森燃える
「これは失礼しました。
私の配下が警戒したようです。恐がらせました。」
先に口を開いたのはオリビアだ。
「お嬢様、ご心配には及びません。
私どもは代々取引させていただいている商人です。
こちらの獣人が人間を襲うようなことはないと分かっております。」
商人が愛想笑いをしながら、自分は隣国、ウェザラードの宝石商だと名乗った。
ウェザラードはオリビアの国ではないが、それでも知っている大きな宝石商だった。
アキルに騎乗していたことから、オリビア達を獣人と疑っていないような宝石商が、オリビアに尋ねる。
「お嬢様は高位貴族の御令嬢のようですが、私どもはこちらの公爵領内のことはわからないので、失礼があったら申し訳ありません。」
「私もここに髪飾りを買いに来たの。
父は侯爵ですわ。」
「ここは公爵領のはずですが、その中にも階級制度ができているのですね。」
商人の問いかけに、ラヴィダルは黙って聞いている。
「先日、こちらにカルデアラ王国から、赤い満月に生まれた姫が嫁がれたとお聞きしましたが、お嬢様は御存知で?」
それは自分の事だとオリビアが思ったが、宝石商に答えたのはアキルである。
「貴方達は知らない方がいい。」
アキルの迫力で逃げ出すように、商人達はオリビアに礼をすると馬車に乗って去って行った。
「少し、ウェザラードの偵察をさせるか。」
「ラヴィ様?」
「人間が公爵領に入るのは難しいが、我々が人型で他国に入るのは簡単だ。」
「アキルの迎えにはビックリしましたが、入れないこともないのでは?」
オリビアは、恐い噂で人間は魔物の森に近寄らないが、領内がわかるとそうでないと知った。
「オリビア、貴女はアキルの迎えがあったから無事に城に到着できたのだ。
森の木は生きているのだよ。」
ブルダイザー公爵領は他領や他国との境界を深い森で囲まれている。
森は生きている?
ラヴィがそれ以上をオリビアに説明する気がないようだとわかると、細工師の工房に向かった。
それから数日しか経たないうちに、森から煙があがった。
城内は急にあわただしくなり、緊急会議が開かれた。
「国境にウェザラード軍が進軍してきております。」
空から偵察したのだろう、カイザルが報告をしている。
「あれらは、簡単には燃えまい?」
ラヴィが片肘を机につきながら、聞いている。
「大量の油がかけられ、森の入口付近の木々が燃えています。
また、その火の為、森に住む獣人達が近寄れない様子でありました。」
「火をつけられるとは!」
立ちあがったのは、オリビアの結婚式に文句を言っていた狼族の族長クラークスだ。
うわぁ、戦争になるのかな、と会議に参加しているオリビアは聞いていた。
「公爵、ともかく火が他に燃え移らないよう、水の魔力のある者達を集めましょう。」
「燃えている木は消火が難しいでしょうな。」
「森が悲しんでますよ、無体な。」
会議に参加している誰の口からも、侵入してくる軍と交戦するという言葉はでない。
「城まで攻め込むことはできまい。早めに撤退するように通達を届けるか。」
ラヴィダルまで、戦うという選択をしない。
「ちょっと待って!
攻め込まれているのよ!?交戦しないの?」
今度立ち上がったのは、オリビアだ。
「狼さん!
貴方、そんな事納得できないでしょう!?」
「オリビア様、そんな事とは?
戦いになったら、若い者達がケガするではないですか。」
えーーーー!?
オリビアの頭の中はパニックである。
「そんな恐そうな顔しているのに!?」
「オリー、我々はもう何百年も争いから遠く生きてきた。
いまさら、戦争なんて危険だよ。
話し合って退いてもらうのが一番いいよ。」
「ちょ、ちょっとラヴィ!
相手は退く気があれば、最初から進軍してこないって!
しかも火を放つなんて、領民はいらないってことよ!」
「せめて大砲で相手を威嚇するぐらいしてもいいじゃない!」
立ちあがったままでオリビアが力説する。
「我が領地には武器はないぞ。倉庫には300年ぐらい前のがあるかもしれんな。」
「それで、どうやって戦うつもり!?」
「だから、話し合いで解決した方がいい。」
人間オリビアと、吸血鬼・獣人の間には深い溝があった。
「話にならない!
公爵領は、私一人でも守ってみせるわ!!」
オリビアは会議室を飛び出した。




