第27話「弟子入りを乞う」
今回から三人称視点で物語りが進みます。新しい敵も出てきたので、心機一転したいと思いまして・・・後、新しいキャラも登場!
米軍基地爆破の報を受け、怒りを燃やしたルークは王牙の前で「打倒王牙」を掲げた。仲間達もそれに賛同し、それぞれ自分達のライバルを倒す為、血の滲むような修行の日々が始まろうとしている・・・・
「よーし、みんな起きたか!?」
「OK!」
「バッチリ!」
朝4時、ルーク達はいつものように起床し、トレーニングの準備をしている。いつもならルイスとリンはやる気がなさそうな印象を出しているが、今回はやる気まんまんになっている。それもそのはず、二人もルークと同様、ライバルを必ず倒すと心に決めたのだ。故にだらけるはずもない。
だが、この場にいない男が、一人いた。
「それにしても・・・ロックの奴遅いな。」
「いつもなら、いの一番に来てるはずなのにね。」
ロックだけが来ていなかった。4人の中では特に怒りやすい男が来ていないというのはおかしな話だった。と、その時、上の階からメアリが血相を変えて降りてきた。
「メアリ、どうした?」
「み、みんな大変!!部屋が無くなってて書き置きがロックを持っていって荷物を・・・・!!」
メアリは気が動転しているようで、支離滅裂なことを話している。
「落ち着きなさい!話が飲み込めないぞ!」
「い、今部屋に行ったら、ロックの荷物が全部無くなってて、それでこの書き置きが・・・・!!」
メアリは気を落ち着かせつつ、ロックの部屋にあった書き置きをルークに手渡した。
「なんて書いてある。」
「・・・『俺はここを出る。俺はもっと強くなりたい。そのためには、ボクシングだけじゃ足りない。ありとあらゆる格闘技をマスターする必要がある。だから俺はここを出る。あばよ!帰って来た時にはもっと強くなってるからよ! ロック・オルグレン』・・・・」
「あのバカ・・・!!何考えてんのよ!」
「どうしよう・・・ロック、ここの生活が嫌になったのかなぁ・・・」
メアリは不安そうな表情を浮かべながら、瞳をウルウルさせ、今にも泣き出しそうになった。
「大丈夫さ。」
ルークは泣きそうになるメアリの頭を撫で宥めた。
「いいか?メアリ。男というのは、こんな風に人混みから離れて己というものを高める生き物なんだ。」
「そうなの?」
「そういうものだ。」
「僕、男だけど全然共感できないんですけど。」
そのころ、ルーク達から離れ、居場所を飛び出して行ったロックは一人、ニューヨークの街を彷徨っていた。
ロックの背には自分の部屋にあった私物が全部入ったリュックサックを背負っている。
「悪いな、みんな・・・・」
ロックは家のある方向を見ながら、ボソリと呟いた。そして、前を向き直し、歩き始めた。
(俺は、もっと強くなりてぇんだ!だから・・・あの人のところに行かなきゃならねぇ!!)
ロックは、強くなる為にある男が待つ場所へ向かっていた。
そしてたどり着いたのは、前にジャッジと戦った廃ビル。
「・・・で、俺を呼んだわけか?」
廃ビルの中には、ロックに呼び出されたジャッジがいた。ジャッジはロックに事情を聞いた上で、ロックに疑問をぶつけた。
「お前の自己満足の為に俺を巻き込むってわけか?」
「自己満足じゃねーよ!俺は本気で強くなりてーんだ!!」
「だったら自分のお師匠に頼めよ。ルークさんによ。あの人だって色んな技使えるだろ?」
「い、いや、それだけじゃダメっつーか・・・なんつーか・・・・」
ジャッジに痛いところを突かれ、ロックは戸惑ってしまった。そのロックの戸惑いに怒りを覚えたのか、ジャッジは腹に思い切り蹴りを入れた。
「ぐえっ!!」
「はっきり言え、ボケッ!!俺はウジウジしてるヤローは大ッ嫌いなんだよ!!」
「・・・・居づらいんだ。」
ロックは腹を抑え、うずくまりながら呟いた。
「ああっ?」
「・・・最近、俺のおっさんの側に居づらいんだ。おっさんだけじゃなくて、メアリとか、他の奴らの側に居づらい。『自分だけが弱いんじゃないか』、『自分が足手まといになってるんじゃないか』って、思ってきたんだ。王牙とかカスパール見てると、余計にそう思っちまって・・・・」
「・・・・」
