鉱山の町
ラヴィダルは、来た時と同じように魔法で城に戻ると言う。
公爵領内なら、魔力が満ちている為にどこでも行けるらしい。
「オリーの身体は魔法に耐性がないから、一緒に運ぶことが出来ないんだ。」
いかにも残念そうに、ラヴィダルが言う。
「子供が出来たら、魔力を持っているかしら?」
「子供?」
オリビアがラヴィダルの手に手を添える。
「結婚しているのだもの。
子供に恵まれるかもしれないわ。」
ね、とラヴィダルを見上げる。
それは奇跡だ、とラヴィダルは思う。
吸血鬼の中でも、自分一人が特別に長く生きている。
仲間の吸血鬼もいなくなった。
昔は、人間も獣人も同じ町で生活していたが、争いが多く、自然に別れていった。
ラヴィダルは、獣人達と共に森に入った。
長い年月をかけて森には、ラヴィダルの魔力が染み込んだ。
ほとんど寝ているラヴィダルは、赤い満月の夜に目覚め、花嫁が来るまでの18年間を起きている。
花嫁がいなくなれば眠りにつき、次の花嫁を待つことになる。
起きている間は、年に数回の吸血しかしないので、人間の間にも吸血鬼の存在は伝説でしかないのだろう。
むぎゅ、ラヴィダルの頬をオリビアが軽くつまんだ。
「ラヴィ様、難しい顔をしてます。
私達、種族が違うんですもの、子供は出来ないかもしれないけど、できるかもしれないでしょ?」
ニッコリ、オリビアが笑っている。
「それにしても、さっきのラヴィ様は凄いわ。カッコよかったです。」
オリビアは、ラヴィダルの返事を待たずに、驚いたことや、感動したことを話す。
クスッとラヴィダルが笑った。
「君こそが、素晴らしいよ。」
君こそが、赤い満月の奇跡。言葉にはしなかったが、ラヴィダルにはわかった。
周りの者が、君に惹かれていく。
君には魔力がないが、眩しいほどの活力がある。
「ラヴィ様、麓の町に腕のいい彫金細工師がいるんですって。
髪飾りをお願いしてもいいかしら?」
「もちろんだ、好きなだけ注文すればいい。」
「ありがとう、うれしいわ。
って言うと思いましたか?」
ニコッとオリビアが微笑む。
「私が悪女だったら、財産が傾くほど買っちゃいますよ?」
「悪女なんですか?」
「自分で悪女という人間はいません。」
悪女になるぐらい、たくさん欲しいのですね?ラヴィダルが苦笑いする。
あはは、と笑いながらラヴィダルが、
「いいですよ、傾くほど買ってください。」
「じゃ、一緒に髪飾りを選んでください。」
オリビアがラヴィダルの腕を取り、帰ろうとするラヴィダルをひきとめる。
「誰か、腕のいい細工師の所に連れて行って。」
オリビアの声に、ハイハイ、と豚坑夫から手が挙がる。
「あっちだって。ラヴィ様早くー。」
「たくさん買ってあげますから、急がなくて大丈夫ですよ。」
興奮しているオリビアとは反対に、ラヴィダルはマイペースだ。
「貴女は、かなりお転婆ですね。気が付きませんでした。」
「当たり前です。初めて会う人に好感持ってもらいたいですからね。
物静かな令嬢のイメージで来ました。」
物静かな令嬢が、出会い頭に平手打ちをしたのだが・・・
初めて会う、その通りなのだが、ラヴィダルは遠い他人のように言われた気がする。
手を繋いで歩く姿は、まだ初々しい。
コロンと首をラヴィダルの肩にあずけて、オリビアが言う。
「それに、旦那様にお会いするから緊張してましたの。」
「そうですか。」
ラヴィダルに、今までなかった感情が生まれてくる。
麓の町は、細工師の工房や、鉱山で働く坑夫達の食堂などが並び、にぎわいを見せていた。
「あら?」
オリビアが見つけたのは人間だ。
獣人に交じって人間がいる。
「ラヴィ様、人間がいますわ。人型の獣人かしら?」
「いや、あれは人間であろう。僅かだが、人間の宝石商に公爵領に立ちいる事を許可している。
もう遥か昔だが、代々続いているのだろう。
ただし、公爵領のことは口外しないことが条件だがな。」
もしかして、国内に流通している宝石の中には、ここのもあったかもしれない、とオリビアは思う。
「だが、鉄は国外には出さない。
武器になるものだからな。
ここでの武器は剣ぐらいしか作っていない。鍛錬の為の剣術だ。
争いは好きでない。」
この魔物の森に攻め込んでくる者はいないだろう、とオリビアは思うのだが、ラヴィダルはそうではないらしい。
オリビア達が見ているのに気付いたのだろう。人間の宝石商もオリビア達に気が付いた。
「おや、見慣れない方達ですね。」
商人が近づいてきた。
ここにいる者達はブルダイザー公爵の顔を知らない。
オリビア達を人型の獣人と思っているようだった。
「お前達、僕がラヴィダル・ブルダイザーということは黙っておくんだぞ。」
側にいた、獣人達にラヴィダルが口止めする。
アキルに乗って移動してきたオリビア達は目立つ。
「こんな大型の獣人の方をお見かけしたのは初めてです。」
商人はアキルに興味があるらしい。
アキルはオリビア達を降ろすと、人型に変わった。
初めて見るアキルの人型は、背が高く手足が細い男性だった。
「どうして人型は服をきているのかしら?」
オリビアがこっそりラヴィダルに聞いている。
「それも魔法だよ、体型を替える魔法の時に同時にしている。」
アキルは魔力量が多いので、獣人でも大型に変形する事ができる。
二人がこっそり話をしているうちに、商人達は直ぐ側に来ていた。
アキルが警戒するが、オリビアが止める。




