二人の間には
二人が到着するのに合わせてガゼボのテーブルにはアフタヌーティーがセットされていた。
思えば何の憂いもなくユージンとお茶をするのは初めてではないだろうか。
そう思いながらディアナは席に着く。
ユージンの配慮かお茶の用意をしているのはリリとルラだ。
粛々と用意をする彼女たちもよく見ればどことなく表情が明るい。
(リリとルラにも心配をかけていたのね)
イーサンの執務室に二人はいなかったけれど、彼女たちもまた女神の神託の終了を感じていたのだろう。
常に緊張を強いられる任務というのはそれだけでもストレスだ。
そこからの解放は二人にとっても大きなことに違いない。
(皇后として残れることになって、本当に良かったわ)
フォルトゥーナの他の王族の侍女であればしなくてもいい苦労をリリとルラにはずっとさせてきたから。
もしディアナがこの城を出ることになれば、この先もさらなる苦労をかけることは想像に難くなかった。
そんなことを思いながら感慨にふけっていると二人は一礼して少し離れた場所まで下がっていく。
「ディアナ嬢。今回の件、改めて礼を言わせて欲しい。兄上を、そしてこの帝国を救ってくれてありがとう」
二人になって向き合うとユージンがまず始めにそう言って頭を下げた。
「いいえ!私にもそうする理由がありましたから」
「たとえそうであっても私たちが受けた恩に変わりはない」
これから皇帝になろうという相手に頭を下げさせていることにディアナは焦る。
「では、無事にお互いの目的が達成できて良かったと、そういうことにいたしましょう」
内心かなり慌てながらもディアナがそう言うと、ユージンがやっと頭を上げた。
「配慮に感謝する」
感謝の言葉を伝えることができたからか、心持ち力が入っているように見えたユージンの肩からスッと硬さがとれる。
そこで初めて二人は手元のカップを手に取った。
精神的な疲れを考慮したのか紅茶はアッサムのミルクティーだった。
ほどよい温かさと柔らかい口当たりの紅茶はディアナの心も優しく解くかのようだ。
小さく満足げなため息をついたディアナを見て、ユージンが改めて口を開いた。
「今回兄上が言っていた件、もしディアナ嬢が嫌であれば断ってくれても構わない」
「イーサン陛下がおっしゃっていた件、ですか?」
一瞬何のことか分からずディアナが問いかける。
「それはその……。このままディアナ嬢が皇帝となる私の妃に、つまり皇后となる件だ」
(え? それは決定した話ではないの?)
驚きに目を見開くディアナに、自身の伝え方が誤解を招く言い方だったことに気づいてユージンは言葉を続けた。
「いや、私としてはディアナ嬢に皇后になってもらいたいと思っている!」
(なぜかしら。腹の底が読みにくく感情をあまり表に出さないユージン殿下の頬が心持ち色づいているように見えるのは)
「皇后にならないのであれば職を紹介していただく必要があるのですが……」
若干困惑しながらディアナが答えるとユージンがさらに言葉を続けた。
「もしディアナ嬢が皇后にならなかったとしても、これから先困ることがないように当然支援はさせていただく」
それはありがたい申し出なのだろうと思う。
しかしなぜかディアナの心は沈み込むような感じがした。
「ユージン殿下がそうお望みでしたら私は皇后であることにこだわりませんわ」
(そうよね。考えてみればユージン殿下にも自身の妃にと願うお相手がいるのかもしれない)
そのことにまったく思い至らなかった自分にディアナは愕然とした。
「皇后には殿下が望まれるご令嬢をお迎えになるのが一番だと思います」
ディアナはそう思っている。
言葉に嘘はない。
(でもなぜこんなにも気持ちが暗くなるのかしら……?)
自身の感情がわからず戸惑うディアナと誤解が解けていないことに焦るユージン。
二人の間ですれ違いが生じていることに、遠目から見守っている侍女たちと護衛たちだけが気づいていた。
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