捕虜
捕虜として連れてこられた王子は、拷問されることも、牢獄に繋がれることもなく、客室でお茶を飲んでいた。
「断る。
無様に生き延びたくない。」
ツェールが、オリビアの提案を即座に断った。
「みんな、無様であろうが、生きるのに精一杯よ。
生きるのに無様などないわ!」
オリビアが、指差して王子を見下す。
「出来のいい王子様には、初めての敗北で人生のおしまいと思っているかもしれないけど、ここまで連れて来た部下達を少しでも生きて返すのが指揮官の役目でしょ!」
「当たり前だ!
私の命がどれ程の価値があるかは知れん。だが、私に命を預けてくれた兵を守るのも私の役目だ。」
「オリー、彼を懐柔するのは無理だと思うよ。」
ラヴィダルまでもがオリビアの反対意見派になる。
「当たり前だ、国を裏切ることはできん。」
ツェールは硬い表情で言う。
「何百年も不可侵だった魔物の森に、侵攻してきたのはどうして?」
「言えん。」
「オリー。」
「はい。」
ラヴィダルがオリビアに手を重ねる、
「君は、どうしたいんだ?」
「今回の事でわかりました。
その気になれば、世界征服だってできると。」
ニッコリ笑うオリビア。
「なんだって!?」
ラヴィダルだけでなく、ツェールからも言葉がでた。
「一国の王子ともなれば、かなりの情報があると思うの。
獣人の人達と共存できる社会を作るために、その情報を使うってどうかしら?」
「断る。
その気になることはない。」
ツェールは即答する。
ラヴィダルは、オリビアを見ながら思っていた。
赤い満月の娘は、自分を殺してくれるはずなのに、どうして世界征服になる?
オリビアがいるだけで、平穏だった日常がこんなに違ってきている。
「どうしたものだか・・・・」
ラヴィダルは、オリビアに振り回されている自分に笑いが出てくる。
ツェールがラヴィダルの方を見て言う。
「赤い満月の乙女が、こんなに行動的とは思いませんでした。」
ツェールの言葉に、ラヴィダルも同意する。
「僕もだ。行動的というより、無謀だな。」
「その赤い満月の乙女って言葉、生まれた時からずっと言われてきた。」
オリビアが、ラヴィダルに向き合う。
「赤い満月の乙女の多くは、心を壊していたの。」
「赤い満月の乙女は畏怖の存在だから。
私は家族に愛されたけど、ほとんどの娘は、家族から恐れられ、隠して育てられる。
赤い満月の乙女は、恐ろしい力があるのではと、忌み嫌われる。
魔物の森の祟りを恐れて、誰も見たことなく、実在するかさえもわからない公爵に嫁がせる為に、森の入り口に置き去りにされる娘。」
自分自身が、魔物の森の公爵に嫁がされる恐怖。
カルデアラ王国では、迫害を受けることも多い。そして心を壊してしまう赤い満月の夜に生まれた娘。
「死ぬ気で嫁いできたら、迎えは凄いスピードのトカゲの乗り物で、嫌われていると思った。」
オリビアの言葉に、ツェール王子もあれか、と思い当てる。
あれほどの速さの乗り物はない。落ちないようにするのが精一杯だった。
「ところが、ラヴィダル様は麗しいし、優しいし、助けに来てくれた時はカッコよくて。」
ポッ、と顔を赤らめるオリビア。
「しかも、魔力は凄いし・・・・」
両手で頬を押さえ、ブルプルしだした。
「もう、これは世界征服して魔王になるべきだと!」
ツェールは頭が痛くなってきた。
「公爵、頼むから夫人の暴走を止めてくれ。」
「引き金は、そちらの国が侵攻してきた事だ。」
ラヴィダルがツェールに言う。
「きぁーー、カッコいい!」
オリビアにそう言われても、応えようのないラヴィダルだ。
「僕は、大公となり独立するよ。
オリビアがいるからね、もう赤い満月の娘はいらない。」
ラヴィダルか言った時に、ツェール王子が動いた
どこかに短剣を隠し持っていたのだろう、一撃でラヴィダルの胸を切り裂く。
「きゃあああああ!!」
オリビアの叫び声が部屋に響き、ラヴィダルの返り血を浴びたツェール王子が止めと短剣を振り上げたところにオリビアが飛び込む。
倒れたラヴィダルを庇うように、オリビアがラヴィダルに覆い被さる。
ツェールの短剣は止まらず、オリビアに突き刺さるかと思われた。
キーン!!
オリビアに刺さる瞬間、短剣が弾き飛ばされた。
ゆらり、ラヴィダルが血を流しながら立ち上がる。腕に、泣きながらラヴィダルにすがり付くオリビアを抱きながら。
「卑怯者。」
オリビアが震えた声で言う。
「褒め言葉だ。私は国を背負っている。」
魔力で撥ね飛ばされた短剣を拾い、ツェールがかまえる。
オリビアを後ろから抱いているラヴィダルが、ゆっくりと口を開く。
ラヴィダルの牙がオリビアの首筋に深く刺さる。
コクンコクン、ラヴィダルの喉が血を飲んで動くのを、ツェールは成すすべなく見ていた。
「人ではなかったのか・・・」




