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 フィリップは真剣にフィリアを説得する事にした。

 それに、グレンに対する怒りもある。幼馴染の気安さもあって拗れてしまったのだろうが、好きな女をここまで追い詰める事はないだろう。


「それは本末転倒だろう。そこまでして君が譲歩する必要あるの」


「わからないわ」


 グレンを女にする事を止められた時以上にしょんぼりと俯いて、フィリアは弱々しく頭を振った。


「もうどうしたらいいか、分からなくなってしまったの」


 弱音を吐くフィリアは、とても小さく見えた。

 聖女と祭り上げられ、賢く優しい聖女を演じていたとしても、本当の彼女はまだ少女のままなのだ。


 フィリップはフィリアに暖かいココアを入れた。

 甘い飲み物は、張りつめた心を癒してくれる。


 旅の間もフィリップがこうして落ち込むフィリアを気遣ってくれていた事を思い出して、フィリアの気持ちは少し落ち着いた。


 フィリアが落ち着いたのを見計らって、フィリップは一世一代の覚悟を持って、フィリアを説得する事にした。


「フィリアは、グレンと婚約してたんだよな」


「ええ」


「フィリアはグレンと結婚したかったんだろう」


「そうよ」


「でもグレンが大勢の女の人たちと仲良くしているから、結婚するのが不安」


「ええ」


「不安を訴えても、グレンが聞いてくれないので、結婚をやめようと思った」


 コクリ、とフィリアは頷いた。


「そこまで君が思いつめているのに、グレンは相変わらず大勢の女の人たちと仲良くしているし、君が離れていくのも許さない」


 フィリアはココアのコップを抱えたまま俯いてしまった。

 聞けば聞くほど、どうしたらいいのか分からなくなる。


「やめちゃえば。そんな奴好きでいるの」


 びっくりして顔を上げると、フィリップが口を尖らせて怒っていた。


「好きだから、そんな事で悩むんだろ。そんな奴やめて塔に来ればいい。ここなら君を護ってあげられる」


「それってプロポーズなの?」


「そのつもり」


「フィリップと結婚したら、毎日自由に過ごせそうね。旦那様は研究室に篭りきりでしょう」


「君と結婚したら、毎日帰るよ」


「嘘おっしゃい。研究に夢中になったら寝食も忘れる人なのに」


 フィリアが得意げに言うと、二人は明るく笑いあった。


「ありがとう。少し気持ちが軽くなったわ。でもごめんなさい。貴方と結婚したら、グレンは塔を壊してしまうかもしれないわ」


 生半可な事で倒される塔ではないが、魔王を倒した勇者なら本当に塔を倒してしまうかもしれない。


「グレンが女好きじゃなくなる薬があればいいのに」


 ぽつりと、フィリアが呟いた。


「あるよ」


「え!?」


 驚いてコップを落としそうになったフィリアを余所に、一世一代の覚悟を決めてプロポーズしたのに、そんな事で良かったのか、とフィリップはがっくりと崩れ落ちた。







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