつしろ たてに9れつ よこに9れつ きょだいなはこのかたちで われのてきにおそい えいえんのせいじゃくをあたえよ」


印を結んでいた両手を天に向けてそれを投げつけるように大鬼(オーガ)たちに向けて最後の言葉を唱えた。


「メデストム!」


空が煌めく。真っ赤に灼けるよう。そこから降り注ぐ流星。

最初、大鬼(オーガ)は何が起きたか分からなかった。

自分たちの体に激痛が走る。見るとそこに孔があいて血が噴き出している。驚いて身をよじるが当たった場所に孔があく。

だが流星は地表に届く前に燃え尽きる。それが何百と言う数。

身が削れて消えてゆく。やがて大鬼(オーガ)は跡形もなく消えてしまった。


「おじたん大丈夫?」

「は、はは。これは伝えに聞く、勇者の大魔法……メデストム……」


「うん。でもボクこの魔法嫌いなんだ」

「どうして?」


「だって長いんだもん」

「へへ。確かにな。でも今日見た花火で一番キレイだったぜ」


ハスキーは、勇者の背の高さにしゃがみ込み、頭より少し上辺りに肉球付きの手を広げた。勇者は最初キョトンとしていたが、嬉しそうに自分の手のひらをそれに当ててハイタッチした。

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