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神の願い

(はて、ここは何処じゃ?)

何もない灰色の空間に立つ鬼姫は自身の姿が本来の黒髪、豪奢な着物を纏っているのに気付いた。

ブランカの祖父ロイエンタール辺境伯の領地で祖父母一家に隠れてダンジョン探索に乗り出しブランカと鬼姫の実力差を埋めるべくリハビリ中だったはずだ。

『よく参られた、鬼姫鈴鹿よ。』

響く子供の声。

「妾を呼び捨てにするとは、余程の御仁なのでありましょうか。」

『我は、そなたの住まう世界の神。』

「にしては、矮小な気配しかいたしませぬが。」

周りの気配が殺気立つ。

『よい、控えよ…確かに我は力を失って久しい。』

神は説明をし始めた。

大穴による時空間の歪みを広げないよう尽力していたが、外部からの圧力で異世界から異形の者達の魂が入ってきた。その異形の者とは鬼姫達のことだが、姫達が穴に落とされたのは、裏切り者の策略だった。

本来ならあの時に魂そのものも消えてしまう予定であったが鬼姫の魂だけでも助けたいと願う者がいた。

「もしや、それは妾のととさまか?」

『さよう、そなたの父母たる釈迦の願いを各世界の神々が助力した結果である。その迷いし魂達を救い上げこの世界に住まわせることに挙手したのが我だ。他の神々は釈迦ほどそなたらを信頼しておらぬ故の。』

鬼姫はふっと笑う。

「神を名乗るものよ、妾達を穴に落とした男はどうしたのじゃ。」

『アヤツは、そなたらの肉体を贄に時渡りの神に捧げ何も損なわれることなく、この世界に転移しておる。それ以上の詮索は力を失っている我には出来ぬ。』

姫は扇で口元を隠した。

「あやつは、以前より我らの居らぬ世界に行きたいと言っておった。なのにまた同じ世界に?なんと、面倒なこと。」

しかし、今度は油断などしない。

「で、今になって妾をこのような空間に?今の妾は魂魄だけの存在、現世におる眷属共が暴れだす前に用件を話せ。」

目の前にふよふよと現れた小さな光。

「ととさまか?」

光から読み取ったのは、今世での生を終わらせたら来世も望む世界で愛する者達との生を送れるよう神々に約束させたこと、そのために現世の神の願いを叶えることが必要であることだった。

大穴が空いた時、神の愛し子である女神が犠牲になった。

肉体は消え失せ魂魄だけの存在となったが、その魂は穴の威力の前にバラバラとなり、時空や軸を越えた平行世界に飛ばされた。飛ばされた先で人の生を得た女神の魂魄の一部を宿す者は揃いも揃って穴の影響を受け不幸で不憫な暮らしを強いられているらしい。しかし、神は大穴の影響を押さえるのに力を尽くしているため愛し子を救うことも出来ない。

女神の魂魄の一部を宿した者が不幸なままだと此方の世界にも影響がでる。

そこで、魂魄を異世界に飛ばすことのできる鬼姫に愛し子を救ってほしいと言う。

「妾が介入したところで、状況が変わるかのう……?」

めんどくさいと言うのが正直な感想だ。

だが、神の願いを叶えるため力を貸すと言わねば、この空間からは逃れなさそうだと鬼姫は考えた。

ふよふよと現れた小さな光は、願わくば、不幸な女神の魂魄を救ってやってくれ、と語っている。

「ととさまの願いなら妾が叶えない訳にはいかない。救う法は妾に一任すると、救った後の世は女神の意志に任せると言うので良ければ、」

頼んだぞ、と言う思いを耳にした途端、暖かいものに身体が包まれた。

「旦那様?」

声を出したら強く抱き締められた。

「姫、姫……こ、怖かった。君の魂魄がこの世から消えたから、」

ふと肩越しに見ると泣いているアルフォンス、ヨアンナを初めとした眷属の魂を宿した仲間が勢揃いしている。

ぽんぼんと愛しい男の背を叩き拘束を解いてもらう。

「まぁ、突然消えたら、皆が驚いてしまうわよ?」

笑顔の主に大泣きのクロノスが巨体を揺らしている。

「ちゃんと分身体を置いてきた、おひいさん!焦らせるなよっ!」

「ごめんなさいね、ちょっとめんどくさいことになっちゃったの。あら、レティシアも来ちゃったの?」

自分の手を握っている同じ年頃の娘。

「姫様以外に私を焦らせる方は居られません。」

鬼姫ブランカは神に告げられたことを皆に説明する。

「何時からなのか、いつまでなのか説明がなかったのが、ちょっとね、」

「女神の魂魄の一部を探すなど困難なことだよね、見付け次第ってことかな、」

「ってことは、いきなりさっきみたいに姫様が倒れるってこと?」

ざわつく周囲。

「その度に皆が飛んでくるのは避けたいわね。」

小首を傾げて考えている姫。

「常に側にいる橋姫と八瀬は、姫の魂魄が飛ばされたら速やかに対処を、転移の得意な阿曽姫がいないのは残念だが、姫が飛ばされた後のことを八瀬は記憶しておいてくれ。傾向と対策が分かるかもしれないからね。」

姫の変わりにジオンが告げる。

「「御意。」」

頷く面々に満足するジオン。

「この世界の住人達の魔術には転移術がない。咄嗟に分身体を残すよう伝達したが、転移をする場合は注意を怠るな、我々はこの世界の住人として生きていくのだからな。」

目立つことはするなとのことだった。

手遅れな者も言い出しっぺ本人を含めているが、それは棚に上げたようだった。



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