第25話 魔力0の大賢者、による虫撃退法
前回のあらすじ
お粥をガーランド将軍が涙ながらに食べた。
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舞踏会もそろそろ終わりが近づいてきた。踊っている人の数も減ってきたし、奏でられる音楽もまったりしたものだ。
そしてこのあたりから今宵の勝者と敗者の構図がはっきりし始める。いや、勿論それは男と女の関係のみに絞った場合だけどね。
それは壁の花となってしまっている女性だったり、反対に見事貴人のハートを射止めてカップルが成立し、何か甘い言葉を囁きあっていたり。
まぁ僕はまだまだ子どもだから関係ないけどね。精々前世の嫌な記憶がよみがえるだけさ。うぅ……。
「お兄様どうされたのですか?」
「いや、モテなかった頃の記憶が……」
「え? モテない、ですか?」
は! しまった、つい心の声が!
「いや、ほら、僕なんかじゃ将来誰にも相手されないかもと心配になっちゃって」
「そんな心配不要です! お兄様には私がついてますから!」
うん、そこで張り切られたとしても、ラーサは妹だからね……可愛いけど、血がつながってるし!
「……私もいる」
そんなこと思っていたら、近くにいたアイラが囁くように言ってくれた。きっと僕に気を遣ってくれたんだろうな~。
「ふむ、どうやらアイラも気に入っているようだし、どうかな? この際うちの孫と大賢者マゼルで婚約させては?」
「なんと! それはとても光栄なことではありますが」
「いやいやいやいや! そんな重要なこと物のついでにみたいに決めたら駄目だってば! それにこういうのは本人の気持ちが大事だし!」
「……私なら構わない」
「そうですお父様! お、お兄様にそんな婚約だなんてまだ早すぎます!」
うんうんそのとおりだよ。ラーサの言う通り。大体アイラだって気を遣ってくれてるだけなんだから。
「ふむ、婚約の話はひとまず置いておくとして、今宵の米料理は本当に見事であった。オムス殿下もすっかり米を気に入っており、これであれば公国との米取引も前向きに検討して頂けそうだ」
「いや、そう言って頂けると」
「しかし、その取引、本当にローラン卿に任せてしまって大丈夫でしたかな?」
ここでまた出てきたよ。ワグナー伯爵家が。何かこの親子、うちのことやたら目の敵にしてないだろうか?
「まだ何かありましたかな? 米の美味しさは、先程ワグナー卿にもご理解出来たかと思われますが?」
父様も流石に辟易といった様子だ。そして父様のいうように、さっきまでガーランド将軍と揃ってお粥をがっついていた。あれだけ食べたのだから、今更味に文句などつけようがないと思うんだけど。
「勿論、私たちもあの味には納得した。米は十分勝負になる品物と思う」
「それならば……」
「しかし、だからこそ不安なのですよ。本当に貴方の領内で生産が追いつくのかと」
「む、生産ですか?」
父様が若干渋い顔を見せた。するとワグナーがニヤリとした笑みを浮かべ。
「どうやら心当たりがあるようですな。ナムライ侯、これは私も小耳に挟んだことなのですが、どうもローレン伯の領内では畑が魔物に襲われる被害が多発しているようなのです」
「ふむ、魔物とな」
アザーズ様の関心がワグナーに向いてしまった。う~ん、確かに2年前、畑がグリーンウルフに荒らされる被害があって、その時は僕が森のデススパイダーを退治したりして難を逃れたんだけど、ここ最近も蟲系の魔物がよく出るようになってたんだよね。
う~ん、でもその件は……。
「どうなのかな? ローラン卿」
「はい、確かに魔物の被害はありました」
「ふ、やはりな。しかしいけませんなぁ。そのような大事なことを黙っておられていては。そうは思いませぬかナムライ侯」
「う~む」
アザーズ様が懸念を示す。確かに米のいい点だけアピールして現況の問題点を黙っていたらいい気分はしないかもだけど。
「お待ち下さい。確かに最近は虫系の魔物に畑が狙われていたのも確かです。しかし、それはもう大賢者マゼルの魔法によって解決しております」
「なに、それは本当かね?」
「はい、勿論! 我が息子ならこの程度朝飯前です!」
「……流石大賢者マゼル」
「はい、お兄様の魔法はどのような問題でもたちどころに解決してしまいます」
「いやいや! 父様それは語弊があります。私がやってみせたのは魔法ではありませんし」
「魔法ではない?」
アザーズ様の注意が僕に向けられた。魔法でないという点に興味を持ってくれたようだ。
「はい、その時、私が行ったのは道具、正確には特定の植物や枝を利用したものです」
「ほう、それで一体なにをしたのかな?」
「そこまで大したものではありません。自然界には燃やすと虫が忌避する匂いを含んだ煙を発生する植物が存在します。枝もその一つです。それを利用して殺虫剤として利用したまでです」
「くっ……そんなものが――」
ここまでの話を聞いてワグナーが悔しそうな顔を見せた。
「なるほど、魔法に頼らず虫を撃退か」
「はい。我が息子はこれで知識も大賢者と変わりないと思っております」
いやいや、父様はいつもいつも大賢者を全面に出しすぎ!
