もふもふが恋しいのです。
幕間の幕間。
「諦めたちゃったの?」
ジオンは、苦笑した。
ブランカは千代丸に抱き付いて顔を埋めて、ゴロゴロと御機嫌な振動に聞き入っている。
『姫さんは、ボクに乗ればいいよ!ボク、姫さん大好き!』
千代丸の言葉にブランカが益々抱き付く。
「う~もふもふっ、」
自分の言葉ではなく千代丸に答えるブランカにほんのちょっぴりムッとしたジオンが後ろからブランカを抱き上げる。
「もふもふじゃないけど、抱き付くのは私にしてほしいなぁ。」
ブランカが器用に体を反転させて、ジオンに抱き付いた。
「いつか、ブランカにとっての千代丸が現れるよ。」
「もふが、よいのです。」
柔らかいブランカの頭を撫でる。
「蜥蜴さんや、鳥さん達も好きよ、でも、こう抱き締めた時の感触を堪能したいのです。」
ジオンに一生懸命説明するブランカは、幼子のように可愛らしい。
千代丸に、本格的な嫁探しをさせるかとジオンは考えて苦笑する。何処にケットシーが潜んでいるのか、ジオンには数ヶ所心当たりがあった。
問題は、お子様思想の千代丸かなとも思う。ただの猫時代なく生まれた千代丸は、恋など知らない。発情期など経験ないだろう。
「姫、今度、城の図書室に千代丸を連れて行ってみよう。」
ケットシーが出現する場所は、鼠系の魔物が出やすい所である。
「絹糸の産地にも行ってみよう。」
自分の我儘に色々考えてくれるジオンに愛しさが沸き上がり抱き付く。
『ねー、何処?何処行くの?ボクも仲間に入れて!』
千代丸が頭を刷り寄せてきた。
もちろん、千代丸は連れていくつもりだ。
「姫、この世界に飛ばされてどう?」
突然の問いだった。
けれど、ブランカは先程までも可愛らしい笑みではなく雅な笑みを浮かべた。
「あの者が何の思惑で妾と旦那様を穴に落としたのか分かりませぬが、元とは違い、異能者が迫害など受けぬ世界。それに皆も変わらぬ心でいてくれます。」
姿が変化してもその中の心は変わらない。
屋敷でブランカは力を使う時、元の姿に近い色合いに一時的ではあるが戻ったことを覚えている。
ならば、公爵令嬢ブランカとしてではなく鬼姫として暗躍出来るのでは?なんて思考が過ったのは内緒だ。
「いまは、このブランカなる娘の生を旦那様や皆と共に、」
頬を寄せるブランカ。
その体を抱き締めたジオンは今後の問題について思考する。
「さて、そろそろ城に帰るよ。」
ジオンの言葉にブランカが眉を下げる。
「そんな顔をしないで、共に居られる時は必ずくるから。」
義弟が、学園で新たな聖女に熱を上げていると言う。
何故、学ばないのだと甚だ疑問だが、地頭は悪くなく成績も魔術の腕も其なりに優秀だと言うのに、第二側妃の実家の没落と自分のしくじりで後継から外されそうだから、教会の甘言に乗せられたか。
聖女を手にしたところで、兄上には敵わないだろうに。
ブランカとデイビスの婚姻のからくりには、恐らくあの男が関わっている。
「取り敢えず、ロイエンタールのダンジョンで怪我をしないように。」
そう言明したジオンから米神にキスを受けて二人は別れた。
ジオンがブランカと逢瀬を楽しんでいるのはロイエンタールのダンジョンである。
一目を忍ぶのなら絶好の場所である。
ダンジョンに入るとアルフォンスから連絡を貰ったジオンは千代丸に騎乗し駆けつけた。サプライズである。
「ケットシーは珍しいから目立ったでしょうに。」
アルフォンスの言葉。
「そうでもないよ、」
と笑顔で返すジオン。
「八瀬、姫と義弟との婚約にはアレの関与が疑われる。」
語られた言葉に固まる八瀬。
「警戒を怠るな。アレの真の思惑が分からん。」
何故アレが自分達を穴に落としたのか、どうしてアレもこの世界にいるのか、何をさせたいのか。
何にせよ、仲間達との穏やかな生活を守る。ジオンは改めて自分に誓った。




