契約の内容
「それはいったいどういうことでしょう?」
イサーンは退位すると言った。
普通に考えればそれによりイーサンとディアナの婚約は解消されて結婚式は中止になるはずだ。
「陛下は退位すると仰られました。そして帝位はユージン殿下が継ぐと」
(ああでも、皇帝の結婚という意味ではユージン殿下が結婚すればいい訳だから可能なのかしら?)
ということは、ディアナが知らなかっただけでユージンにはすでに婚約者がいるのかもしれない。
その事実になぜかディアナの心がチクリと痛む。
(……?)
なぜそんなことを感じたのかがわからずディアナは戸惑った。
今まで自分の心がわからなかったことなどない。
それどころか常に感情をコントロールすることを心がけてきた。
自分の境遇に悲嘆したところで誰も助けてはくれないから。
最善の道を探すためには冷静であることが重要だと思っていた。
そういった経緯もあって常に鈍化させた感情は波立つことも少なくなり、今回のような任務をこなす上ではそれはとても役に立ったと思う。
「今回帝国とフォルトゥーナとの間で交わされた婚姻に関わる契約。そこで結ばれた内容は『ウィクトル帝国皇帝とフォルトゥーナ国第二王女との婚約及び婚姻』だ」
(だからそれが陛下と私の婚約ということなのでは?)
ディアナがそう疑問に思ったのがわかったのか、イーサンが初めてディアナのことを困った人だとでもいうように見た。
「ディアナ嬢はとても聡い方だが、こういったことには鈍いのだろうか?」
『鈍い』
ディアナにとっては生まれて初めて言われた言葉だ。
イーサンの言うように、今までディアナは年よりも聡明だと言われ続けてきた。
それはおそらく幼い頃に女神の真実を知ってしまったからに他ならない。
自身に課せられた使命が、ディアナが無邪気な子どもでいることを許さなかった。
「ウィクトル帝国の皇帝に関しては今回の退位で私からユージンに変わる」
イーサンは噛んで含めるように一つ一つの事柄を確認していく。
「もちろん理解しております」
ディアナの返答に一度頷くとイーサンはさらに続けた。
「そして、ディアナ嬢は今もフォルトゥーナ国の第二王女だ」
ディアナの身分は婚約の段階ではフォルトゥーナの王女のままであり、その後婚姻したらウィクトル帝国の皇后となる。
「帝国とフォルトゥーナとの間で交わされた契約に照らし合わせてみれば、帝国の皇帝が誰であろうとその内容に影響はない」
(内容に……影響はない?)
ディアナの反応を見ていたイーサンがおかしそうに小さく笑う。
「つまり、ディアナ嬢、あなたが結婚する相手は私ではなくユージンだということだ」
読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になりましたら、ブックマーク登録や評価などしていただけるととても励みになります。
よろしくお願いします。




