ガゼボにて
「呪具……ですか?」
王宮の中庭にあるガゼボでディアナは再びユージンと会っていた。
マレフィクスと話して二日後、急ではあるが正式な招待を受けての会合だ。
ディアナのそばにはアランが、そしてユージンのそばにはカーライルが控えている。
「ええ。北と西の公爵領から、銀狼とクラーケンの発生には呪具が関係しているという報告書が届きました」
「南のラルグス領はいかがでしょう?」
「南からはまだですが……おそらく同じような報告が届くのではないかと思っています」
(呪具の使用はルグナシア大陸では禁忌。所持だけでも罪に問われるような物だわ)
当然ディアナは呪具を見たことはない。
人を不幸にする物を女神ルナリアは許していないからだ。
「つまり、公爵領の異変は人為的に起こったものだということかと」
「誰が呪具を手に入れて問題を起こしたのかということはまだ……?」
「ええ。詳しい報告はまた届くと思います」
「原因が分かったということは、すでに何かしらの対応をされているのでしょうか?」
「いや。それに関してもまだです。とり急ぎ設置されていたところからは撤去しましたが、未だ銀狼とクラーケンの脅威が去ったわけではありません」
腕を組み、苦々しげな表情でユージンが言う。
「そうですか……」
「そして問題は誰が外から持ち込んだのか、という点です」
当然、持ち込んだ者は罪に問われる。
「呪具、ということであれば、やはり疑わしいのはユエラン国かと」
ディアナとユージンの話を聞いていたカーライルが言葉を挟んだ。
「どういうことだ?」
「今回の話を伺ってから、特殊な効果のある物、いわゆる呪具や呪物に関して調べました。ユエラン国ではそれらの物は禁止されておらず、さらには研究も重ねられているということがわかりまして……」
(ユエラン国はルグナシア大陸の国ではないわ。彼の国が呪具や呪物を禁止していない限り、そのことを問題にはできない。もちろん、ウィクトル帝国に持ち込むのは禁止だけれど……)
「ディアナ嬢、香水に関してはどうですか?」
「そうですわね……マレフィクス卿にお伺いしたところ、希望に沿った香りを特別に調合することは可能だと」
その『希望』というのがどういったものなのかが問題なのだが。
「もし私が香水の精製を依頼するのであれば作っていただけるとのことでしたわ」
「効能や効果に関しては何か言ってましたか?」
「いいえ、特には。ただ……」
ディアナはマレフィクスとの会話を思い出しながら答える。
「私は、フィリア様がユエラン国の香水を愛用していると聞いた、と言ったのですが、そのことに関して特に否定はされませんでした」
ただ単に気にしなかっただけなのか、それともあえて触れなかったのか。
それはディアナにもわからなかった。
「話を聞いている限り、女神の神託に関しても公爵領の異変に関しても、どちらにもユエラン国が関わっている可能性が高いですね」
そこでユージンはいったん言葉を切る。
そして解せない、とでもいうように眉間に皺を寄せて続けた。
「しかし普通であれば自分たちが関与していることを隠すものだと思うのですが……」
「マレフィクス卿にはそんな気はまったく無さそうでしたわ。あえてご自分から吹聴することはなくても、聞かれれば隠すことなく答える、そんな感じでした」
「それに、彼らが我が国に関与する理由がはっきりしませんね」
(ただ単にフィリア様から依頼があったから香水を作ったのか、それとも何か別の思惑があるのか……)
いずれにしても、単純に香りを楽しむための香水ではないことをわかっていて作った、というのは間違いなさそうだった。
「マレフィクス卿の考えはわかりませんが……希望すれば私にも調合してくださると仰っていましたので、近々お願いするつもりですわ」
「不用意に近づくのは危険なのでは?」
「マレフィクス卿は私を害する気はないようですので大丈夫かと」
そう。
マレフィクスはこちらに好意的に接するばかりで、敵意のある態度はいっさい取ってこない。
(だから怖い面もあるのだけど……)
「いずれにせよ彼が何かしらの鍵を握っているのはたしかですわ」
ディアナが行動を起こすということは、それだけ危険が高まるということ。
ユージンとしてはディアナには大人しくしていて欲しいのかもしれないが、じっとしていては何もわからないままだ。
(女神の神託の実行者である限り、私に静観するという選択肢はないのよね)
そう思いながら、ディアナは手元のカップを傾けて紅茶を飲んだ。
口に含んだ紅茶はいつの間にか冷めていた。
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