第25話「一時の勝利」
私の名はメフィスト。クリスマスパーティーの最中、プレゼントを取りに行ったルークは重傷を負った。その仇を討つ為、ロック、ルイス、ロバート、ジャッジ、銀髪クソ女は甲賀のアジトへ向かった。その間、私とメアリ、リンはルークの治療をしていたのだが・・・・
「パパ!パパ!!しっかりして!!」
『待て!下手に動かすな!』
「うううう・・・・!!や、やめろ・・・やめろぉ・・・・!!」
意識を失っているにも関わらず、ルークは苦しそうにうめき声を発した。
『どうしたというんだ・・・・?悪夢でも見ているのか!?』
「見て!パパの心拍数が・・・・!!」
ルークの体に繋がっている、心電図モニターに目を向けると、モニターに流れる波が異常なまでに増えていた。つまり、ルークの心拍と呼吸数が増大しているのだ。それに伴い、ルークの全身の血管が浮き上がり始めた。
「ウウウウウウウウッ・・・・・!!」
さらに獣のような唸り声を上げた。
『何か異常なことが起こっている・・・・!?』
「ど、どうしよう・・・・!?」
『とにかく、リンの奴を呼んでこい!!』
「う、うん!!」
メアリはリンを助けを求めるため、慌てて部屋を出て下の階へ降りた。
『・・・・さて・・・・』
状態を見るに、電気ショックは効果なさそうだ。しかし、ルークの奴は何を見ているのか・・・・
私はルークの身に何があったのかを不思議に思いながら、注射器を取り出した。中には紫色の液体が入っている。これは、先ほど私が地下で採取した自分の、悪魔の血液"デモンズ・ブラッド"だ。
人間に効果があるかはわからん・・・・こいつの異常が回復するか、それとも悪化するか・・・・
「ええい、ままよ!!」
迷っていても仕方がないと思った私はルークに注射器の針を私の血管に突き刺し、血液を注入し始めた。
「うっ・・・!!あっ・・・・・」
『じっとしてろよ・・・・』
血液を注入された瞬間、ルークは唸り声を上げなくなった。全身に浮かんだ血管も元の状態に戻り、心拍も正常になっていった。
『ふぅ・・・・』
ルークの容態が落ち着いてたのを見て、私はホッとため息をついた。
「ルークが変って本当!?」
その時、リンがドアを蹴破らん勢いで部屋に入ってきた。
『元々変人だ、コイツは。もう収まったぞ。』
私はそう言って、容態が落ち着いたルークをリンとメアリに見せた。
「よ・・・」
「よかった~~~~!」
二人は胸を撫で下ろし、その場に座り込んだ。
「スーー・・・スーー・・・・」
『ん?こいつ・・・・寝てるぞ。』
容態が落ち着いたルークは、いつの間にか眠りについていた。
「はぁ?人に心配かけといて・・・・」
「でも、よかった!パパが落ち着いたみたいで・・・・」
それにしても、ルークは夢の中で何を見たんだ?体に異常をきたすほどの悪夢・・・・一体どういうものなのだ?
そのころ、ロック達の方は・・・・
「ウオオオオオオオオオッ!!」
ロックは雄叫びを上げながら接近戦型のβ-1に攻撃を仕掛ける。だが、ひらりと攻撃をかわされ、後頭部に肘打ちを喰らった。
「がっ・・・・!!」
ロックは体を硬質化させていたが、後頭部に来た衝撃に頭がぐらついた。
β-1はその隙を突き、ロックの体に3発の拳を叩き込んだ。
「ぐ・・・・ぬあああああああっ!!」
ロックは体に強力な攻撃を受け、吹き飛ばされた。
「こ・・・の・・・・!なんで当たらねぇんだ・・・・!!」
ロックは自分の攻撃がβ-1に当たらず、四苦八苦していた。
「さぁ、こっちだこっち!」
レオナは中距離支援型のβ-3と対峙していたが、どういうわけか辺りをぐるぐる回ってるだけだった。
「っと・・・!しまった・・・・!」
あちこち動き回っている内に、倉庫の壁まで追いやられてしまった。
β-3はレオナを排除せんと、ジリジリと近づいてくる。
「ま、まずい・・・・って、なーんて!」
と、レオナが劣勢を演じてみせたその瞬間!
