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お隣の吸血鬼は俺の血が欲しいだけ~毎日お世話をされて、時々血を吸われるお隣生活~  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中


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第13話 邪な理由でいいんですか?

 学園長室の前まで到着した俺は、緊張を遠ざけるべく深呼吸を一つ挟んでから扉をノックする。


「二年一組、遠坂灯里です」

「入りたまえ」


 呼びかけへの返答は早かった。

 穏やかな男性の声の後、扉を開けて中へ。


 執務机で座っていたのは学園長であり早夜月の父こと早夜月誠一。

 スーツの似合う大人の男性といった風貌で、俺の来訪を心待ちにしていたかのように立ち上がる。


「いきなり呼び出してすまないね。待っていたよ、遠坂灯里くん。お父上……大和は元気にしているかい? 年中元気過ぎるあいつ(・・・)には不要な心配かもしれないけどね」

「おや……父のことをご存じなのですか?」

「大学時代の同期でね。以来、仲良くさせてもらっているよ。幼い頃にも会ったことがあるんだけれど、その様子だと覚えていなさそうだね」


 衝撃の事実に驚きつつ記憶を漁るも、思い出せない。

 本当なら、その時に俺は早夜月と会っていてもおかしくない。


「すみません、覚えていません」

「気にしなくていいよ。ただの確認だからね。それにしても立派になった。大和も鼻が高いだろう」

「……そうですかね。特別褒められるようなことは何もしてません。成績も平凡ですし、部活も帰宅部。課外活動で目立った功績があるわけでもないです」

「困っている人へ手を差し伸べるのは、簡単に出来ることではないと思うよ。事情が事情なら特に、ね」


 意味深な言葉でも、困っている人が指し示す相手だけはよくわかった。


 わかってはいたけど、呼び出されたのは早夜月の話をするためらしい。


「とりあえずかけたまえ。コーヒーは飲めるかい?」

「えっと、はい」


 学園長に給仕の真似事をさせていいものかと迷ったが、ここは大人しくしておこうとソファーに座って待つ。

 しばらくすると対面のソファーに学園長が座り、コーヒーのカップがテーブルに二つ置かれた。


「コーヒーを飲めるか聞いておきながら、僕はブラックどころかカフェオレくらいの甘さでないと飲めなくてね。ミルクと砂糖は多めに常備してあるから、好きなだけ使うといい」


 俺に勧めつつ、マイルドな色合いになるまでミルクと砂糖を入れる学園長。

 俺も砂糖とミルクを少しずつもらい、一口。


「――さて、と。灯里くんを呼び出したのは他でもない、うちの娘……乃蒼の件で話しておきたいことがあるからだ」


 きたか。

 意識せずとも緊張を感じて身体が強張る。


「先に言っておくと、僕には灯里くんを責めたり咎める気は一切ない。むしろ、心の底から感謝している。きみがいなければ乃蒼は取り返しのつかないことになっていた」

「俺が早夜月を助けたのは偶然で、それは俺じゃなくてもよかったはずです」

「偶然だったとしても、きみの選択が娘を救ったのは事実だ。その後、被害を訴えることも出来た。初回の吸血は娘の吸血衝動に巻き込まれた形だろう? 事情を知っていれば娘が絶対に悪いと判断がつく。それでも娘の頼みを聞き入れてくれたのは、きみが優しいからさ」


 果たして、本当にそうだろうか。


 実のところ、俺は今だに早夜月を拒絶しなかった理由を自覚していない。


 これまでの学校生活で培った早夜月への信頼と誠意に感化されたのか、はたまた継続的に吸血させる対価に惹かれたのか。

 早夜月くらいの美少女に自分を好きにしていいと言われれば、恋愛的に興味がなくとも心は揺れてしまうもの。

 こればかりは男の悲しい性で、どうしようもない。


 だから、一連の流れが穏当に収束したことへ優しいと評価されても素直に受け入れられなかったりする。


「普通なら吸血に忌避感を抱いてもおかしくはない。ましてや首筋に直接噛みつかれるなんて、恐怖以外の何物でもないだろう? 吸血時に快楽物質の分泌があるとはいえ錯覚に過ぎないからね」

「……異論はないんですけど、一番怖かったのって早夜月自身だと思うんですよ」

「…………ふむ? 続けたまえ」

「普段の早夜月を見ていて、他人を傷つけられる性格じゃないことくらいはわかります。なのに自分の意思ではどうにもできない吸血衝動で傷つけたら、酷く動揺してもおかしくない。そんな人間を見て見ぬふりは出来なかった……そんなところです」


 やっとの思いで言語化し、やはり自分が優しいわけではなかったのだと思う。


 これは単なる自己満足。


 自分の気分を害さないために早夜月の罪悪感を利用しただけに過ぎない。


「きみがそう思うのはきみの勝手だ。けれど、それで娘は助かった。救われたんだ。だから僕は君の行動を称賛しよう。たとえどんな邪な理由があったとしても、ね」

「邪な理由でいいんですか?」

「単なる言葉の綾だけど、本当に邪な考えを持っていたら娘は心を開かない。そのあたりの感覚は信頼しているつもりだし、なによりきみは大和の息子だ。幼い頃の様子も知っていたし、今日会って話して善良なままだとわかった」

「…………」


 学園長からの評価を否定する気にはなれなかった。


 彼の浮べる表情が、心底安心したものだったから。


「僕は期待しているんだ、娘がこれまでより少しでも楽しい生活が送れることを」

「……だから隣部屋に引っ越すのも許可したと?」

「理由の一つではあるね。一番の要因は隣部屋の方が吸血やその後(・・・)についても問題が起こりにくいと判断したからさ。ああ、もし娘とそうなっても(・・・・・・)問題はないとだけ言っておくよ」


 当然、学園長も吸血の副作用は知っているだろう。

 なのにそんなことを言われれば、ぎょっとしてしまうのも仕方ない。


「…………父親的にそれでいいんです?」

「吸血の副作用は強烈で、とても抗える物じゃない。普段は血を吸うだけの吸血で済ませられるだろうけど、もし吸血衝動が起こったらその限りではない。それできみに責任を負わせるのはお門違いというものだろう?」

「だとしても、ほら、高校生の貞操観念的にどうなのかと」

「娘には手を出すほどの魅力はないかい?」


 なんてことを直接聞くんだ。


 盛大に表情を引きつらせながらも、答えていいものかと迷って視線を逸らす。


「すまないね、答えにくいことだった。しかし、それくらいの役得はお目こぼしするつもりでいるし、後のことは早夜月がどうにでも出来る。だからきみは憂いなく娘の傍にいてあげて欲しい。これは父親としての望みであり、願いなんだ。身勝手なのは自覚しているけどね」


 言葉の端々に滲むのは、娘への愛ゆえに。


「――おっと、もうこんな時間か。授業は始まっているけれど担当の教師には僕から話を通すから心配しなくていい。折角だからキリのいい時間まで話し相手になってくれないかな。きみと過ごす娘のことも聞かせてもらいたいし」

「……大層なことはしてませんけど、それくらいなら」

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