側妃の独白③
ナディア様はラウラ様とは親友で、学園に居られる時から親交を深めてらっしゃった。
とても頭の良い女性で初めての宰相になるのではないかと黙されていた才女だ。
愛妾なら直ぐにでも王城に居を与えるとした王家からの言葉に父は激怒したものの、私を第二側妃にするべく確約を取り付けた。
「今更、王子を生んだところで王太子には成れないだろうが、王太子にはスペアがいる。正妃よりも、ナディア妃よりも早く王子を生め!」
しかし、結果はどうだ。
ナディア様は、ジオルド殿下より一年遅れでクロノス殿下を授かった。
祝いの言葉を述べながら父の心情は手に取るようにわかった。
早く、種の効果が切れて欲しい。王城で暮らしながら切に思っていた。
例え魔法に操られていたとしてもラインハルト様は優しかった。
酒に酔っていたとは言え、手を付けてしまったと思っている私への罪悪感もあるようだった。
時を同じくして、正妃ラウラ様と私の懐妊が分かった。
お腹の中に宿る命に嬉しさと戸惑いがあった。
どうか女の子でとの願いも虚しく、ラウラ様の出産よりも遅れてデイビスが生まれた。
4番目の王子。
父は私を蹴り飛ばした。
役立たずと罵った。
4人いる王子の中で第一王子のジオルド様が、神獣の加護を得たことで、父の野望は叶わないことが確定した。それもあったのだろう。デイビスの教育は父の息のかかった者が行うことが会議で決まった。今更、ジオルド殿下の地位は変わらない、ならば、少しでも中央に意見が通るようデイビスの順位を上げることに執着するようにしたようだ。
種の威力がまだ衰えていないため、私の意思は無視され、デイビスは乳母となった従姉妹が行うようになった。
彼女は、我が一族に相応しい野心家だ。かなりの不安があったが、デイビスに関わらせて貰えない現状をどうすることも出来なかった。
デイビスがまだ物心付いていない頃、ウルベルト様とリオニー様が亡くなったと聞いた。
魔獣に襲われたのだと。
たった一人残されたご令嬢も危篤状態だと言う。
あんなにも良い方が亡くなるなんて!私の心に悲しみが満ちていった。
そんなある日、ラインハルト様、ラウラ様、そして、ナディア様が私をラウラ様の離宮に呼び出した。
我が宮の使用人は、誰一人としてラウラ様の離宮に踏み入れることは許されていなかった。
ラウラ様の離宮には幼いジオルド様と彼の頭に乗る神獣様がいた。
『なるほどのぅ、すっかり馴染んでおるわ。』
聖獣様が私を見るなり言った。
「取り除くことは?」
ラウラ様の言葉。
『無理じゃな。無理に取り除けないこともないが、この女の魂が今度こそ壊れる。心は別人格を作ることでギリギリ守られておるがな。おい、女、この部屋は我が結界の中。お前の父に従順な人格は封じておる、好きなだけ泣けば良い。』
一筋流れた涙は限界を知らず、次から次へと溢れた。
言葉も表情も何一つ偽る必要のない空間で私は、全ての罪を告白した。
ラインハルト様を始めとした尊き方々は私の言うことを信じてくれた。そして、今後の方針を話した。
父との接触が少なくて済むように、面会時も私の体調を崩し、医師の立ち会いが必要としてくれた。
もちろん、父の作り上げた人格の私は、医師の立ち会いを拒否していたが、そこは陛下が取り計らって下さった。
そんな折り、ジオン殿下が誘拐される事件が起きた。
私は、心から神に祈った。
この頃には神獣様のお力により、種はだいぶん押さえ込まれていたので本来の私が前に出てきていた。
久しぶりに離宮を訪れたデイビスがジオン殿下の誘拐についていい気味だと言っていたことには流石に腹が立ち頬を叩いた。
ポカンとしていた息子はジオン殿下への劣等感を拗らせていた。
無事に救出されたと聞いた時の安堵感。そして、デイビスとの決別を如実にしていた。