倉庫の窓ガラスが割れ、そこから一発の弾丸が飛び出し、β-3の額のド真ん中に直撃した。
「命中・・・・・」
今の一撃は、倉庫の外にあったもう一つの倉庫の屋根の上で待機していたジャッジによるものだった。ジャッジは後方支援の為にスナイパーライフルを持ち込んでいた。β-3に撃ち込んだのはその弾丸である。
「やった!」
レオナは弾丸の命中を見て、勝利を確信した。だが・・・・
『被弾・・・・損害、軽微・・・・』
β-3は起き上がった。なんと、ジャッジが放った弾丸は命中してはいたが、貫通せずめり込んだだけに終わった。
「そ、そんな・・・・」
「チッ、どんだけ頑丈なんだよ。」
レオナはもちろんのこと、ジャッジもライフルのスコープ越しに状況を見ていた。しかし、ジャッジに慌てている様子はない。
『新規目標・・・・発見・・・・ソチラノ排除ヲ優先・・・・』
β-3はブツブツと呟きながら、背中のハッチを開け、ブースターを露出させた。そして、ブースターで倉庫を飛び出し、ジャッジの目の前に現れた。
「!!」
β-3は間髪入れず、ジャッジに向かってマシンガンを放った。
「・・・・!!」
マシンガンの弾丸を胸に撃たれ、ジャッジは仰向けに倒れた。
『・・・ターゲットノ、生命反応探知中・・・・』
β-3はジャッジの生死を確認しようと、近づこうとし始めた。
その瞬間、ジャッジは倒れたまま右の太腿に形態していた拳銃を素早く抜き、β-3に放った。弾丸はβ-3の胸に命中した。
ジャッジは防弾チョッキを身に着けており、わざと弾丸を受け、倒れたフリをしつつ不意をつこうとしていたのだ。
『生存確認・・・・ターゲットの排除再開・・・・』
だが、β-3は無傷だった。先ほどのライフルの時と同様、装甲が少しめり込んだだけに終わった。ジャッジが撃ったのは通常の弾丸よりも威力があるマグナム弾。距離も近距離だったため、威力は高かった・・・・にも関わらず、β-3にはダメージがなかった。
「チッ、近距離射撃もダメか・・・・」
ジャッジはボソリと呟きながら、倒れたままの状態で跳び上がり、起き上がる。
「これじゃ作戦もクソもねーな。まぁいい・・・・来いよ、ブッ壊してやる。」
ジャッジはそう言って、拳銃を両手で持ち、銃口を向けた。
「雷光指弾!」
倉庫の中では、ロバートと遠距離型のβ-2が対峙していた。
ロバートは指から雷の弾丸を放つが、β-2はこれをよけ、マシンガンを放つ。ロバートは走ってこれをよけようとした。
と、その時・・・・
「"聖武装ナイツ・オブ・ラウンド"、第4形態『ガラハッド』!!」
レオナが目の前に現れ、錬金術で巨大な盾を創り出し、マシンガンを防御した。
「レオナちゃん!」
「手伝います!」
「ありがたい!・・・が、相手は遠距離だから、武が悪いな・・・・」
β-2は盾を破壊しようと、マシンガンを撃ち続けてくる。
「そうだ!レオナちゃん、私が盾を持って、君が弓矢を持てば防御しながら攻撃ができる!」
「それ無理です!」
ロバートの提案をレオナはすぐさま否定した。
「この”ナイツ・オブ・ラウンド”は私以外にしか使えないんです!」
「そんな・・・!」
二人が話している間、β-2はマシンガンが通じないと分かり、両腕のマシンガンを収納し、背中から2本のキャノン砲をせり出し、盾に向かってグレネード弾を発射した。
「うわっ!!」
盾にグレネード弾が命中し、爆発する。盾は壊れなかったが、爆風と衝撃によってレオナは後ろに後ずさる。
β-2はさらに続けてグレネード弾を発射してくる。
「これじゃ埒があかない・・・!」
「私が直接攻撃する!援護を頼む!」
ロバートはそう言ってβ-2に向かって走り出す。β-2はそれを見て、標準をロバートに変える。
「はい!"ナイツ・オブ・ラウンド"、第2形態『トリスタン』!」
レオナは盾を弓矢に変え、β-2に向かって光の矢を放つ。β-3はそれをマシンガンで打ち落とす。
「もらったァ!!稲妻雷撃蹴!!」
