皇帝と国王
「いや、しかし……」
「何か問題でも?」
ユージンの問いかけに数瞬言い淀んだ国王は、しかし否の答えを返す。
「フォルトゥーナの王族は基本的に国外へ出ることはできないのです。今回の結婚式は慣例として許されていますが、それ以外には……」
「ディアナ嬢は我が国へ来たのにですか?」
「ディアナは女神様のご神託に従った結果ですので」
「ならばユエラン国へ行くこともまた神託に従うということでしょう?」
「ええ。ですから、行くのはディアナです」
どこまでも堂々巡りの会話にユージンがため息をつく。
「フォルトゥーナ国王陛下、貴国が女神の神託を重要としているのは理解しています。しかしだからといって他国との間に結んだ契約をぞんざいに扱っていいわけではない」
「もちろんそのことはわかっております」
「ならばあなたが今仰っていることはおかしいと思いませんか?」
ユージンの言っていることは正論だ。
その正論が、こと女神に関わることになると通じなくなるのがフォルトゥーナだった。
(はたから見ていると明らかにおかしいことがわかるものなのにね)
渦中にいたら見えないことも少し離れれば見えるように、外からフォルトゥーナの王族を見て、女神の神託を盾にいかに道理に合わないことを言っているのかがディアナにもよくわかった。
「ディアナはフォルトゥーナの第二王女です。皇帝陛下のお気持ちもわかりますが、私はフォルトゥーナの王としてディアナをユエラン国へ向かわせます」
出口の見えない会話に見切りをつけたのか国王がそう言った。
「ユースフル・フォルトゥーナ国王陛下」
あえて、ユージンは国王をフルネームで呼ぶ。
その声には明らかな怒気が込められていた。
「ディアナ嬢はウィクトル帝国の皇后だ。勝手なことを言うのは止めていただこう」
「結婚式は明日です。まだ、間に合う」
(何がまだ間に合うというの。明日の結婚式には招待客も招いているのに、中止になどできるわけがないわ)
明日の結婚式には国内だけでなくユエラン国からはマレフィクスを、そしてフォルトゥーナの向こうエスペランサ王国からも来客がある。
そんな中、当日に中止などできるわけがない。
「来賓も招いているというのに中止をしろと?」
「いえ。さすがに急な中止は難しいと思いますので、結婚式はそのまま挙げるのが良いかと」
「つまりどういうことだ?」
もはや丁寧な言葉遣いすら止めてユージンが聞いた。
「明日の結婚式は予定通り行い、その後ディアナがユエラン国へ行くのがいいかと。式は挙げたとしても籍を入れなければ良いのです」
もはや国王の言っていることはめちゃくちゃだ。
「ウィクトル帝国皇帝は結婚式後すぐに妻を他国へ追いやった人でなしだという謗りを受けろと?」
「いえ、そういうつもりでは……」
ユージンとしても対面を気にして怒っているのではない。
国王のディアナに対する言動があまりにも酷いからだ。
「話にならないな」
怒りを堪えたかのような声で呟いて、ユージンは気持ちを落ち着かせるように一つ深呼吸した。
「フォルトゥーナ国王、あなたの希望に応えることはできない」
「それは……!」
反論しようとした国王を眼差しで黙らせユージンは続ける。
「なぜなら、ディアナはフォルトゥーナの第二王女ではなくすでにウィクトル帝国の皇后だからだ。いくら一国の王といえども、他国の皇后に対して何かを強要することはできない」
ユージンの言葉に、国王が驚きに目を見開いた。
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