「だから、このまま足手まといで終わるのは嫌なんだ!俺は強くなりたい!強くなって、みんなの役に立って、あいつらの側に居たいんだ!・・・何もなかった俺を変えてくれたのは、おっさんや、あいつらだから・・・・」
ロックは自分の正直な気持ちと、抱いていた不安を語ると、正座をし、両手を床につけた。
「勝手だと思うけど、俺、今のままで終わりたくないんだ!だからアンタが必要なんだ!アンタの戦いの技術が欲しいんだ!頼む!俺に教えてくれ!!」
ロックはそのまま頭を下げ、土下座を行った。
(土下座って・・・・どこで覚えたんだ?こいつ・・・・)
ロックの土下座を見て、ジャッジは呆れながらため息をついた。
「・・・・いくら持ってる?」
「は?」
「金だよ、金!」
「え、え~っと・・・・こんだけ。」
ロックは慌てて財布を取り出して中を覗き、ジャッジに手渡した。
「おーおー、物欲なさそうな奴は金持ってんな。大体・・・600ドル(約6万円)か。ちぃと安いが・・・・いいぜ。」
「えっ?」
「引き受けてやるよ。お前の依頼。」
「ほ、本当か!?」
ジャッジの一言に、ロックは目を見開き喜んだ。
「ただし、やるからには本気だ。途中で倒れても知らねぇからな。」
「おう!!」
「行くぞ、来い。」
(・・・俺も、ヤキが回ったか?)
ジャッジは自分自身の行動にも呆れながら、ロックを自分のアジトに連れて行った。
「ここだ。」
ジャッジについて来たロックがたどり着いたのは使われなくなった地下鉄の駅だった。
「経営難で減らされた駅の一つだ。見てろ。」
ジャッジは駅と地上を繋ぐ階段の裏側に回ると、すぐ側の壁を探り始めた。そして、壁のある部分を押すと、「カチッ」という音が鳴り、機械の駆動音が駅内に鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
ロックが驚いているのをよそに、ジャッジの前にあった壁が自動ドアの様に横に開いた。
「・・・・!!」
その光景を見たロックは面を喰らったようで、口を開いたまま唖然としていた。
「さっ、行くぞ。」
「ま、待てよ!」
ジャッジは壁の向こう側に進み、ロックは慌ててそれを追いかけた。ジャッジ達が中に入ったのを確認したかのように、壁は自動的に閉じた。
「・・・一体、どうなってんだ?ここ・・・・」
「これは偶然だが、この駅の隣は昔、戦争で使われた防空壕になっててな・・・俺はそれを改造してアジトにしたんだ。」
ジャッジが今いるこの場所についての解説をしながら通路を進むと、機械的な扉の前にさしかかった。
「ここがアジトの入口だ。」
ジャッジはそう言いながら、扉に近づき、マンションやアパートなどによくある覗き穴のような場所に顔を近づけ、右目を穴の位置に合わせた。
すると、扉から「ピーッ」という音が鳴り、扉が開いた。
「こ、これ、ドラマで見たことある!えーっと、なんだっけ・・・?そうだ!モンムス!!」
「・・・網膜認証な。面倒だから説明は省くぞ。」
「お、おう・・・!」
ロックは目の前で起きていることに理解できず、ワケが分からないまま、中へ入った。しかし、ロックは中に入ってさらに驚くことになる。
「な、なんだこりゃ!!?」
「いちいちうるせーな、てめぇは。」
ロックが驚くのも無理はなかった。ロックが想像していたアジトはもっと薄汚いものだとばかりだと思っていたが、目の前にあるのは綺麗に整っている部屋のような場所だった。塵や埃もない床、大画面のテレビにフカフカしてそうなソファがあるリビング、最新式冷蔵庫にIHのクッキングヒーター、壁には絵画が飾られ、最新型のクーラーまである。
「ア、アジトって、もっと汚い場所じゃねーのか?」
「先入観ばっか持つなよ。さーて、今日の仕事は1件だった・・・な!」
ジャッジは壁に飾ってある絵画に近づき、近くの壁をドン!と叩いた。すると、絵画がどんでん返しのように回転した。
「!?」
それを見たロックは驚いた。
「武器は何持ってくか・・・・」
回転した絵画の裏側にはありとあらゆる武器が置かれていた。拳銃にマシンガン、バズーカ、ライフル、グレネードランチャー、手榴弾といった銃火器、さらにはナイフや刀といった接近戦用の武器もある。