ロバートは右足に雷を纏った飛び蹴りを食らわせた。だが、β-2には通じなかった。
「電撃が通じない・・・!?」
ロバートは自分の電撃が効かないことに嘆きながらも、β-2と距離を取った。
「フッ、貴様の仲間はどうやら苦戦しているようだな。」
「また舐めた口聞いてくれちゃって・・・・とりあえずアンタは・・・・!僕との戦いに集中しな!!」
甲賀と対峙していたルイスは勢いよく足を振り上げ、ハイキックを繰り出す。しかし甲賀は足を掴んで蹴りを防ぎ、逆にルイスを宙へ投げた。
「くっ!!」
ルイスは宙返りしながら着地し、そのまま足払いを仕掛ける。甲賀はそれを宙へジャンプしてよける。
「ロバートさんの技の応用・・・!くらえ!!」
ルイスは甲賀が着地するタイミングを狙い、ロバートの「雷光指弾」のように両手の指から炎の弾丸を放った。
着地の瞬間を狙われた甲賀は、よける間もなく、腕を交差させて炎を受けた。
「着地を狙っての遠距離攻撃か・・・・戦い方として上等といったところか。」
甲賀は手甲を装備しており、それでダメージを軽減していた。
「ならば、こちらも・・・・修羅忍法!影舞の術!!」
甲賀は指で印を結び、呪文を唱えた。すると、甲賀の影が目の前に現れて分裂。数体に増え、ルイスに襲いかかる。
「バリアだ!」
ルイスは地面に拳を当て、地面から岩の壁を出現させる。しかし、甲賀の影はたやすくそれを破壊する。だが、壊れた岩の壁の裏にルイスはいなかった。
「何?」
「こっちだウスノロ!」
ルイスは甲賀の頭上にいた。
「なるほど、岩壁の裏に階段を作り、その上を駆け上って跳んだか・・・・」
甲賀はルイスが行ったであろう作戦を推測してみせた。
「その通り!!」
ルイスは右足の踵に岩の針を纏い、甲賀に向かって振り下ろす。
「甘い!」
甲賀は自分の影を操作し、ルイスの攻撃をよけ、その刃を向けた。
しかし、刃が当たった瞬間、ルイスの体は砂のように粉々に砕け散った。
「変わり身!?」
「フェイクだ!」
ルイスは甲賀の背後にいた。ルイスは腕を甲賀の首に回し、一気にしめ始めた。
「絞め技だと!?」
「僕が蹴り技だけの男だと思わないことだねッ!」
「チィッ・・・!シェイッ!!」
甲賀はルイスの腕を掴み、そのまま身を低くさせてルイスを投げ飛ばした。
「っと・・・!まだまだぁ・・・!」
(ちくしょう・・・!ちくしょう!ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!!なんで攻撃が当たらねぇんだ!?)
β-1と対峙しているロックは、今だに攻撃を与えられず、四苦八苦していた。ダメージも蓄積し、攻撃の空振りで体力も限界に近づいていた。
(このままじゃ不味い・・・・!こうなったら、当たるまでとことん・・・・!)
ロックは攻撃が当たるまで出し続けようと、β-1に向かって行こうとした。だが、その時・・・・
『ロック!』
「!」
頭の中にルークの声が響いた。
(い、今のは・・・?)
『ロック!いつも言っているだろう。無闇に攻撃するんじゃない。格闘家に大事なのは冷静さだ。』
ロックの頭に響いたルークの声は、前にロックがルークから教わった言葉だった。ロックは無意識の内に教わったことを思い出していたのだ。
その時、β-1がロックにとどめを刺そうと襲いかかってきた。
「!」
『敵の攻撃をかわすときはダッキングだ。』
「ダッキング・・・!」
ロックは思い出した通りに頭を素早く屈め、β-1の攻撃をかわした。
『一度攻撃をかわしたからと言って慌てるな。まずは攻撃をかわしながら相手の隙を伺え。』
(かわしながら・・・・!)
ロックはダッキングで次々と攻撃をかわしながら、β-1の隙を伺う。
『どんな相手でも、連続で攻撃を繰り出せば必ず隙が生じる。それを見つけたら・・・・』
(見つけたら・・・・!)
次の瞬間、ロックは攻撃をかわし、β-1の隙を見つけた。
『一気に叩き込め!』
(一気に叩き込む!!)
