024 とっておき
身体は震えていた。けれども、それは武者震いなのだろうとルッタは感じていた。恐怖はない。ただそこにある闘争をルッタは求めていた。だからこそルッタは笑っていた。獲物を前にして笑みを浮かべていた。
「すみません。ちょっと興奮して……大丈夫ですから」
その様子にギアが眉をひそめるが、そこにリリが『大丈夫だよ』と口を挟んだ。
『ルッタなら大丈夫だよギア』
その言葉にギアが諦めた顔でため息を吐いた。
『分かった。ルッタ、無理そうなら即座に退却しろ』
『しゃーないね。背中は任せな。ヤバいようならあたしがカバーしてやるって』
シーリスがそう口にし、ジェットも『うむ』とだけ返し、アーマーダイバー乗り全員の認識も揃った。
『それじゃあ、リリ。まずはおまえだ。一足先に出てゴーラを引き離してくれ』
『オッケー。いってきまーす!』
そう言ってリリの乗るフレーヌがガレージから飛び出てタイフーン号から距離をとり始めるとゴーラ武天領軍も併せてフレーヌへと船頭を向け、銀鮫団と距離をあけ始めた。
「艦長、ゴーラ武天領軍が銀鮫団から離れたよ。こっちも動いていいの?」
ルッタの問いにギアは首を横に振る。
『まあ待てルッタ。確かに銀鮫団はお前たちに任せると言ったが、俺たちだってただ何もしないってわけじゃあない。オーエン、とっておきの準備はできているか?』
『あいよ艦長。ルッタのおかげでバッチリですよ』
「俺の?」
整備班の班長オーエンから出た自分の名前にルッタが首を傾げる。少なくともルッタはここで己の名前が出てくることに対しての心当たりはなかった。
『ああ、ルッタ。この船にはちょっとした発掘兵器が積んであってな。まあ、ぶっ壊れててしばらく使えなかったんだが』
「はぁ、そんなもんがあったんですね」
『あったんだよ。それでな。壊れてたのはコアパーツで、お前が倒したドラゴンの核である竜心石を使って、先日にようやく修理ができたってわけだ』
(そういや、ガレージの奥の方でよく分かんない機械が置いてあったけど、アレのことかな?)
ブルーバレットの整備をしにガレージに行くことが多いルッタは、ガレージの奥、船尾に当たる場所に何かの機械が設置されていることを知っていた。アーマーダイバーには関係がなさそうなので気にしてはいなかったが、最近オーエンたち整備班がその機械に対して何か手を加えていたのを思い出した。
『使えるなら問題ない。それじゃあ決まりだな。船尾開け』
『アイサー』
そのやり取りの後にタイフーン号の船尾がガリガリと金属音を立てながら左右に分かれ、中から竜が顎門を広げたような姿の、その中に無数の砲門が並んでいる奇妙な兵器が顔を見せた。
『ハッ、ゴーラの戦艦相手じゃあ装甲も厚いし落とせるかは微妙だったが……銀鮫団、テメエらの船ならどうかな?』
そしてギアが艦長席から黄金の竜を模した銃のような照準器を取り出すとおもむろに追撃してきている銀鮫団の五隻の雲海船へと向けた。
『ちょっと、おい待て』
そんなタイフーン号の様子に気付いたのか、唐突にアールから通信が入る。
『ギア団長、俺らは別に戦いにきたわけじゃない。一度話を』
アールはタイフーン号の船尾から見えた兵器に気付き、自分たちの状況を理解したのだろう。わずかな時間でも会話で引き伸ばしして固まって移動している雲海船をバラけさせねば……と考えたのかもしれない。けれどもその考えは甘い。
『ハッ、もう遅えんだよ。見逃すのは一度だけだ』
一度目は留まった。けれども二度目はない。
『拡散ドラグーン砲発射!』
『止めろギアぁァアアア』
アールの叫び声と共に竜の顎門より無数の光線が放たれ、それは光の雨となって銀鮫団を襲う。
そして瞬く間に雲海船二隻と十機あまりのアーマーダイバーが炎を噴き上げて沈められる結果となったのであった。




