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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第一章 幼年編

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第112話 魔力0の大賢者、ともっといたい姫様

sideアリエル


 お兄様と大賢者マゼルの魔法戦はありえないぐらいに凄かったのです。私はそれを直に目にしてすごく感動しました。


 そして、マゼルのことも益々気になっちゃいました。出来ればもっとマゼルと話したい……でもマゼルは今日領地に戻ってしまいます。


 そしたら暫く会えないんだよね……ありえない、でもありえる――


「もっと気軽に会えたらいいのに……」

「ちゅ~……」

「ファンファンも寂しい?」

「ちゅっ! ちゅ~――」

「そうだよねぇ……」

 

 マゼルにはファンファンも凄く懐いていたから、やっぱり離れるのは寂しそう――あ! そうだ!


「こうなったらマゼルの馬車にこっそり忍び込んで一緒に……」

「そこまで大賢者様のことを慕っているのですか?」

「え? あ! いつから!?」

「ちゅ~」


 いつも私の身の回りのお世話をしてくれているメイドがそこに立っていました。び、びっくりした。


「先程から……失礼致しますと声を掛けたらどうぞと姫様が言ってこられましたので――」


 そ、そうだったんだ……ありえるわね! だって、マゼルのことで頭が一杯だったから――


「ですが、その望み、宜しければお手伝い致しましょうか?」

「え? それって……」

「大賢者様の馬車にこっそり忍び込むという話です。私、姫様のそのような顔を初めて見ました。恋は人を変えますね」

「こ、恋!? そ、そんな私は、あ、ありえ、ありえ……」

「ありえます!」


 メイドにハッキリと言われて頬が凄く熱くなった。うぅ、確かにマゼルのことを考えると胸がざわざわするけどぉ、それが恋かどうかなんてまだよくわからない。


 でも、馬車に忍び込めば、暫くは一緒にいられるかな?


「で、でもお手伝いってどうやって?」

「はい、そこは私もここで長年仕える身ですから、色々と手はあるのです。少しお待ちいただけますか? 直ちに準備してまいりますので」


 そういって彼女は部屋を出ていきました。優秀なメイドで私も凄く信頼をおいている彼女なら、なんとかしてくれるかもしれないのです。


 そして間もなくして彼女が部屋に戻ってきました。その手で大きな籠を押しながら。


「これは、洗濯物を入れる?」

「はい、ですが姫様であればこの籠に入って移動が出来ます」


 あ、そうか。宮殿では洗濯物が多く出るのでこういった車輪のついた籠で洗濯物を入れて移動する。結構大きなもので、それに見苦しくならないよう蓋もついているのです。

 

 確かにこれなら見つからずに移動が出来るけど――


「でも、これで馬車まではいけなさそうな……ありえる?」

「ありえます。その手筈は整っていますので。ただ、急ぐ必要があります。今の時間を逃すと不自然に思われるので」


 確かにこの時間なら洗濯物を入れる籠で移動していても不自然ではないのです。王家に仕えるメイドや従僕が忙しなく動き回っていて洗濯をするのも大体この時間だからなのです。


「さ、姫様」

「わ、わかりました!」

「ちゅ~」

 

 私は洗濯用の籠の中にファンファンと飛び込んで身を隠しました。


「少しだけ我慢してくださいね」


 そう言ってメイドが上から洗濯物を被せました。そして蓋を被せられ、その直後、ガラガラと車輪の音がし、籠が移動しました。


「ファンファン静かにね」

「ちゅ~」


 鳴き声が聞こえたら台無しだから、しっかりお願い。でも、何かこうしてるとちょっぴり悪いことをしているような気分になってドキドキしちゃいます。

 

 彼女は途中ですれ違う他のメイドともしっかり挨拶して移動していました。その度に見つからないかな? と心臓の音が早くなるけど、問題なく籠での移動は続きました。


 そうこうしている間に、何か雰囲気が変わりました。よくはわからないけど、宮殿からは出たのだと思うのです。


「……この中か?」

「えぇ、単純で助かったわ。しっかり隠れてるわよ」


 何か……外から彼女以外の声が聞こえました。くぐもった声だけど、男性のようで、え? 誰? すると籠の蓋が外れる音がして、洗濯物がどかされました。すぐ上に見えたのは、黒い姿の誰か……フードを深くかぶっていて目の部分は仮面で隠れていました。


 これは明らかにおかしい、ありえないのです。怪しすぎなのです。


「キャッ――」

「おっと、大人しくしていてもらうぜ」

「むごっ! むぐぉ、むぐぉ――」


 叫び声をあげようと思ったら大きな手で口を塞がれてしまいました。どうしよう、どうしよう、ありえないありえない――


「ご苦労、お前はもう戻れ怪しまれないようにな」

「はい――」

「んー! んー!」


 私は目で必死に彼女に訴えました。彼女はきっと騙されてるんだ。だってずっと私の身の回りの世話をしてくれた。優しくしてくれた。それなのにこんなのおかしい! お願い目を覚まして!


「姫様、貴方の魂は我ら魔狩教団の手によって煉獄へといざなわれるのです。その命をもって我らは遥か天上の神に赦しを乞うことが出来るのです。ですからこれは、とても光栄なことなのですよ。貴方は神への生贄に選ばれたのですから」


 ありえないの……目を疑いそうになりました。彼女が浮かべた狂信的な笑顔に――怖気が走るようなその顔に……。


「それでは、後は任せます――」

「あぁ……」


 そして彼女は籠を押して行ってしまいました。後には黒ローブの男が2人残ってました。


「おい、猿轡を噛ませろ、後は手足を縛れ。魔法が使えでもしたら厄介だからな」


 私は必死に逃げようと手足をバタバタさせたけど、男の力に抗えるわけがなく、口も手足も封じられてしまいました……こんなのありえない――


「樽に詰めるぞ。そのまま運んでいく」

「おら、大人しく詰められとけ。ち、まだもがいてるな」

「ふん、じきに大人しくなる。薬を猿轡に染み込ませてるからな」

 

 私は男たちが用意していた樽に詰め込まれます。このまま、一体どうなってしまうんだろう……それになんだか意識が、薬とか言っていたけど、こんなの怖いよぉ、嫌だよぉ――


「ふん、やっと眠って大人しく……」

「ちゅーー!」

「うぉ! なんだ? 鼠が飛び出してきたぞ! おい待て!」

「放っておけ。樽の中に潜んでた鼠だろう」


 ファンファン――大切な友だちの鳴き声を最後に耳にして、私の意識はそこで途切れてしまった……。

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