ロックは一瞬の隙を突き、β-1の顔面に拳を叩き込んだ。ロックの拳を喰らい、β-1のセンサーマスクが割れ、中のモノアイが露出した。
「やった!」
『マスク損壊・・・・頭部ノ損害、軽微・・・・』
マスクが破壊され、β-1は状況を分析している。
「遅いんだよ!」
β-1が分析している隙に、ロックはβ-1の頭を掴み、硬質化した頭で思い切り頭突きをかました。
「オラオラオラオラオラッ!!!どぉぉりゃああああああ!!!」
ロックはさらに頭突きを連続で繰り出し、最後に全力の頭突きを喰らわせた。
ロックの硬質化した体で繰り出される頭突きは出す際のスピードが合わさり、鉄球のような破壊力でβ-1の顔面を粉砕した。
モノアイは破壊され、頭部の内部メカが露出した。
『ガ・・・ガ・・・頭部、破損・・・・損害率、40%・・・・』
「俺とお前じゃ・・・・レベルが違うんだよッ!!!」
ロックは思い切り力を込め、頭部を損傷して状況を分析しているβ-1の頭部に拳をめり込ませた。ロックは拳を繰り出す際、回転を加えていた。その回転力とパンチのスピード、硬質化による硬度が合わさり、β-1の頭部は拳が当たった瞬間に首が千切れ、ボールのように飛んで行った。
頭部という司令塔を失ったβ-1の体はそのまま倒れた。
「よっしゃああああああ!!!」
β-1を倒し、ロックは勝利の雄叫びを上げた。
『攻撃、攻撃。』
「チッ!」
そのころ外ではジャッジとβ-3と対峙していた。β-3はマシンガンを乱射し、ジャッジは屋根の上を走り回りながらよけていく。
「シャッ!」
ジャッジは懐からナイフ5本ほど取り出し、投げる。しかしβ-3はそれをよけ、ナイフは屋根に突き刺さった。
次にジャッジはフックショットを取り出し、フックの真ん中に小さい円盤のようなものを取り付けた。それをβ-3の後ろ近くにある電柱に向けて発射し、フックは電柱に張り付いた。ジャッジはフックを利用して電柱に近づき、さらに足で電柱を蹴りβ-3に近づいた。
だが、β-3もバカではない。近づいて来たジャッジに拳を繰り出した。ジャッジはそれを受け流すようによけ、左肘をβ-3の関節とこすれるような形で突き出し、さらにすれ違い様に拳銃からマグナム弾を放ち牽制し、屋根に着地、前転してβ-3と距離を置く。
『・・・左腕部、関節部に異常・・・・』
「やっぱ機械だな。すぐ異常に気づきやがった。」
そう呟いたジャッジの左肘から、刃が服を貫いて飛び出していた。さらにβ-3の左腕の関節が斬られ、斬られたコードが露出していた。
あの一瞬、ジャッジが左肘を突き出したのはこの為だったのだ。
「ただ真正面から突っ込むんじゃ脳がねぇ。ありとあらゆる角度から攻めるのが俺のスタイルだ。・・・って言っても、お前にゃわかんねぇか。」
『腕部負傷・・・武器系統に異常発生・・・・』
β-3の言葉を察するに、ジャッジは肘に仕込んだ刃で関節のコードと一緒に武器を装備する回路と、それを脳へ伝達する回路のコードを切り裂いたようだ。これで左腕の武器は使えなくなったということだ。
「まず一つ・・・・と。」
β-3は左腕が使えないと分かると、右腕の武器に切り替えた。右腕のマシンガンをジャッジに向けて放つ。ジャッジはそれをよけながら突き進み・・・・β-3の懐に入った。懐に入ったと同時にβ-3の体を駆け上がり、β-3の腕に手を回し、さらに肩に足をかけ、そのまま無理矢理倒れさせ4の字固めを決めた。
「そらっ!」
さらにナイフを抜き、右腕の関節に突き刺した。これで右腕の武器を使えなくなった。
関節を破壊すると、ジャッジは腕から手を離し、同時にβ-3を蹴り飛ばして距離を取った。
両腕を実質破壊されたβ-3は脳内に搭載されているAIを駆使し、最適の攻撃手段を計算した。その攻撃手段は肉弾戦。それも足のみで。
「来いよ。」
ジャッジは手首を動かして挑発した。対し、β-3はジャッジに突っ込んで行った。決して挑発に乗ったワケではない。目の前にいる敵を排除する・・・・脳内に刻まれたその指令を全うせんとするロボットとして、機械としての本能だった。だが、その本能もすぐ消えることになる。
