王女の駆け引き
あまりにも予想外の要望にディアナの思考はしばし停止した。
しかし、ふと気づく。
マレフィクスと話すたびに感じていた違和感に。
(マレフィクス卿は私を王弟妃に望むと言ったわ。そしてそれは恋愛感情であると。でもそれは本当かしら?)
たしかに、顔を合わせて以降マレフィクスからは好意的な言葉や態度を向けられている。
正直誰かを好きになったことすらないディアナにしてみれば、その好意が恋愛的なものなのかそれ以外のものなのかはっきりとはわからなかった。
それでも。
(マレフィクス卿は女神に、そして女神の愛し子にこだわっている)
そう考えると、もしディアナが『女神の愛し子』でなかったら彼はそれほどまでにディアナに好意的に接しただろうか。
ならば。
「確認ですが、マレフィクス卿は女神の愛し子を求めていらっしゃるということでよろしいかしら?」
「ええ。ですのでディアナ様に来ていただきたいのです」
「もしここで私が頷けば、イーサン陛下の魅了を解いてさらに依頼者情報と依頼者が陛下を害そうとした証明をしていただけると?」
「もちろんです」
「……わかりましたわ」
ディアナの返答に、マレフィクスの瞳が輝く。
「前言撤回はできませんからね」
「理解しております」
ディアナの返事を聞くや否や、マレフィクスは一枚の書類をカンターの下から取り出した。
「ディアナ様を信用していないわけではありませんが、大切なことは必ず契約書を交わすことにしているのです」
「用意周到ですわね」
「ディアナ様はきっと陛下と帝国を救う選択をすると思いましたので」
(ある意味脅したようなものなのに、よく言うわ)
半ば呆れながらもディアナは契約書に書かれている内容を精読していく。
(内容は先ほど話した通りね。でも……)
「マレフィクス卿。内容に関して確認しましたわ。しかし一部変更していただきたい部分があります」
「変更、ですか?」
「ええ。ここです」
そう言って、ディアナは契約書に書かれているある部分を指差した。
「私が協力する見返りにディアナ様がユエラン国へいらっしゃる、という内容ですね」
「この部分、ユエラン国へ行くのは『女神の愛し子』である、と変更していただきたいのです」
「……かまいませんが、大した違いはないのでそのままでもよろしいのでは?」
「いいえ。マレフィクス卿が望まれているのは『女神の愛し子』ですもの。そこははっきりとしておいた方が良いと思いますわ」
「わかりました」
そう言うとマレフィクスは内容を変更していく。
「それから、一つ足したい文言があります」
「具体的には何を?」
「今回この内容で契約を結びますが、今後何かしらの変更を加えたくなった場合、両者の合意がなされれば可能にする、そういう内容を盛り込みたいのです」
それは今後のことを考えると必ず足しておきたい内容だった。
(マレフィクス卿にしてみれば不要と思われるでしょうけれど)
「あえてその言葉を入れる理由を伺っても?」
「未来はどうなるかわかりませんから。柔軟な対応が可能な内容にしておいた方がいいのではないかと思いまして」
「私の方から何かを変えることはないと思いますが、ディアナ様には何か心当たりが?」
(たしかに、マレフィクス卿にしてみれば私が何かするつもりなのではないかと疑いたくなるわよね)
でもこれは、お互いのための文言でもあるのだ。
(今はまだ、理解できないでしょうけれど)
「マレフィクス卿、ご心配なく。ちゃんとそこに『両者の合意があれば』と入れてありますので。私だけの都合で勝手に契約を反故にすることはできませんわ」
「たしかにそうですが……」
納得はいっていない様子ではあったが、明確に反対する理由も見つからなかったからかマレフィクスはディアナの希望を取り入れた。
「では、こちらで問題がなければサインをお願いします」
変更された内容を確認し、ディアナは促されるままサインした。
背後に立つアランからいくぶん不穏な気配が漂ってきていたが、それはあえて黙殺する。
そしてディアナから返された契約書を確認し、マレフィクスは満足げなため息をついた。
「これで契約は結ばれました」
「ではさっそくですが、陛下の魅了の解呪と依頼者に関する報告をお願いしますわ」
「承知しました。魅了を解くための香水を調合します。合わせて報告書の方も。用意ができたらまたご連絡いたします」
「よろしくお願いしますわね」
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