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第十八話

更新頻度が落ちてしまい、申し訳ありません。


―――『どうしてくれんのよ! あなたのせいで、あなたのせいで、私は()()()()()()()()()()()()じゃないのッッッッッ!!』

側妃がその言葉を放った瞬間、僕は映像を止める。

王の方に顔を戻すと、驚きの表情で王は映像と、現実の側妃を見ていた。

まだ頭の整理が追いつかないかな?


ちなみに、公爵様は知っていたから何も言わずに淡々とした表情で前を向いている。

それに対し、エルファ様は驚き、両手で口を覆っている。


「そこな者…フォリアンといったか?」

「はっ。」

王様よりも早くに頭の整理がついたらしい王妃様が、僕に話しかけてくる。


「この映像は真のものか?」

はっ、とした表情でこちらを見る観衆たち。

「はい。それを証明してくれる物証がございます。それに加えて、証人もおります。」

そこまで言うと、公爵様が話を引き継ぐ。

「この時の侍女を我が公爵家で匿っております。数名の刺客に狙われていた模様です。」


はぁ、と嘆かわしげにため息を吐く王妃様。そのため息にピクリと肩を震わせ反応してのは、側妃だ。

王妃は、側妃に蔑むような視線を投げる。

それを見た側妃は悔しげにギリギリと唇を噛み締め、こちらを睨みつけてくるが、別にこちらのせいではなく貴方の自業自得なので、にらまないでほしい。

エルファ様が怖がっちゃうじゃん。


それにしても、この王妃様演技派だね!

事前に公爵様と話を付けてるから、全部知ってるはずなのに…。

というかまず、怪しい動きをした人には王宮の影を付けてるから、側妃の行動は全部筒抜けなんだよなあ……。

貴族なら絶対に知ってると思うんだよ。

だってさ、


『黒い子 黒い子 影の子よ

 悪い子 悪い子 見られてる

 黒い子 黒い子 王様を

 ずっと ずっと 守ってる』


っていうような詩を聞かされて育つらしいからね。

ちなみに、これ二番もあって、もっと怖くなってるんだよね。

ちっちゃい子にもわかるように簡略化して罪の内容が詳しく書かれてるの。

……この詩の話は置いといて。


「うっ、嘘よ!! こんなの、嘘に決まってるわ!!」

ついに、側妃が叫んだ。

嘘って言われてもなぁ…。僕が集めたんじゃないし。もとから公爵様が然るべき時に交渉材料にするために取っておいたやつだし。

いやぁ、大人って怖いね。


「ルルティアよ、今は我が話しているのだ。控えよ!」

そう言うと、王妃は側妃を手で指し示す。

「…っっ!」

流石に、近衛騎士たちに取り囲まれるのは堪えたのか、大人しくなる側妃たち。

側妃は悔しげに爪を噛んだ。

その表情はもう鬼のように怒り狂っているが、自業自得なので気にしない。


「すまぬな、フォリアンとやら。映像を続けてくれるかの?」

「かしこまりました。」

僕は再び魔道具を起動する。

「っっっっっっっ…!!!!!!」

側妃が声なき悲鳴を上げているようだけど、別にどうでもいいかな。


―――『何を…ッ! 何をやっているのですかッ!? 側妃様!』

映像の中で、レェラとかいう侍女が、顔を真っ青にして叫ぶ。

その瞳は驚きで見開かれている。


―――『何をって、貴方が勧めたんじゃない!! 今代の王は王妃に尻に敷かれているからもうダメだ、って言ってッ!』

そう言って、怒りのままに側妃は鞭を振り下ろす。

幸い、その先には侍女がおらず、ビシッ、と床を叩いただけですんでいた。


ちなみに、今も側妃とその隣に控える侍女、レェラに周りの貴族たちや王族の皆様から厳しい視線が注がれている。王弟さんも同様だ。

あーあ、怯えて顔真っ青だし、すっごい汗もかいてるし。

そんなふうになっちゃうなら、最初からやらなきゃよかったのにね?


―――『落ち着いて下さい、側妃様。今はそれより、腹の中の子をどうするか決めましょう。』

レェラは侍女たちを下がらせる。

一介の使用人如きがこんなことできるのかな?

王宮では、これが普通なの?