『!』
その時、β-3の体は突然動かなくなった。
「かかったな・・・・木偶の坊。」
動けなくなったβ-3の体をよく見てみると、体のあちこちにピアノ線が絡まっていた。そのピアノ線は複数あり、屋根に突き刺さったナイフ、電柱に張り付いた小さい円盤、そしてジャッジの靴裏に仕込まれたワイヤー・・・・計7本。しかも電柱に張り付いた円盤もピアノ線のリールになっている。
「ハナからお前と正面からやり合うつもりなんかねーんだよ。ナイフやフックショットは囮で、本命はピアノ線での捕縛だ。このピアノ線と、靴の裏のワイヤーは特別製でな。蜘蛛の糸とアラミド繊維を合わせて作った物だ。蜘蛛の糸のような頑丈さと目にも見えない細さのピアノ線・・・・それを使った罠に見事にはまってくれたおかげで、楽に勝てたぜ。」
『腕部、脚部、頭部、胸部・・・・動作不能・・・・ピアノ線ニヨル捕縛、脱出成功率7%・・・』
状況を解説するβ-3をよそに、ジャッジは服の内側から手榴弾を4個ほど取り出した。
「4は不吉ってな・・・・次は頭脳も完璧なロボットになって出直しな。」
ジャッジはそう言うと、β-3に向かって手榴弾を全て投げた。
『敗北率・・・・キュウ・・・ジュウ・・・・』
その瞬間、手榴弾が爆発しβ-3は爆発に飲み込まれ爆散した。
その様子を背に、ジャッジはマスクの口元を露出させ、タバコを吸い始めた。
「フゥ・・・・」
「今の爆発音・・・・ジャッジさん、やったのか!?」
「なら、私達もモタモタしてられませんね!」
倉庫の中ではβ-2とロバート、レオナが対峙している。レオナは鉄の弓の弦を引き、光の矢を放つ。
しかし、β-2はマシンガンでそれを撃ち落とした。
「レオナちゃん、こいつを拘束できるものはあるか!?」
「それなら・・・・!第5形態『アグラヴェイン』!!」
レオナは手の甲の魔方陣で鉄の弓を長い鉄の鎖分銅に変え、投げてβ-2の腕に絡ませた。
「やった!」
「今だ!正中線雷光突き!!」
次の瞬間、ロバートは両手両足に雷を纏い、目にも止まらぬ速さで眉間から股間にまで渡る線「正中線」に拳を叩きつけた。
鋭い突きを喰らい、β-2はよろめいた。だが、ダメージは無かった。
「これもダメか・・・・!」
すると、β-2は床に一歩踏み込み、力を入れて鎖ごとレオナを投げつけた。
「ちょっ、うわっ!!」
「レオナちゃ・・・うわっ!!」
さらにβ-2はレオナを投げ飛ばしたと同時にロバートを蹴り飛ばした。
投げ飛ばされたレオナは鎖を天井の照明に巻き付け、床に着地した。ロバートも蹴られながらも転がりながら起き上がった。
「固い上に雷も効かないのか・・・!」
その時、β-2が胸の装甲を開いた。
「あ、あいつ、またあのレーザーを撃つつもりですよ!?」
「レーザー・・・・?そうか、その手があったか!!」
β-2が装甲を開いたのを見て、ロバートはある策を思いついた。
「レオナちゃん!足には自信ある?」
「足・・・ですか?常人よりは速いとは思いますけど・・・・」
「奴をとにかく撹乱させてくれ!私に考えがある!」
「わかりました!それなら・・・・第6形態『ベイリン』!!」
レオナは手の甲の魔法陣で鉄の鎖を双剣へと変えた。それを手にした途端、レオナは走り出した。それを見て、β-2はマシンガンを乱射する。レオナは攻撃をよけ、β-2に近づき、すれ違い様に双剣を振るう。
「チッ、ダメか・・・・」
『腕部損傷、損害軽微・・・レーザー砲チャージ開始。』
β-2の腕に少し傷がついただけに終わり、レオナは再び走り出した。体を鍛えてあるだけあって、中々に足が速い。マシンガンによる攻撃を次々とよけていく。かわし、合間を縫っては攻撃を加えていくが、これといったダメージを与えられていなかった。
「そこだ!」
レオナは再びすれ違い様に、今度は足に攻撃する。だが、今度もダメージが無かった。
『・・・・レーザー砲ノチャージ完了。コレヨリ、生体反応ノアル敵ヲ一斉排除。』
β-2はレーザー砲のチャージを完了した。
と、その時だった!
