舞踏会<3>
歓声が上がった場の中心にはイーサンにエスコートされたフィリアがいた。
エメラルド色のマーメイドドレスを身にまとってゴールドのネックレスをつけたフィリアと、黒のモーニングコートにピンクダイヤモンドのカフスとラペルピンをつけたイーサンはまさしくおそろいの衣装と言えた。
取り巻きなのであろう令嬢に囲まれてフィリアは笑顔を振りまいている。
イーサンとディアナの間にいる貴族たちはディアナがどんな反応をするのかが気になるのか、チラチラとこちらをうかがい見ていた。
「この場であれか……」
そう呟くとユージンはおもむろにディアナに向かって手を差し出す。
「同情でもしていらっしゃるの?」
「いや。同情する理由などないだろう? 私はただ麗しの花にダンスの申し込みをしているだけですよ」
ここでディアナが一人ぽつんと佇むような事態になれば、ウィクトル帝国内でのディアナの立場は地に落ちるだろう。
いくらイーサンの婚約者であり今後皇后になるとはいえ、社交界での立場はまた別だ。
「私はありがたいと思うべきなんでしょうね」
そう言いながら、ディアナはユージンの手を取った。
ユージンの装いは黒のモーニングコートに同じく黒のカフスとラペルピンだ。
モーニングコートはイーサンと同じ色の物を身につけているが、まとう雰囲気は全然違う。
言ってみれば優美な雰囲気のイーサンと剛健なユージンとでも言おうか。
(外遊に出されて揉まれたのであろうユージン殿下と国の王座で守られているイーサン陛下では違うのは当たり前なのかもしれないけれど……)
それでも、髪色や瞳の色が似ているからこそ、その違いは一層際立った。
「なかなかに視線が刺さるな」
「そうお思いになるのなら、誘わなければよろしいのでは?」
ダンスの最中、迷いのないステップを踏みながらぼやくユージンに対してディアナは答える。
フィリアとイーサンに対してディアナがどう出るかを注視していた周りの貴族たちは突然始まった二人のダンスに驚きの眼差しを送っていた。
「一応これでもお姫様を助ける王子様的役割なのではないかと思っているのですが?」
「まぁ。そうでしたの。私はただ助けを待つようなお姫様ではないので不要の気遣いですわね」
クルクルとターンをしながら、はたから見れば優雅に舞い踊る二人がそんな会話をしているとは周りは思ってもいないだろう。
「まるで太陽と月のようね」
誰かがそう呟く声が聞こえる。
金色のユージンの髪と銀色のディアナの髪が太陽と月のダンスを連想させたのだろうか。
(イーサン陛下も同じ髪色なのに、不思議なものだわ)
そう思うディアナをよそに曲は終わりへと向かっていく。
不意に強い視線を感じてディアナはターンをしながらその視線の主を探した。
辿った先にいた人物は。
イーサンに腰を抱かれて微笑みを口に貼り付けながら、広げた扇の向こうから睨むようにこちらを見ている。
(フィリア様はご機嫌斜めのようね)
そう思いながらディアナはユージンと向かい合ってお辞儀をする。
ユージンと繋いでいた手が離れ、さてどうしようかと思ったところで今度は大きな手が差し出された。
「私とも踊っていただけますかな?」
手の主は北の公爵アダマス・コラード。
「もちろんですわ」
そう答えてディアナはコラードに手を取られ再度ホールに向かい踊り出す。
「ねぇ、ご覧になって。コラード公が踊ってらっしゃるわ」
「珍しいですわね」
「最近は参加されても他の男性方とお話しするばかりでほとんど踊られることはないのに」
そんな噂をされているのをよそにディアナはコラードと踊り、さらにはその後ベルダーとも踊った。
(コラード家とベルダー家はフォルトゥーナとつき合いのある家。少なくとも両公爵家は私を軽んじてはいないという立場を示したのね)
結果としてディアナが舞踏会中に一人になることはなかった。
常に誰かしらがそばにおり、それが自分よりも明らかに立場が上の相手ということがわかっていたからだろう。
フィリアからは睨むような視線を感じ続けたが、結局最後まで彼女が直接声をかけてくることはない、と思われた。
だから。
ディアナもこれで舞踏会が終わると気を抜いてしまったのだろう。
しかし最後の最後で、フィリアはディアナの前に立ちふさがったのだった。
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