037 人と機械の狭間で
「こっからはこっちのターン……には簡単にさせてはくれないんだよなぁ。まったく」
ルッタはそうボヤき、ブルーバレットを全力でぶん回しながらマキーニの攻撃を回避していく。
闘技場内の観客席にいた観客の多くはすでに避難している。また闘技場の外からシェーロ大天領軍の高出力型と思われるアーマーダイバーが一機飛び込んできてマキーニの一機を相手取っているため、ルッタが請け負っているマキーニは残りの一機のみとなっていた。
で、あるにもかかわらず、ブルーバレットとマキーニの戦いは拮抗……或いはマキーニが一方的に攻勢に回っているようにも見えていた。
もっとも、その光景を見ている人間が、防戦一方のルッタをソロドラゴンスレイヤーの名折れと思うことはないだろう。何しろ、たとえ一機であろうとマキーニの機動力は彼らの知るアーマーダイバーを大きく上回っており、それは量産機の性能で抗せているのが奇跡と思えるほどの常軌を逸した動きであったためだ。
(フレーヌよりも速い。動きが雑だけど、近接時に精度がグッと上がる。格闘モードにスイッチされてる感じか)
マキーニの動きは身軽な猿の如きものだった。
また全身に搭載されている無数のスラスターを使って、どのような体勢からでも即座に反応が可能で、まるで機動力の限界を追求しているような機体であった。
(中に人が乗ってたら完全に挽肉コースだろうな。おっかない)
息継ぎする間を取るのも困難なほどに、絶え間なく斬撃が降り注ぐ。その動きから相手はそもそも呼吸をするという概念がない存在なのだとルッタは理解する。
(魔力濃度の薄い竜雲海の上でこの機動。魔力内蔵? 全身にスラスターを仕込んだ完全近接型。高速で飛んできて突っ込んで、近接で仕留めるわけだ。暗殺向きとでもいうべきかな?)
どうやら遠距離攻撃可能な武装は最初に撃ったコンテナミサイルだけで、武器は両手足と翼から出ている六枚の魔力刃のブレードのみだ。だが、その尋常ならざる加速力と機動力により、一気に距離を詰め、接近をすると高度に自動化された近接攻撃プログラムに従って敵を屠るように動いてくる。
その動きは『リリの動きにも似ていた』が、より機械的で、そこに人の気配をルッタは感じなかった。
(ここまで動かれると、銃弾は早々当たらないよね。近接戦に慣れてる人間じゃないとソッコーでバラバラにされそうだ)
白牙剣と、敵マキーニのアームブレードがギィンッと音を立ててぶつかり合う。
「キーーーーー」
その一瞬の隙をついてタラが全自動魔導散弾銃を撃つが、敵マキーニは己の体勢などお構いなしにスラスターを噴かして散弾を避ける。
「キッ、キィ!?」
「落ち着けタラちゃん。目で見て狙ったんじゃ当たらない。相手の動きを予測して……おっと」
再度打ち合っていると突然、二機目のマキーニが襲いかかってきた。それをルッタは黒牙剣で受け止めながら跳び下がり、先ほどまで二機目のマキーニが戦っていた場所へと視線を向ける。
「あっちの方は……って、あちゃー」
飛び込みで参加していた高出力型アーマーダイバーが、四肢を切断された形で闘技台に転がっているのが見えた。
「キーーーーーッ」
「タラちゃん。役立たずじゃないよ。アレは仕方ないって」
タラの暴言にルッタが思わず苦言を呈する。
何しろ対峙しているマキーニのスペックは接近戦に限ればオリジンダイバーを凌ぐほどのものだ。対して倒された高出力型は、恐らくシェーロ大天領軍でも腕の立つ乗り手だったのだろう。あのマキーニを相手に、ここまで対抗できていたことこそが乗り手の力量の高さを示していた。
『ハンターの。すまん、そちらに行った!』
「ッ」
撃破された機体から通信が入る。ルッタは言葉を返せない。敵の攻撃を捌くのに集中していたし、体にかかる強烈なGによって言葉を発することができないのだ。
『返事はなくていい。警備のアーマーダイバーはもう残っていない。ハンター組合に連絡も入れているが、増援が来るにはまだ時間がかかるだろう。せめて領主様がこの場を離れるまでの時間を稼げれば……可能であれば足止めを……く、不味い』
