王女のお茶会
「お招きいただきありがとうございます」
そう言って現れたフィリアは相変わらず自身のスタイルを際立たせるようなドレスを身につけていた。
薄桃色の髪は一つにまとめているが少し垂らした後れ毛が艶かしい。
ゴールドのドレスはイーサンの髪色とフィリアの瞳の色に合わせたのだろう。
ネックレスとイヤリングにエメラルドが取り入れられ、今日も自分はイーサンに愛されているのだという主張が激しかった。
「急なお招きで申し訳ありませんわ」
何人ものご令嬢に声をかけるような正式なお茶会は少なくとも一ヶ月前には招待状を送るものだ。
しかしごく小規模の集まりであったり、親しい間であればある程度急な開催も容認されている。
とはいえディアナが招待状を送ってから開催日まではたったの五日。
急なお茶会であることには変わりなかった。
(ましてや親しい間柄でもないものね)
そう思いながらもディアナは自身の目の前の椅子を勧める。
お茶会の場所は悩んだものの、結局ディアナの自室である応接室にした。
以前ユージンと遭遇した中庭のガゼボも候補ではあったが、この後のことを考えるとなるべく人目につかない場所の方が都合がいい。
今回はディアナの自室でのお茶会ということもあり、あらかじめフィリアの近衛騎士の同行は断っている。
もちろん本来であればフィリアの立場での護衛の同行は認められていない。
しかしそんなことは関係ないとばかりに行動するフィリアに対して、ディアナはいちいち注意する価値を感じていなかった。
もちろん、それが皇宮内の秩序を乱す可能性は認識していたがいまさらである。
「今日はフィリア様と私だけのごく小規模なお茶会です。侍女の方は隣室で待機するように」
「フィリア様をお一人にさせるわけにはいきません」
本来であれば侍女がディアナに対して異を唱えるのは不敬である。
しかし仕えている相手がフィリアだということもあり、いつの間にか侍女までもがディアナに対して横柄に接して良いと思っている節が感じられた。
「そう。あなたは基本的なマナーもできていないのね」
そう言うと、ディアナは部屋の隅に待機していた近衛騎士のガルトを呼んだ。
「この者は己の立場をよく理解していないようよ。連れて行きなさい」
「え!?」
ディアナの命に従い、ガルドが侍女を拘束する。
「どういうことですか!?」
混乱しているのか侍女が叫ぶ。
その声に、突然のことで何が起こっているのかわかっていなかったフィリアが反応した。
「何をしているの! その者は私の侍女。放しなさい!」
「フィリア様。その侍女はイーサン陛下の婚約者であり、フォルトゥーナの第二王女である私に対して不敬を働いておりますわ。拘束されるのは当然かと」
ディアナの冷静な言葉にフィリアが噛みつく。
「私の侍女に勝手は許さないわ!」
「彼女がつけ上がっているのはフィリア様がきちんと導いて差し上げていないのが原因では?」
「どういう意味よ!?」
「イーサン陛下の威を借り好きに振る舞っているからあなたの侍女は自分の立場を正しく理解できないのです」
フィリアが睨むのも意に介さずディアナは冷静に答えた。
「……陛下に言いつけるわよ」
「ご自由に」
憎々しげに言われようともディアナは痛くも痒くもない。
そうこうしている内に侍女は隣室へと連行されていった。
「せっかくのお茶が冷めてしまいますわ。お座りになっては?」
まるで今の騒動が無かったかのように振る舞うディアナに対してフィリアが警戒するような表情を見せる。
(自分の危機に対する勘は悪くないのよね)
ディアナが今までとはどこか違うことに気づいたのだろう。
いつもそばに控えている近衛騎士も侍女もおらず自分一人だということも警戒に拍車をかけているのかもしれない。
「……不愉快だから今日は帰らせていただきますわ」
勧められた椅子に座ることもなく、今にも退室しようとするフィリアにディアナは微笑む。
「そんなに急がなくてもよろしいのではなくて?」
「……?」
疑問を顔に浮かべるフィリアはまだ気づいていないのだろう。
近衛騎士はおらず、侍女が去った後の応接室が閉じられていることに。
つまり、すでに逃げることは叶わないということを。
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