035 ターンチェンジ
「止まってんのは俺らの機体だけじゃねえのかよ。それにあの妙な機体、何が起きてやがる!?」
ギンナが叫んでいる横で、ルッタは眉を顰めて、突然現れた可変機体を眉をひそめて観察する。
(アーマーダイバーよりも一回り小さく、戦闘機にもなるマキーニ。空中で静止してるけど、ブースターの噴射で飛んでる? フライフェザーじゃないんだ。まあ上空から降りてきたからそうだとは思ったけど)
アーマーダイバーに装備されているフライフェザーはリフレクトフィールドという魔力に反発する空間を発生させることで浮力を得る。
必然的に魔力濃度の薄い天領上では発動が安定せず、空を飛ぶような真似も短時間しかできない。
つまりはフライフェザーも使わず、ブースターの噴射だけで行っている時点で、目の前の機体は既存のアーマーダイバーとは別物だった。
(けど、不味いな。アレが敵だとしてどうすることもできない)
ルッタはアーマーダイバー抜きでは、ただの子供だ。罠ありきで、せいぜいが盗人の集団を殲滅させることぐらいしかできない子供なのだ。
テオであれば、生身でも立ち向かって、機体を奪うこともしただろうが、ルッタは武闘派ではない。
「動き出した?」
「二機が倒れてる警護のアーマーダイバーに向かって……もう一機は!?」
単独行動を始めた三機のうちの一機がVIPルームに近づいていくのが見えた。
「狙いは領主様か?」
ギンナが苦い顔でそう口にする。
(あそこにはリリ姉や艦長、それにメイサ姉もいるはず。狙いは誰だ?)
狙われているのは、この天領の領主か、リリか、風の機師団を率いているギアか。エントラン親子という可能性もある。ルッタがどう動くかと思案していると、
ドォンッ
という音と共にVIPルームに近づいたマキーニが煙をあげて倒れていく。
「あれは……アンの攻撃?」
それを撃ったのはリリの機体フレーヌの兵装であるタレットドローンのシルフの、今朝までルッタのそばで護衛をしていたアンであった。今回、リリがここに来るためにVIPルームの護衛としてその場にいたのだ。
(リリ姉のシルフはさっきので機能停止してなかったのか。内蔵している魔導銃は不意を打てばアーマーダイバーも倒せる。あのマキーニ、装甲は硬くないな)
「ははは、流石に領主様も備えはあるか」
ギンナが嬉しそうに笑った。撃った存在の正体は領主とは特に関係がないのだが、ルッタは突っ込まない。
「問題は……ああ、やっぱり二機も動き出したか」
闘技場の外周に配置されていたアーマーダイバーを破壊していたマキーニ二機が踵を返してVIPルームに向かっていく。
(アンだけだと流石に厳しい。リリ姉ならやれそうな気もするけど、相手は飛んでるし)
であれば、どうするか。動かないアヴァランチの代わりの機体もこの場にはない。乗り換えようにもどの機体も止まっている。
(ブルーバレットも持ってきていれば……というのは無理筋だよね。理由もないし。そもそも、いたら一緒に止まってたはず。でもオーバーホールは終わって今はタイフーン号にあるから、どうにか連絡を付けられれば)
通信機。アヴァランチのものは動かないが、有線であるはずの闘技場内のものであれば……そう考えたルッタが駆け出そうとした時、聞き覚えのある『鳴き声』がその場に響き渡った。
『キーーーーーー!!』
次の瞬間、闘技場の外からテールブースターで一気に観客席を飛び越えた青と黒の機体がマキーニの一体にタックルして弾き飛ばしながら、闘技台まで落下してくる。
「青い機体? ルッタ、アレはまさかお前の機体か?」
「そうだよ。ナイスだタラちゃん」
そう言って、ルッタが駆け出した。
マキーニ二機が動き出して、ブルーバレットに攻撃を仕掛けるが、それにはタクティカルアームで操作された全自動魔導散弾銃が牽制し、その間にルッタが機体に乗り込んでいく。
「キーー」
「うん。助かったよタラちゃん。本当にあんがと」
そう言いながらルッタがキーボードを操作して、ブルーバレットのコントロールを自分に戻しながら機体を動かしていく。
(まったく、何が起きてんだか分かんないし、どうしてブルーバレットも動けるのか知らないけど)
ルッタが不敵な笑みを浮かべて、腰に差してある二振りの牙剣を抜いた。
「ここからはこっちのターンだ」




