森の湖
オリビアは、ミモザを伴って鉱山見学に向かっていた。
城から鉱山までは、かなりの距離があるが、大トカゲの最速スピードなら、日帰りが出来るからと向かったのだ。
森の入り口に迎えに来ていた大トカゲは、オリビアを城に運ぶのにスピードを落としていたらしい。
ミモザに乗り方を教わりながら、オリビアは大トカゲに乗った。
馬など比べ物にならないスピードで大トカゲが疾走した。
大トカゲの名は、アキル・バスチーモア・スニーエフ、言語を理解し、土の魔法を使う。
魔物の森では、獣人と獣には明確な区別があるらしい。
言語の理解も獣人の条件の一つである、他には、人型になる、魔力がある、知能レベルが高い、道具を使う。
アキルは、言語で意志疎通ができるので、獣人である。
人に乗るの?
と思ったが、今さらである。
「アキル、後どれぐらい?」
「あの山が鉱山だ。」
前方には大きな山が連なっているが、かなり距離はありそうだ。
「じゃ、お昼は山の麓でとりましょう。」
ミモザの言葉にアキルは頷いてスピードをあげる。
耳が、キーンとする感覚にオリビアは戸惑いながら、手綱を握りしめる。
「大丈夫ですか?オリビア様。」
返事の出来ないオリビアは、大丈夫ではない。顔が真っ青である。
「少し休んだら、大丈夫だから。
湖畔で休んでいるわ。」
「オリビア様。」
大きな身体を縮こませてアキルが寄って来た。
「大丈夫よ、慣れてなくて、少し酔ったみたい。
アキルは凄いスピードなのね。びっくりしたわ。」
そう言いながら、オリビアがアキルの背をなでる。
「オリビア様優しい。
俺、帰りはオリビア様が酔わないように気を付けるよ。」
「ありがとう。」
その時だ、ザザーッと水音がして、何かが水中から飛び出して来た。
「美味そうな匂いがするぞ!」
「きゃーーー!!!」
湖のほとり、木陰でオリビアが木にもたれタオルで頭を冷やしている。
青白い顔のオリビアに、地面に這いつくばって謝っている獣人がいる。
頭部が魚の半魚人である。
驚いたオリビアの目の前で、アキルに取り押さえられたのだ。
「ごめんよ、ごめんよ。
こんなに驚くと思わなかったんだ。」
アキルは、オリビアを守ったと鼻高々である。
「お前、名は何と言う?
こちらは公爵の奥方のオリビア様であらせられるぞ。」
「俺は、ディップ・チョロギと申します。
オリビア様、ほんの少し驚かすつもりだけだったんですよー。」
オリビアはタオルを外して、ディップに向き直った。
「仕方ないわ。アキル、許してあげて。
これからは程々にするのよ。」
「オリビア様ーー!なんとお優しい!」
ディップだけでなく、アキルまでひれ伏した。
オリビアは、ディップが魚の口で話をしているのが不思議でならない。
あの口は泡が出てきそうだ、とさえ思っている。
「オリビア様、ちょっとお待ちください。」
オリビアの返事を待つ事もなく、ディップは湖に飛び込んだ。
「どうしたのかしら?」
「オリビア様、食事は出来そうですか?」
そう言ってミモザが差し出した冷たい水の入ったグラスを、オリビアが受け取る。
「ええ、少しだけ食べれそう。」
ミモザがバスケットから、コックが持たせてくれたサンドイッチを出している間に、ディップが戻って来た。
「オリビア様!!」
手には、何か持っている。
オリビアの前で手を広げると、両手いっぱいの大粒の真珠。
淡水真珠だ。
「綺麗ね。」
真珠は女の好物である。
「ずるいぞー!
オリビア様、俺もいい物があるんだ。取ってくる!」
飛び出そうとするアキルをミモザが止める。
「アキル!
オリビア様の護衛がいなくなるわ。」
「そうよ、二人とも食事にしましょう。」
はい、とオリビアが、アキルとディップにサンドイッチののった皿を差し出せば、二人とも感動している。
どこまでもついて行きます!
とアキルとディップは心の中で誓うが、姫の騎士というよりは、女親分の手下の雰囲気である。
オリビアが作った物ではないが、餌付けされている。
「水のあるところで呼べば、すぐに駆けつけます。」
水の魔法の通路がある、と言い残してディップは湖に戻っていった。
サンドイッチの無くなったバスケットには、代わりに真珠が入れられている。
バスケットを持ったアキルに守られて、オリビアとミモザは鉱山に入っていった。