「!!?」
それを見たロックはさらに驚いた。
「場所は窓が少ない場所だからなー・・・スナイパーライフルはちと無理か。となると、中に侵入してからだからナイフとかが良さげか・・・うーん・・・・おい、ロック!お前はどう思う・・・・」
ジャッジは持っていく武器のことでロックに相談しようと後ろを向いた。だが、ロックは後ろで倒れ、うずくまっていた。
「何やってんだ、お前?」
「カ、カルチャーショックで・・・・!」
ロックは地上とこの地下のアジトとの違いと、今目の前で起きた現実にショックを覚え、思わず倒れてしまったのだ。
「オラ、お前のやりたがってた修行するぞ。立て。」
「はい・・・・」
ロックは思わず敬語で答え、立ち上がった。
二人が向かったのは風呂場の隣にあるトレーニングルーム。トレーニングルームもかなりの大きさで、学校の体育館と同じくらいの広さで、その周りにはトレーニング用の器具が置かれている。
「はえ~、こっちも広い・・・・」
「さて・・・と。」
ジャッジは黒のロングコートを脱ぎ捨て、その下に装備していた武器も全て外した。
「じゃ、来いよ。一発でも俺に当てたらもう卒業ってことにしといてやる。」
「ああっ?」
ジャッジの言葉に怒りを覚えたロックは拳を鳴らした。
「テメー、舐めんなよ!確かに俺はまだ弱いけど、お前に一発ぐらい当てられ・・・・!!」
ロックが話している隙を突き、ジャッジは素早く近づいて足を払う。
「おろ?」
油断しきっていたロックは、何をされたのか一瞬理解出来ず、体が宙に浮いた。
そこに、ジャッジがロックの顔面に右手を押しつけ、そのまま地面に叩きつけた。
「・・・・!!」
「はい、一本。」
先手を打たれたロックはただただ呆然と天井を見つめ、段々と怒りがこみ上げ・・・・
「この・・・やりやがったな!!」
ロックは怒りとともに起き上がり、すかさずジャッジに拳を繰り出す。
ジャッジはそれを受け流し、腕を掴み、ロックを背負い投げで投げ飛ばす。
「はい、二本。」
「く、くっそー!!もう一回だ!」
ロックはめげずに立ち上がる。
「怒りに身を任せるな。そういうのはバカがやることだ。」
「うるせぇ!!」
ジャッジのアドバイスを否定し、ロックは今度はルーク仕込みのボクシングで攻撃する。まずは右、左のジャブ。ジャッジはこれを受け流し、ロックの顔面に拳を叩きつける。
「クソッ!!」
ロックはさらに右フックを繰り出す。しかし、ジャッジはこれをよける。ロックの攻撃は空振りになる・・・・だが、これこそロックの狙いだった。
「もらったぁ!!」
フックを空振りしたと見せかけて一回転し、回転の反動を利用したストレートを放つ。
「どうよ!俺のカウン・・・ター・・・?」
ロックの攻撃は当たったかに見えた。だが、ジャッジは攻撃が当たる前に攻撃の軸をずらしてかわしていた。
「どこだカウンターだ、バカ。それに、チャンスがある時に声を大にして言うな、タコ。バレバレだろが。」
「くっ・・・!ぬぐっ・・・!」
間違っているところを指摘され、思わず顔を赤らめるロック。しかし、そんな暇はない、と言うかのようにジャッジはロックを投げ飛ばす。
「おわっ!!」
「よそ見すんな、ボケ!悔しがってる暇あるなら、さっさとかかってこい!」
「わ、わかってらぁ!!うおおおおおおおお!!」
それから1時間・・・・ロックは果敢にもジャッジに挑んでいったが、結果は言わずもがな・・・敗北。全敗。
「く、くそ・・・」
何度も何度も挑み続けたロックは、さすがに疲れ果て、その場に倒れた。
「お前は無駄な動きが多すぎる。確かお前、地下闘技場のチャンピオンだったんだって?地下の奴らはお前より弱かったんだな。」
「く、黒歴史だ・・・!思い出したくもねぇ・・・・!」
ジャッジに煽られ、ロックは地下闘技場で王様気分で偉ぶって自分より弱い者達を倒してきたことを思い出し、恥ずかしさから両手で顔を伏せた。今思えば、ロックが昔やっていたことは裸の王様に過ぎなかった。そこを指摘されれば恥ずかしくもなる。
「まっ、筋だけは良かったな。」
「えっ?」
「筋、だ・け・は。」
(嫌味言いやがって・・・・!)