話している途中で会話が途切れ、アーマーダイバーが爆散した。
(すでにガードボックスを貫いて機導核まで破壊してたかぁ。それだけ、あのブレードの威力は高いと。牙剣じゃなきゃ、武器ごと破壊されてたかもなぁ。で、闘技場周辺の機体は活動不能。増援もいつ来るかわからない。じゃあ、あの高出力型はなんで動けてたのって話だけど……今は気にしてもしゃーないな)
ここまでの戦闘で、ルッタの体の負荷も相当に蓄積されつつある。またギンナとの戦いのダメージも残っているのだ。先ほどから鼻血が漏れて詰め物をしているが、ルッタ自身の限界も近かった。であれば……
(だったら、まあここらで終わりにするか)
とルッタは『仕上げに入るべき』と頷いた。
「じゃあタラちゃん。そろそろ終わりにするね」
「キィ? キィイイイイ!?」
え? どういうこと? というタラの反応を尻目に、二機のマキーニが襲いかかる中、ガクンとブルーバレットの動きが変わり、フライフェザーを最大出力にして天高く飛び上がった。
「キ、キィイイイイ!?」
これでは空を飛べる相手の良い的だ。そう理解したタラが半狂乱になるが、それは相手の次のパターンが読みやすいということ、相手の攻撃が予測しやすいということであった。ルッタは眼下に迫る二機の動きを見ながらニィッと笑う。
(タイミングは同時。動きも同じ。やっぱり『ひとりで操作』してるのな)
大部分は自動化しているのだろう。
けれどもマキーニたちの動きの中に、人の意思の介在もルッタは確かに感じていた。何かしらの選択が入る状況だと僅かに動きが遅れ、人間の判断らしきものが感じられるのだ。
(うん。だから分かりやすい。動きが甘い。読みやすい。人と機械の狭間、それがアンタの隙になるんだよ中の人!)
ルッタとて、マキーニ相手にここまで遊んでいたわけではない。
ここは竜雲海ではなく、敵は空を飛び、ブルーバレットもテールブースターで短時間跳べる程度。ただ倒すだけならば不可能ではなかったが、相手が逃走の意思を持たれては追いつけない。だからこそルッタは待った。
シェーロ大天領軍の高出力型がもう一機を取り押さえられたのであれば、合わせてこちらも鹵獲すれば良し。高出力型が負けて二対一になったのであれば、二機とも捕まえてしまえば良いだけのこと。
一番やってはいけないのは、二機とも逃げられてしまうことだ。空を飛ばれては追いつけないのだから、一機を相手にしている時はどうにか善戦している……という形を保って二機目の動きをルッタは見ていたのである。
(まあ、この速度域の戦闘に慣れておきたかったってのもあるけどさ)
そんなことを考えながらルッタは左右それぞれの腕部から射出して伸ばしたワイヤーアンカーを一瞬の動作で輪っかにすると、二機のマキーニから繰り出されるアームブレードへと引っ掛けた。その一瞬の早技はルッタが何千回と繰り返した動作の中でもっとも上手くいったパターンをアクションとして登録したものだ。
「素直な動きだねぇ」
その状況にマキーニも気づいたが、すでに遅い。
そしてそのワイヤーアンカーが結び付けられたマキーニ同士がテールブースターによる加速で一気に降下したブルーバレットを支点として、まるでアメリカンクラッカーのように空中で激突すると、なすすべもなく闘技台へと落下していった。
「ま、『半自動』ならこんなもんか。じゃあ」
その様子を見ながらルッタはブルーバレットを再度跳び上がらせて、タラに無情の指示を出した。
「タラちゃん、ブチかませ」
「キーーーーーーーー!」
そして殺意の波動に目覚めたタラによって全自動魔導散弾銃から散弾が雨あられのようにマキーニたちへと降り注いだのであった。
イメージ的にはニンジャブレードとか言われてる物理刃で仕留める暗殺用ミサイルR9X的な?
人間が部分的に操ってるので、某時空要塞のプラスのゴーストさんほどの圧倒感はないけど、完全自動制御パターンもそのうち出る予定です。




