王女と令嬢
「私の名前はフィリア・アグロスですわ」
「プセマ家のことはご存じないと?」
「ええ。いったい誰と勘違いされているのかしら」
一瞬目を見開いたもののすぐに表情を隠してフィリアが答える。
オルランドとの約束に対しては動揺を見せたフィリアも、ユエラン国のことは絶対に秘密にしておかなければならないからか、はたまた誰かに問われるのは想定内なのか、思ったよりも冷静そうだった。
「先ほども申し上げたようにプセマ家はユエラン国の男爵家ですわ」
「その家が何か?」
「とても特殊な能力を持っている家だとか」
そこまで言ってディアナは焦らすようにまた紅茶を飲む。
フィリアは冷静を装ってはいるものの、ディアナが何を言い出すのか警戒しているように見えた。
「ここは帝国ですわ。ユエラン国と交流があるわけでもありませんし、ディアナ様がなぜ突然彼の国の話をするのか、理解できません」
「交流……ですか」
呟いてディアナはニコリと微笑む。
「ウィクトル帝国としての交流はあまりありませんが、オルランド領とは親密でしょう?」
「……多少の交易があるだけですわ」
帝国においてオルランド領が唯一ユエラン国とのつき合いがあるのは周知の事実。
フィリアとしてもそこをゼロだと言うことはできないのだろう。
「ユエラン国の王弟であるマレフィクス卿が長期滞在されていて、さらにはこれから事業提携をするのであれば『多少』というよりも『親密』なおつき合いなのでは?」
「だとしても私には関係のない話ですわ」
言えば言うほど不利になる、そう感じたのかフィリアが話を切り上げようとした。
「関係のない話であればそんな話題を出すはずないでしょう?」
「……どういうこと?」
ここにきて初めてフィリアが訝しげな顔をする。
フィリアにしてみれば今までのオルランド領の話は自分にとってはあまり話したい話題ではないが世間話の一環だと思っていたのかもしれない。
「フィリア様は帝国法にあまりお詳しくないようですけれど、さすがに禁止されていることなどはご存じですわよね?」
あえてフィリアの問いに答えずにディアナは続けた。
「さっきから、いったい何が言いたいのかしら?」
のらりくらりとした問答にイライラが隠せなくなってきたのかフィリアが尖った声で問い返す。
「精神に作用するものはいかなるものでも禁忌とする。帝国民であれば誰でも知っている禁止事項ですわ」
じっと見つめる先でフィリアの瞳がわずかに泳いだ。
一瞬右上を見たと思ったらそのあと視線が下がる。
そして気持ちを落ち着かせるためかそれとも時間を稼ぐためか、手に持っていたカップを傾けて紅茶を飲んだ。
「もちろん、知っていますわ。子どもでも知っている法律でしょう?」
そうだ。
帝国法にはそれこそたくさんのことが定められているけれど、国民であればまず禁止事項を教えられる。
何か罪を犯したとして、知らなかったでは済まされないからだ。
だからフィリアが帝国民であるならば知らないわけがない。
「では、陛下に魅了の香りを使うのは禁忌だと、もちろんご存じでしたよね?」
ディアナの問いかけに、フィリアの顔色が変わった。
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