「今だ!」
ロバートは素早く今にもレーザーを放とうとするβ-2の懐に飛び込んだ。
「雷撃出力最大!!」
ロバートは自身のアーツである"雷"のアーツの力を最大限まで引き出し、全身に雷を纏った。さらに、それを両拳に集中させる。
「ハァァァァ・・・・チェストォォォォォォォ!!」
ロバートは雄叫びを上げ、β-2の体の内部ともいえるレーザーの発射口に正拳の連打を浴びせていく。
『ダメージ・・・量、増加・・・・損傷率・・・・』
「歯ァ食いしばれぇぇぇぇ!!」
最後の一発に、思い切りβ-2をぶん殴った。β-2は殴られた箇所から煙を吐き出し、体から火花を出しながら床に倒れ、そのまま動かなくなった。
「か、勝った・・・・!」
「ロバートさん、凄いです!」
レオナはロバートの技を見て感動し、すぐさま走り寄った。
「今の技、名前何て言うんですか!?」
「え、な、名前?」
レオナは目をキラキラと輝かせながらロバートに問う。すごい技だからさぞかし格好いい技名・・・そう思っているのだろう。
「えっと・・・・ら、『雷太鼓』・・・・?」
「なんで『?』ついてるんですか?ってか、名前ダサッ!」
「言わないで・・・・」
とにもかくにも、こうしてロック達はロボット、βシリーズを倒すことに成功した。
「むぅ・・・ロボット達がやられたか・・・・!」
「へへーん、形勢逆転って奴だね♪さぁ、どうするよ?」
ルイスは指を鳴らし、甲賀を挑発した。
それと同時に、βシリーズを倒したロック達がルイスの元に集まった。
「おっさんの仇だ!半殺しじゃ済まさねーぜ!」
ロックは甲賀を睨みつけ、拳を鳴らした。
「あの人のことは一応尊敬してるんでな。仇討ちくらいはさせてもらうぜ。」
ジャッジは懐からサブマシンガンを取りだし、銃口を甲賀に向けた。
「私の道を変えてくれたのはあの人のおかげでもある!貴様がやった行為は許さん!!」
ロバートも甲賀を睨みながら、両手を広げて雷を溜める。
「あの人は将来、私の御父・・・・じゃなくて、親友の親を傷つけられて、黙って見てるわけにもいかないのでな!」
レオナは何か妙なことを言いながらも、槍を構え、同じく甲賀を睨みつけた。
「・・・寄せ集め如きが・・・・!この俺に勝てると思うな!!」
甲賀はその叫びとともに、背中に差している忍者刀に手を掛けた。ロック達もそれに応じて身構えた。
今にも戦闘が始まりそうな一触即発な空気に包まれ始めたその時だった。
「ハーイハイ!ストーップ!そこでストーップ!」
そこに、まるで映画監督のような口ぶりの男の声が倉庫内に響いた。ロック達と甲賀はその声が聞こえた方向に顔を向けた。すると、そこには奴が、スポンサーが立っていた。
「て、てめぇはスポンサー!」
「貴様・・・!どういうつもりだ!」
スポンサーによるいきなりの静止を受け、甲賀は怒りを露わにし、スポンサーに近づいた。
「いやいやいや・・・・そいつはこっちの台詞だぜ?勝手に命令を無視して、勝手な行動をされちゃあ・・・こっちは良い迷惑だ。」
「黙れ!」
甲賀は背中の忍者刀を抜き、スポンサーに突き立てた。
「貴様は何故こうも場を冷ますことをする!?俺に対する嫌がらせのつもりか!?」
「ハハッ・・・なーに、そんな子どもじみた理由じゃないさ。アンタらやヒーロー達の存在を含め、アンタらは俺の大事な商品だ。商品の品質管理はしておかないといけないからな!それに・・・・王牙の旦那、カンカンだったぜ?」
「・・・・ッ!!」
スポンサーの一言に、甲賀は青冷めた。元々、甲賀は私利的な理由でルークを襲った。しかも「クリスマスが終わるまで手を出さない」という約束まで破ったのだ。さらに様子を察するに、甲賀は王牙には黙って出てきたようだった。
「わかった・・・・!ここは退く・・・・!」