「しかし、虫と言っても相手は魔物であろう? そのような物が効くのかね?」
「はい。逆に言えばたとえ魔物と言えど、虫と性質は同じということでもあります。勿論大きさなども違いますから量の調整は必要ですが、十分対処出来る程度ですので」
「うむ、大賢者マゼルの知略によって、虫の被害は大幅に減ったのです。おかげ様で現在は生産量に大きな影響はございません」
「なるほど。いやしかし素晴らしい息子さんだ。正直言うと、あの魔法を見た時、確かに凄いとは思ったが、これでは大賢者におんぶに抱っこになってしまうのでは? と懸念を抱いていた。だが、魔法以外にもこれだけの手が生み出せるとあればそれも杞憂であったな」
「はは、言われていることもよくわかります。虫の問題も最初は息子が得意の魔法を駆使して撃退してましたが、このままではいけないといい出しましてな」
それも、実際は魔法なんて使ってないんだけどね。それはそれとしても、僕が一人で対処しようとしても限界があるからね。
「そこで大賢者の知識でこの方法を編み出し、そして領内の村々に教えて回ったのですよ。おかげさまで息子が自ら出向かなくても虫の魔物を村単位で追い払えるようになったのです」
「うむ、それは素晴らしい。知識は授けるが後のことは教えた本人に任せる。そうすることで知識が伝わり広まり、結果的に魔法より高い効果を生み出したというわけだ」
何かやたらと持ち上げられている気がする。正直僕も昔の知識を引っ張り出してきただけで、僕自身の成果ってわけでもないのだけどね。
「ふむ、しかし、それであれば特に問題ないかと思われますが如何ですかなワグナー卿」
「む、むぅ……」
ワグナーが言葉に詰まっている。どうやら魔物の被害を理由に米への不安を煽ろうとしたみたいだけど、その問題は解決しているからね。それにしても、うちの領地の事情なんてよく知ってたよね。
「……あの馬鹿、肝心なことを……」
「うん、何か言われましたかな?」
「い、いやなんでもない! その、しかしですなその……」
遂にしどろもどろになってきたな。問題ないならもう素直に引き下がればいいのに。
「正直私には不安がありますな」
「え? ガーランド侯?」
だけど、そこに割って入ってきたのは、僕の料理で涙を流したガーランド将軍だ。う~んそれにしてもワグナーが出てくるとこの人も一緒になってやってくるね。
「やれやれガーランド卿もですか? しかし貴方は先程涙を流すぐらいに米を称賛していたではありませんか」
「そ、それは、まぁ、だから米には問題ない。だがな、どうにもローラン卿は色々とトラブルに巻き込まれやすいようであるしな。ここまで来る途中にも、山賊に襲われたと言うし」
「山賊ですか。災難でしたね」
「えぇ、確かにそうですが、しかしガーランド侯はよくそれがわかりましたな」
「な、わ、私はこれで耳が早いのでな!」
確かに情報を集めるのが早いね。父様は山賊の件を特にどこかで話した様子もないし。もしかしてあの男爵から聞いたのかな? 実際被害にあって困ってたのはあの人だし。
「しかし、山賊どもは見事大賢者マゼルの手で倒されました。そこまで問題でしょうかな?」
「確かに、旅をしていれば魔物や賊に襲われるのは珍しくありませんね」
ライス様がフォローに回ってくれた。これに関しては実際そのとおりだよね。
「確かにそれも間違いではない。しかし、より危険が少ないことに越したことはない。それも事実であろう? 米の輸出は国としても重要な案件だ。そこにわずかでも綻びがあってはいけない」
「ふむ、それでは国から直接冒険者の護衛でもつけさせますか?」
「それでは費用が掛かりすぎるであろう。得策とは言えませんな」
「では、どうしたらよいと?」
「何、難しい話ではない。ようは米を運搬する上でより危険の少ない場所で生産すればよいのだ。例えばこのワグナー伯爵領などでな」
え? これはまた、妙な話になってきたぞ……。
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