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ホイップクリーム殺人事件

第二十一期テーマ短編参加作品。テーマは「ホイップクリーム」、ジャンルはコメディーです。

「もしもし、警察ですか?」

「はい、そうですよ。どうなさいましたか?」

「大変なんです。嫁が倒れているんです!」

「でしたら、ここは救急に連絡した方がよろしいかと……」

「でも、明らかに異質なんです!」

「事件性があるということですか。では、救急の方はこちらで手配しておきます。被害者の状況を詳しく説明してください」


「えっと、白いのが、白いのが嫁の身体を覆っていて――」

「白いもの? えっと、それはどういったもので? 例えば、液体とか、固体とか」

「固体……いや、どうもしっくりこない。固体とも液体ともいえないです」

「固体でも液体でもない、と。ううむ……。では、その白いものとは、どのように被害者の身体を覆っているのですか?」


「それが、全身を這うように覆っていて……あっでも、特に胸元や股間の部分に多い気がします。少し大きめな乳首や手触りのいい下の毛が、完全に隠れてしまっています」

「ぶっ!? ……失礼しました。その、ふつつかなことですが、被害者は衣服を身につけてないということですか?」

「ええ、そういうことです。何しろ私たち、夜の営みの最中でしたので」

「そ、それは何よりで。ん? ということは、一体どのタイミングで被害者が倒れたのですか? お楽しみであったのなら、そこに居合わせていたことになるかと思うのですが」


「それが、恥ずかしい話、嫁の服を脱がせた段で私が尿意を催してしまいまして。前戯に入る前にお手洗いへ行ってたんです」

「生々しい話をどうも。それで、あなたがお手洗いへと向かったわずかな間に、被害者が倒れていたと?」

「大きい方なので十分ほど外していましたので、わずかな間ではないですが……まあ大体そんなところです」

「それでしたら、催したのは尿意ではなく便意になるかと」

「言われてみれば確かに。って、そんな細かい話はいいです。それよりも、ちゃんと救急車を呼んでくれてるんでしょうね!?」

「通報を受けた時点で救急車と所轄の刑事を向かわせておりますので、その点はご心配なく。あと五分もしないうちにそちらへ到着しますので」

「それはよかったです」


「それで、話を戻しますね。被害者はあなたが目を話した十分のうちに、何者かに白いものを使用して殺されたと。ここまでは大丈夫ですか?」

「待ってください! 何で嫁が死んだことになってるんですか。まだ息があるかもしれないじゃないですか」

「それは失敬。ところで、被害者の息があるかどうかは、確認されましたか?」

「それはしてないです。不用意に触ったらマズイかと思いまして」

「確かにそうですね。では、被害者が仰向けで倒れているのでしたら、口元に耳を近づけて、呼吸音を確かめてみてください」

「なるほど。それなら嫁に触れることなく、生死を確認できますね。やってみます」



「――どうでしたか?」



「んああああっ!!」


「どうしました!?」

「あ、いえ、すみません。私見かけによらず耳が弱いものでして」

「いや、あなたの見かけなんて知りませんけど。つまり、息があったということでよろしいんですね?」

「はい、ありました。いつもの暖かくてこそばゆい、嫁の息でした」

「そんな生々しい感想は求めてないです」

「顔を近づけたら、嫁のグレープフルーツのような爽やかな体臭に混ざって、ホイップクリームのような甘ったるい匂いがしました」


「匂いなんて全く訊いてません! ……ん? 今なんて?」

「嫁の体臭がグレープフルーツのように――」

「その後です!」

「ホイップクリームのような甘ったるい匂いが――」


「そう。それですよ。もしかしてあなたが言っていた白くて固体とも液体ともつかないものって、ホイップクリームじゃないですか?」

「言われてみれば確かに。そういえば、この間嫁が、お菓子を作るでもないのに大量のホイップクリームを買っていましたね。あの時のクリームでしたか」

「被害者自身がホイップクリームを購入していたと?」

「そういうことです」

「そして、被害者の息は普段通りにあったと」

「そう言ってるじゃないですか」


「……ところで、被害者に目立った外傷は?」

「ないです。いつも通りの愛嬌のある丸顔に、エロティシズムな曲線美を描く身体のラインで――」

「だからなんでいちいち生々しくするんですか! 失礼なことを訊きますが、被害者は本当に意識がないのですか?」

「意識、ですか。そういえば確かめてないですね。ピクリとも動かずに倒れていたので、ないものばかりと思っていたのですが」


「まあ、状況が状況ですから、仕方がないとは思いますが。では、軽く刺激を与えて意識の有無を確かめてみてください」

「わかりました」



「――ひゃあああああっ!!」



「ど、どうされましたか!?」

「あ、大変お騒がせしました。嫁の意識、ありました」

「今の叫び声は被害者のでしたか。無事で何よりです」


「いやあ、本当すみません。全部嫁が自分でやったことみたいです。私を驚かそうとしたみたいで……可愛いでしょ?」


「とりあえず、もう電話切っていいですか?」


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