臨時公爵会<2>
「ユエラン国……ですか」
コラードの言葉に室内に重い沈黙が落ちた。
「今この場にオルランド公が同席していないことに何か関係が?」
ベルダーの質問は核心をついている。
「みなも察するものがあるだろうが、今ベルダー公が言った通り今回の件にはオルランド公が関わっている」
ユージンがそう言うと、カーライルが数枚の書類を差し出した。
「内容が内容なだけに複写することはできないが公爵方には詳細を把握しておいてもらう必要がある。コラード公から順番に、内容を読んだら隣に回してもらいたい」
多くの場合公爵会で議論される内容に関しては書面にまとめられてその場で各公爵に配られる。
そうすることによって話し合う内容への理解も深まるし思い違いなどが起こる可能性が減るからだ。
同様の理由で会議後には議事録もまた各自へ配られた。
しかし今回は機密中の機密。
外部に漏れかねないリスクは徹底的に排除しなければならない。
「これは……!」
最初に書類に目を通したコラードは絶句し、次に書類を手にしたベルダーは眉間に深い皺を刻んだ。
そして最後に書類を手に取ったラルグスは頭を抱える。
「殿下の情報に疑いを持つ気は毛頭ありませんが、これは本当のことで?」
この事実を一番信じられないのはコラードなのかもしれなかった。
実直な性格であり、さらには領地が隣接している関係上おそらく一番オルランドとつき合いがあるからだ。
「事実でなければこんな議題を公爵会には上げない。ましてや臨時でこのような場を設けることもしないだろう」
ユージンの言葉を引き継ぐように今度は宰相が口を開く。
「その契約書に押印された印章も書かれたサインも、オルランド公のもので間違いないという鑑定結果が出ています」
「そうか……」
宰相の言葉にそう呟いたきりコラードは口をつぐんだ。
「しかし、そもそもこの契約書類はどのようにして手に入れられたのでしょう?」
ベルダーの質問はもっともな内容だった。
普通に考えて契約書というのは契約する両者の間で交わすもの。
オルランドから手に入れたわけではない限り、同じ契約書を持っているのは相手のみだろう。
ということは、これが本物であるならばオルランドの契約相手からもたらされた物だということだ。
果たしてこんな契約を交わすような相手を信じることはできるのだろうか。
「ベルダー公の懸念も理解できる」
そして一息つくとユージンは続けた。
「これはオルランド公の契約相手であるユエラン国王弟、マレフィクス卿から提供されたものだ」
室内がざわりとした空気で揺れた。
「マレフィクス卿ということはオルランド公の取引相手。今や共同の事業を手がける間柄の者ではないですか」
ラルグスが驚きの声を上げるのも無理はない。
はたから見ればマレフィクスとオルランドは協力関係。
その片方からもたらされた情報の信憑性は低いのではないか、そういうことだろう。
「公たちが疑う気持ちはわかる。なぜ私がマレフィクス卿を信頼できたのか、それはもちろん鑑定結果が正しかったせいもあるが、一番の理由は違う」
「と言いますと?」
コラードの問いかけに、ユージンはゆっくりと口を開いた。
マレフィクスの異常なまでの愛し子への執着心。
それをまともな者が理解するのは難しいだろう。
しかし、そんな異常ともいえる感情が今回の一件に深く関わっていることをユージンは理解していた。
「それは……」
だから、その理由をこの場で共有しなければならない。
そうでなければこの後の魅了の香りに関する内容もまた、理解の範疇を越えるからだった。
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