舞踏会<2>
舞踏会開始の一曲を踊ると、イーサンは一応の義務とばかりにディアナを高砂までエスコートしたがすぐにその場を離れた。
舞踏会は始まってしまえば人々がざわめき場所を移動する。
そして入口や庭園への扉も解放されて出入りも自由になった。
イーサンはさすがにディアナのお披露目の場で堂々とフィリアを伴うことはできなかったのだろう。
しかし一曲踊ってしまえば問題ないとばかりに姿を消した。
皇帝へ挨拶をしようとした貴族たちは呆気にとられていたが、ディアナにはイーサンの行動の理由が予想できる。
(きっとフィリア様を迎えに行ったのね)
舞踏会は基本的に男女ペアで参加するのが普通だ。
男性は女性をエスコートしながら入場し、最初の一曲を一緒に踊る。
しかし中には例外もある。
例えば、位の高い男性は側近を従えて現れ、他の男性と仕事の話やコミュニケーションを取るためだけに参加することもあった。
もしくは下手にパートナーを決めると後々揉める場合もだ。
ただ、女性が一人で参加することはできない。
フィリアがこの舞踏会に参加するためにはパートナーが必須となり、また、彼女が皇帝の寵姫であることが知られていることを考えればそのパートナーはイサーン以外考えられなかった。
(もう少ししたら二人連れだって現れるに違いない)
その時の周りの反応を考えると煩わしさに駆られるが、逆を言えばこの場に参加する貴族たちの考えをうかがい知ることができる。
ディアナはそう思うと会場内をサッと見回した。
フォルトゥーナの王女に興味津々の視線は感じるものの実際に声をかけてくる者はいない。
そんな中、こちらに向かってくる男性二人が視界に入った。
「初めまして、ディアナ嬢」
そう声をかけてきたのはユージンだ。
ユージンと会うのは初めてではない、が、公の場で会うのはたしかに初めてである。
なのでディアナもカーテシーで応えた。
そして突然の皇弟の登場に周りもざわつき始める。
ディアナの知る限り、ユージンはここ数年外遊に出ていて自国には戻っていなかったはずだ。
最近デビュタントを迎えた令嬢の中にはユージンを初めて見た者もいるのだろう。
しかしパッと見ただけでも彼が皇族であることはすぐにわかる。
金色の髪とエメラルドの瞳はウィクトル帝国皇族に現れる特徴だからだ。
そして少し前に外遊から帰国した彼がこの場に参加することは不思議ではない。
もちろん皇帝の婚約者であるディアナに挨拶することも。
「さすが皇弟殿下、注目の的ですわね」
扇で口元を隠して小さく言ったディアナの言葉に、ユージンは軽く肩をすくめた。
「私だけでなくあなたも注目の的でしょう」
「帝国の貴族の皆さまはフォルトゥーナ人が珍しいようですわ」
「フォルトゥーナの方になかなかお会いできないのはたしかですが、それ以上に未来の皇后陛下がどんな方なのか興味があるのでは?」
「あら。てっきり皆さまは陛下に仮初の皇后と言われた王女に興味があるのかと思っておりました」
にこやかに、はたから見たらとても和やかにディアナとユージンは言葉を交わす。
「……くっ……」
そんな二人のやり取りを傍らで聞いていた男性が笑いを堪えたのか小さく吹き出した。
「失礼いたしました。ディアナ様にはお初にお目にかかります。カーライル・フィッシャーと申します」
カーライルはグレイの髪に琥珀色の瞳の青年だ。
ユージンの影に隠れるように佇んでいたから目立ちにくいが、彼もまた整った顔をしている。
(この場で笑うことができるなんて、肝が据わっている証拠ね)
一見人の良さそうな雰囲気を醸し出しているカーライルではあるが、ディアナの目には抜け目の無い人物に映った。
「初めまして。フィッシャー卿はなかなか豪胆な方なのですね」
「いえいえ。決してそんなことはありません。ユージン様に比べれば蚤の心臓かと」
「お前が蚤の心臓なら私の心臓はミジンコサイズだな」
「何を仰るのやら」
ユージンとカーライルの軽妙なやり取りにディアナは一瞬呆気にとられる。
侍従関係でありながらこんな会話ができるということは、ユージンとカーライルは良好なつき合いをしているということだろう。
ディアナがそう思ったところで、ホールの一部からワッと歓声が上がった。
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