ジャッジの嫌味に、ロックは悔しがり、歯ぎしりを立てた。
「おっ、ここに居たんスか。」
その時、トレーニングルームに黒のグラサンを掛けた長髪の男が入ってきた。
「あ?誰だこいつ?」
「それはこっちの台詞ッスよ。」
男はそう言ってグラサンを外した。グラサンを外すと、男がアジア系の男であることが分かる。
「こいつは情報屋の申 球遠。」
「どーも。気軽に『シン』でいいッスよ。」
「情報屋?」
ロックは聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「簡単に言うと、俺っちが手に入れた情報を、他人に売って金を稼ぐ仕事のことッス。」
シンの説明を理解し、ロックはうんうんと頷いた。
「で、この子は誰ッスか?新しい殺し屋ッスか?」
「んなワケねーだろ!俺はな・・・・」
「俺の新しいパシリ。」
「そうそう・・・・って、違ェよッ!!」
ロックは見事なまでのノリツッコミを繰り出した。
「ナーイス、ノリツッコミー!」
それを見て、シンは笑いながら拍手を送る。
「んなこたぁ、どうだっていい。シン、お前が来たってことはいい情報仕入れて来たんだろうな?」
「まっ、これによりますけどね♪」
シンはニッコリと笑うと、右手の親指と人さし指を合わせてサインを作った。それは「金」を示すサインだ。
それを見た途端、ジャッジは舌打ちを打った。
「・・・がめつい野郎だ。」
「これも俺の仕事ですから。」
ジャッジは渋々財布を取り出し、中から札束を取り出してシンに手渡した。
二人のやりとりを見て、ロックはあることに気がついた。シンの口調が変わっていたのだ。さっきまで「俺っち」や「ッス」といった、あからさまなキャラ付け・・・というよりは愚者を演じるような口調をしていたのに対し、今のシンは所謂、大人の雰囲気、大人の色気のようなものを感じさせた。シンの顔とルックスの良さからも、それが言える。
簡単に表すなら、真面目な時と普段の時とではギャップがある・・・・といえる。
「おー、今回は結構色ついてますねぇ。」
「今日は特別だ。オラ、金払ったんだから、早く情報寄こせ。」
「はいはい。」
「ロック、お前も来い。」
ロックとジャッジはシンからの情報を聞く為、リビングへ移動した。
リビングに移動し、ソファに座ると、シンは懐から写真を取り出した。
「こいつが今回のターゲット。「Dr.ウッド」、ジャッジさんが前に言ってた、アーツの持ち主で、樹木を自在に操る力があるそうです。」
「樹木?木なんて壊すの簡単だろ!殴ればすぐ折れるし、燃やせばすぐ無くなるぜ!」
ロックは得意気に語り、拳を突き出す。
「・・・そう簡単にいけばいいけどな。で、場所は?」
ジャッジがため息混じりで呟き、話を戻した。
「場所は街外れの病院。病院はとっくに廃業してて、廃墟になってます。そこを研究所を押っ立てて、怪しい研究をしてるらしいです。」
「なるほど。窓の数と周りに建物は?」
「窓は全部塞がれてて中の様子は分かりません。周りに病院より高い建物は無し。3km先に病院と同じ高さのビルがありますが、距離的にスナイプは無理ッスね。」
シンは自分が調べ上げた情報を伝えた。対し、ジャッジは頭を抱え、舌打ちを打った。
「正面から行くしかねぇか・・・・アイツが研究所に使ってる部屋は?」
「1階にデカイ講堂があって、そこを主に使ってるらしいです。後は3階と5階にも使ってる部屋があるみたいです。」
「1階、3階、5階か・・・・よし!作戦決まり!お前ら手伝え。」
「はぁ!?」
「俺っちもッスか?」
ジャッジの突然の一言に、二人は驚いた。
「当たり前だろうが。何の為にお前に高い金払ったと思ってんだ?」
「ああ・・・なるほど。そういうことッスか・・・・」
ジャッジの一言で、シンは先ほど金を受け取った時、妙に支払いに色がついていたのはこの為だったのかと理解し、苦笑いを浮かべた。
「ロック、お前は後ろで見てるだけでいいぞ。」
「ああっ!?手伝えって言った癖に、見てるだけでいいってどういうことだよ!?俺のことバカにして・・・・んがっ!!?」
ジャッジは文句を垂れるロックの脳天にチョップを繰り出した。
「うぬぼれんな、タコ。お前みたいな素人が俺らの仕事について行けるワケねーだろ。だから見て勉強しろって言ってんだ。」
「な、なんか納得いかねーけど・・・・分かったよ!」
ロックは嫌々ながらも賛同した。
そして、3人は準備を整え「Dr.ウッド」のいる病院へ向かったのだった。




