王女と王族
「ご無沙汰しております」
そう言って国王夫妻の対面のソファに座ったディアナは、祖国を出てまだそれほど経っていないはずなのに随分と印象が変わっていた。
フォルトゥーナにいた頃のディアナは成人を控えた少女らしくまだあどけなさを残していたといえる。
しかし今のディアナには今までの彼女にはみえなかった芯の強さとでもいうような厳しさがうかがえた。
正しく皇后として立つ者の威厳ともいえる。
「ディアナ、久しぶりだな」
最初に口を開いたのは国王だ。
「遥々ウィクトル帝国までお越しいただきありがとうございます」
「王族がフォルトゥーナから他国へ嫁ぐ時は必ず他の王族たちが結婚式に列席するものだろう?」
「そうでしたわね」
そうやって話していく内にその場に和やかな雰囲気が広がる。
ディアナが自分がいなくなってからの祖国の様子を聞いたり、逆に国王夫妻から今のディアナの生活について聞くなど、はたから見れば久しぶりの再会を楽しむ親子の会話だっただろう。
もちろんお互い核心には触れていない。
「ところで、なんで皇帝が変わったんだ?」
そんな当たり障りのない話に痺れを切らしたのかセルシウスが口火を切った。
その言葉に、場の視線が一気に集まる。
「ディアナが帝国へ出発する時、皇帝はイーサン陛下だったはずだ。なのに今日来てみれば相手が陛下の弟のユージン殿下に変わったというじゃないか」
「セルシウスお兄様。皇帝の座はすでにユージン陛下に移っておりますわ」
今日の午前中にイーサンは退位し、皇帝はユージンとなった。
たとえ他国の王族といえども発言には気をつけなければならない。
現在『陛下』なのはユージンであり、彼を『殿下』と呼ぶのはある意味不敬に当たる。
「まぁまぁ。セルシウスもディアナのことを心配して言っているんだよ」
二人の間を取り持つようにルクスが声をかけた。
「そうよディアナ。あなたがお父様へもう少し詳しく報告をしてくれていればそんなことをわざわざ確認することもなかったのではないかしら?」
さらには王妃が苦言を呈するかのように言った。
「そうですか」
彼らは当たり前のようにディアナが彼らの言うことをきくと思っている。
国王へ報告するのは当然のこと、詳細を報告しなかったディアナに非があるというのだろう。
「それで、結局のところ女神様のご神託はどうなったのかしら?」
フォルトゥーナの王族が一番気になっているその話題を、とうとうマルティナが切り出した。
「途中までの報告は届いていたが、その先どうなったのかがわからず心配していたのだよ」
国王はいかにもディアナのことを思いやる態度を見せてはいるが、ディアナはその真意を知っている。
(本当に彼らにとって私はあくまでも女神の神託を実行する駒でしかなかったのね)
一度離れたからこそよりはっきり見えたもの。
彼らが自分を大事にするのは目的があってのことだと、わかっていたつもりだったのに。
「そうですね。私もそのことについてお話ししなければならないと思っていましたの」
人の苦しみの上に築かれる平和。
そこに胡座をかいていいわけではない。
だから。
ディアナはにこりと微笑んで続けた。
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