「よーし、イイ子だ。さっ、帰るか。」
甲賀は王牙の怒りを恐れ、王牙達のいるアジトへ戻ることにした。だが、当然納得がいかない者が出てくる。それはロック達だ。
「おい!逃げる気かよ、てめぇ!!」
「逃げるのではない!これは主の命だ!主が『戻れ』と言ったのなら、俺は戻らねばならんのだ!」
「じゃーな、ヒーローさん達♪そろそろ戻りな。もしかしたら、リーダーさんの怪我も治ってるかもしれないぜ?」
甲賀とスポンサーは捨て台詞を吐き、その場を立ち去って行った。
「おっさんの怪我が治ってる・・・?なんでアイツがそんなこと知ってんだ?」
「とにかく、急いで戻ろう!」
スポンサーの一言に、不安に駆られたロック達は急いで事務所へと戻った。
「あっ、おかえり。今ね・・・・」
ロック達は事務所へ帰るなり、メアリの話も聞かずに3階のルークの部屋へ直行した。
「おっさーーーーん!!大丈夫かーーーーー!!?」
ロックは部屋のドアを蹴破った。
「あっ、おかえり。」
部屋にいたルークは既に目を覚ましており、リン手製の中華がゆを食べていた。
「あ、あれ・・・・?」
『30分前に目を覚ましたんだ。怪我も治ってる。』
「な、なんだ・・・・良かった~~!」
ルークの安否を聞き、ロック達は安心からかその場に崩れ、腰を下ろした。
「すまなかったな、みんな・・・・でも、もう大丈夫だ!私はこの通りぴんぴんしてるぞ!食欲だってある!リン、おかゆのおかわりだ!」
「はいはい・・・・」
リンはため息混じりに笑いながら椀を受け取った。
「ジャッジ、レオナ、ロバート、君達にも迷惑を掛けてしまったな。」
「いえ!迷惑なんてそんな・・・・!」
「御父様に対してできることは、これぐらいです。」
「まっ、頼りにされるのも困るけどな。」
ジャッジはそう言うと、窓ガラスをガラッと開けた。
「じゃ、俺帰るわ。後で料金請求するからな。」
「それはいいが、出来れば玄関から出てってくんないかな・・・・」
ジャッジはルークの願いを聞かず、そのまま窓から飛び降り、事務所を立ち去った。
「・・・・ジャッジ、彼は何を考えているのかさっぱり分からないな・・・・それより、ロック、ルイス、リン。」
ルークは少し間を置きつつ、ロック達の名を呼んだ。
「私が大怪我をしたとき、君達はかなり怒ってたそうだが・・・・」
「当たり前だろうが!」
その時、突然ロックがルークの一言に反応し、怒声を上げた。
「リーダーがやられて、『はい、そーですか』って言う奴がいるかよ!?しかも、俺達には目もくれずに真っ先にリーダーへ向かって来るところが腹立つんだよ!真っ先にリーダーを襲うってことは、『他の奴らはクソ弱いから無視しても平気』ってことだろ!?ふざけやがって!」
『なるほど、そういう解釈もあるか。』
私のロックの言い分に納得した。頭の悪いロックにしては珍しくいい解釈をしたからだ。チームリーダーを狙い、チームを無力化することは定石だが、それは裏を返せば「リーダー以外は雑魚同然」とも言えるからだ。
「それにね、あいつらに舐められたっていうのは超腹立つんだよ!僕達のメンツとしてもね!それとも何か!?僕達はリーダーを守れないような雑魚だって言いたいワケ!?」
「あー、思い出したら胸糞悪くなってきたわ!サンドバックに蹴りで穴開けてやる!」
「はぁ・・・・」
甲賀と他のメンバーに怒りを募らせるロック達を見て、ルークはため息をつきながら、フッと笑った。
(いい仲間達だ・・・・)
ルークには分かっていた。ロック達が自分とチームの為に戦い、仇を取ろうとしたことを。この3人はあまりそういった仲間想いなおところは表に出さないが、今回の件でかなりそれを表に出した。それがルークにとって嬉しかったのだ。
その喜びを噛み締めながら、ルークは中華がゆを頬張ったのだった。




