038 断つ鳥は後を残さず
ジャッキー流剣術『竜縛手』。
或いは、無手の技ゆえにジャッキー流『拳』術に該当するのかも知れないが、それはルッタの気分次第なのでどうでも良いことではあった。
ともあれ、それがマキーニたちの動きを封じた技の名だ。
元々は高速で爪撃してくるドラゴンへのカウンターとしてルッタが用意した技であり、射出したワイヤーアンカーを即座に輪っか状に結び、それを攻撃を仕掛けてきた前脚に引っ掛けて拘束するというものであった。
非常に高度かつ、タイミングも難しい技ではあるが、一度覚えた動作をキーボードにアクション設定することで繰り返し行うことが可能になる特性を利用し、ルッタは一連の動作をワンタッチで行えるようにしていたのである。
対ドラゴン用ではあるが、ルッタはマキーニ二機を同時に相手取って仕掛けることに成功した。それはそこに至るまでにマキーニの猛攻を耐え続け、敵の速度域にも慣れたために可能となったことではあるのだろう。
結果としてルッタはマキーニ二機の拘束に成功し、全自動魔導散弾銃の連射によって活動不能に追い込むことにも成功した。
「……というところまでは良かったんだけどなぁ」
「いや、お前はよくやったよ。マジで」
落ち込むルッタにギンナがそう声をかける。
彼らの目の前には黒い煙と未だに燃え盛る三機のマキーニの姿があった。
「しかし、まさか三機とも自爆するなんてな」
ギンナの言葉の通り、最初に破壊された機体を含め、三機のマキーニは決着がついた直後に自爆したのだ。
結果として、VIPルーム近辺と闘技台自体が盛大に破壊されて、マキーニたちは自爆後の今も延焼を続けている。
(二機捕まえたら一機くらいくれないかなーと思ってたのに……無人機だから自爆にも迷いはないし、爆発の魔術が発動した感じはなかった。爆薬は内蔵エネルギーを代用したのかな? 遠隔で自爆可能ってんだと鹵獲は無理だよねぇ)
自爆を阻止するには通信を遮断しなければならないが、それが可能ならそもそも戦う必要もないのだ。加えて自爆用の爆薬が仕込まれているのではなく、内蔵エネルギーを自爆に流用させているのだとすれば、爆薬の分離も発火阻止も難しい。
(逆探知ができれば、操っている相手を探す事もできるだろうけど……ああ、そういうのも潰すためにあのアーマーダイバーや魔導具を機能停止するミサイルを使ったのかも?)
直接的な戦力を潰す意味でも、間接的な対策や応援を呼ばれないためにも、初手の攻撃は非常に有用であったと言わざるを得なかった。何しろ、それは現在においても彼らの足を引っ張っている。
「ま、コイツらを手に入れられないのは残念だったけど、こうして生きているわけだしね。ギンナさんには助けられたよ。ありがとう」
「へっ、気にすんじゃねーよ。勝ち逃げで終わらせたくなかっただけさ」
包帯まみれのギンナが照れくさそうな顔でそう返す。
コンテナミサイル内の小型ミサイル自体は、機体の機能を停止させることがメインで爆発力はそれほど高くはなかったようだが、それでも量産機相応の装甲しか持たないアヴァランチでは直撃なら大破していただろう。
あの時点で、アヴァランチはすでに動けなかったのだから避けることもできなかったし、そうなると搭乗していたルッタも死んでいた可能性が高かった。
「だとしても感謝はしてるよ。それでギンナさん。そっちの機体もまだ動かないの?」
「駄目だなぁ。機動核の反応は徐々に上がってきてるから、もうちょいだとは思うんだが」
「アヴァランチとおんなじなんだよねぇ」
ルッタたちがこの場に残っているのは、それぞれのアーマーダイバーがいまだに起動していないからであった。どうやら敵マキーニの機能停止攻撃は一時的なもので、徐々に機体も動き出しているのだが、まだ自力で移動可能なほどではないのだ。
止まっている間にルッタが簡単に修理はしたのでアヴァランチも機動核さえ正常に動けば移動は可能なはずだが、まだ時間はかかるようだった。
(誰かに運んでもらうってのも手だけど、混乱中だからなぁ。軍も動いてるこの状況で機体自体が盗まれるってのはないと思うけど、パーツぐらいはパチられそうだし)
そんなわけでルッタとギンナは、その場を動けない。
なお、リリはフレーヌのあるタイフーン号に戻っており、ギアたちは領主と共にすでにこの場を離れ、現在はマリアのオリジンダイバー『ヴィーニュ』が護衛についていた。
それはリリのタレットドローンであるシルフとシェーロ大天領軍の特殊仕様の高出力型アーマーダイバーだけがあの機能停止の影響下で動けていたこともあり、オリジンダイバーやそれに準ずる機体にはあの機能停止攻撃は効かないと判断されたためであった。
また、タイフーン号からやってきたラニーたち戦闘班は闘技場に着いた頃には状況が終了していたためにハンターギルドの面々と共に雑用に回っており、シルフのアンもそこに合流して闘技場内を駆け回っている。
そして先ほどまでルッタと共にいたタラは、コーシローと共にブルーバレットでタイフーン号に戻っていった。
そんな状況でその場に留まっているルッタたちに、シェーロ大天領軍の一団から男がひとり近づいてくるのが見えた。
「いやー、助かったぞ少年。凄まじいな。ギンナも良くやった」
「あ、はい。……軍の人だよね。ギンナさんの知り合い?」
「コーザの旦那だ。シェーロ大天領軍の第三騎士団を率いている。序列一位のゾロさんの弟でもある」
ギンナがそうルッタに説明をすると、コーザが苦笑しながら頭を掻いた。
「才覚ある兄が家を出てしまってな。代わりに据えられた無才だが……まあ君が二機まとめて倒したというのに俺は一機相手に惨敗。こうして恥を晒しているよ、まったくな。ははは」
コーザが俯いて乾いた笑いを浮かべるが、その言葉と声でルッタも目の前の人物が誰なのかが分かった。
「ああ、その声。さっきの高出力型の人か」
コーザは、先ほどマキーニに単独で攻撃を仕掛け、大破した高出力型の乗り手であった。であれば、当人が落ち込んだ様子なのも仕方なしとルッタは理解した。
コーザさん、普通に強いのだけれども相手も状況も悪かった。このレベルの技量の人は部隊を率いれば、ラインクラスのオリジンダイバー相手でも十分に渡り合えます。




