皇弟の考え
「マレフィクス卿のおっしゃったことを全面的に信用されるのですか?」
謁見が終わりマレフィクスが去った後の応接室で、書類を目の前に考え込むユージンへカーライルが問いかける。
「無条件に信じるわけにはいかないが……おそらく彼は嘘は言っていない」
「その根拠は?」
「……常軌を逸しているからだ」
「……!?」
ユージンの端的でありながらなかなかに過激な物言いに、カーライルは一瞬虚をつかれたような顔になる。
「どういう意味でしょう?」
「お前は気づいたか? マレフィクス卿は『愛し子』のためにこの書類を私に持ってきたわけだが、話ている最中一度もディアナ嬢の名前を出さなかった」
「それはつまり?」
「マレフィクス卿にとって大切なのはあくまで『愛し子』であり、『ディアナ嬢』ではないということだ」
まるで言葉遊びのような言い方にカーライルはその顔に疑問を浮かべる。
「愛し子とディアナ様は同じではないのですか?」
「違うな。卿にとっては『愛し子』が大切なのであって、それがディアナ嬢であろうと他の誰かであろうと関係ないということだ」
(そして、彼の大事な者に危害を加える相手を絶対に許さないのだろう)
マレフィクスは『愛し子』のためなら簡単に人を裏切るだろうし、容易に敵に寝返る。
(あそこまで『愛し子』に入れ込むからには何か理由があると思えるが……)
「下手に卿の考えを推察したところで理解することは難しいな」
そう言って、ユージンは先ほど受け取った書類を手にする。
「まずはこの書類のオルランド公の印章やサインが本物であるかどうかをはっきりさせる必要がある」
「鑑定させますか?」
「ああ。書類の内の一枚が契約書で他の二枚はそれに付随する内容を記したものだ」
ユージンは契約書に書かれたサインを指で辿る。
「これが本物だとするのであれば、オルランド公は帝国内に厄災を招いたことになる」
「罪に問うには十分な罪状になりますが……」
「香水の件も合わせて考えた方がいいだろう」
「香水といえばディアナ様は何かおっしゃっていましたか?」
「いや。今のところはまだ」
(だが、ディアナ嬢はきっとマレフィクス卿に接触しているに違いない)
「鑑定結果が出次第ディアナ嬢にも情報を共有する」
「承知しました」
そう言うとカーライルは書類を手に取り応接室を出ようとした。
その背にユージンが忠告の言葉をかける。
「書類の鑑定は秘密裏に行う必要がある。間違ってもオルランド公に漏れるようなことはないように」
「この件を任せる者はごく少数に留めます。宰相殿に情報の共有はされますか?」
「ああ」
(あの書類が間違いなくオルランド公が結んだ契約書ならば今後の対応には宰相の協力が不可欠だ)
「それと、他の三公爵に通達を」
「どういった内容で?」
「現状領地を離れることは難しいかもしれないが、他の者に任せて公爵自身はなるべく早く帝都へ来るように、と」
「それは……今後のことを見据えての通達ということで?」
「そうだ。鑑定結果が是であるのならば、公爵会を開く必要が出てくる」
『公爵会』というのは王族と四公爵が集まって国の運営に関する諸々を論ずる場だ。
ユージンが外遊に出ていた間は皇帝と四公爵が、ユージンが帰国してからは皇帝とユージンと四公爵で行っている。
今回の件でもしその会を開くのであれば、メンバーは皇帝とオルランド公を除く四人になるだろう。
「かしこまりました」
そう言って、カーライルは応接室を出たのだった。
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