―――『うるっさいわねッ、勿論下ろすに決まってるでしょ!? あぁ、もう…ッッ。せっかくこの国を支配するためにここまで来たってのに、台無しじゃないッ。』

そう言って、ぎりぎりと唇を噛みしめる側妃。

その唇からは血がポタポタと滴り始め、ドレスを汚している。

そして、その問題発言をこの場の者全員に聞かれたことによって、更にガタガタと震える側妃。そんな側妃の周りを取り囲む騎士たちも、心做しかさらに厳しい目になった気がする。


―――『冷静になって考えて下さい、側妃様。その子供を王の子供としたら良いことでしょう。次の陛下のお通りはいつです?』

そう言いながら、優しく側妃の手から鞭を取り上げるレェラ。

その貌には歪んだ邪悪な笑顔が浮かべられている。

レェラの言葉を聞いて側妃もそのことに思い至った様子で、同じ笑みを浮かべる。


―――『……陛下のお通りは、二日後ね。凄い良い考えだわ、レェラ。ふふ、ふふふ! そうね、この子の名前は……―――』


「いやぁあああああああ!! やめてぇ!!」

いつの間にか泣き出していた側妃は涙と鼻水と汗で顔をグシャグシャにしながら叫んだ。


―――『ハーディー。そう。ハーディーにしましょう!』

過去の側妃の、嬉しそうな声が響いた。


  *


映像の中の側妃が、『ハーディー』という名前を出した瞬間、僕は映像を止める。

これは、確実な証拠にならないかな?

「ぁ……あああぁ…………。」

ヘナヘナ、と叫ぶ時に立ち上がった側妃はへたり込む。

その瞳からは涙がとめどなく溢れている。


レェラとかいう侍女も、痙攣しているかのようにブルブルと震えている。

側妃と言っても妃は妃。

その側仕えなんだから、第三級以上の使用人のはずだけど……。

あれは流石に、使用人の域を超えてるよね〜。

側妃も、このメイドも。あと、王弟さんも、極刑は免れないんじゃないかな?


「………この映像は真か? ルルミーナよ。」

王妃様が泣き崩れている側妃に冷たい視線を向ける。

「ちが、ちが………私は、私は違う……違う……違うもん……!」

側妃は、半ば放心状態になりながらも、言葉を返す。

………いや、これはもう言葉っていうのかな? うわ言って言ったほうがいいかも知れないね。

いやいや、と頭を横にふる側妃を見て、王妃はため息を吐く。

「嘆かわしい……。それがこの国の妃の姿か?

 …王よ、この者には相応の処罰を。」

王妃が王に声をかけると、我を取り戻したのか、王がハッとした様子でこちらを見る。


「これ以外に証拠はあるのか?」

「ございます。」

そう言って僕は、懐からまた新しい書類を出す。

わっとと、書類が増えてきたなぁ……。多すぎて辞書みたいになってるよ……。


「これは、陛下と側妃様、ハーディー、殿下の血液判定でございます。

 陛下は春型でいらっしゃいますね?」

「あ、あぁ。」

陛下は動揺したように言う。


(※この世界での血液型は、A=春、B=夏、AB=秋、O=冬となります。名称が違うだけでほぼ一緒です。)


「そして、側妃様は冬型。春型と冬型との間に生まれるのは春型と冬型以外はありえない。

 ……ですが、ハーディー殿下は夏型。

 余談ですが、王弟陛下は秋型でしたよね?

 秋型と冬型の間に生まれるのは春型か夏型。

 側妃様のお近くにいらっしゃる男性方皆様を血液判定した所、王弟殿下以外、夏型の方はいらっしゃりませんでした。…これは単なる偶然ですが……。

 これは、いかなる理由で御座いましょう?」


(※血液型のお話が間違っていましたら申し訳ございません。そっとコメントでお教え下さい。この世界ではDNAとか、そういうところまで発展してません。血液が四種類あるっていうのが魔法によって解明されたばかりです。)


王弟さんはダラダラと冷や汗を流しながら視線をそらす。

自分の方に流れ弾が来るとは思ってなかったのかな?

いやぁ……。側妃の周りに王弟さん以外夏型の人がいなかったのはびっくりだったけど、とっても都合が良かったね!


「…ラウル……いや、ラング侯爵よ。お主は我が妃、マリルと不貞を働いたのか?」

王弟に厳かに尋ねる王様。

握られた拳に、ギリギリと力が入っているのがわかる。

「へ、陛下! その、そのような事実はございません!! あの執事の言いがかりでしょう!」

と、みっともなく喚く王弟さん。


「ほぅ? ラング侯爵、貴方は我が家に喧嘩を売るとおっしゃる?」

あぁ〜、公爵様がめっちゃ楽しそうに笑ってるよ……。

こういうのを腹黒い笑みって言うのかな?

「は、はぁ!? …い、いえ。そのような意図は…。」

多分、昔の王子だった頃の癖で強く言い返そうとしたけど、今の地位では公爵様より下だと思い出して、ヘコヘコしだしたのだろう。


()()()()使用人に言いがかりだと言ったのだ、それくらいの覚悟はされているものかと思っていたよ、ラング()()?」

公爵様………それは流石に意地が悪すぎないかな?

王弟さんのコンプレックスであろう『侯爵』っていうところをわざと強調して言ったよ、この人………。

あらら、ギリギリって唇をかみしめてるよ。


「う、嘘だ! 嘘に決まってる!」

どこからか、そんな声が聞こえた。

まぁ、どこから聞こえたかは、想像つくよね。


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