033 ドリルを砕く者
「じゃ、やりますか」
そう言って最初に仕掛けたのは、ルッタの乗るアヴァランチの方だった。
ギンナの脚部に搭載されたローラーは加速すれば速度がフライフェザーと並ぶだけでなく、安定した機動と地に足のついた重い攻撃を行うことを可能とするのだが初速は遅い。対して、アヴァランチの脚部に搭載されているチックフェザーは圧縮したリフレクトフィールドを放つことでジャンピングシューズのように一気に加速することができるシロモノだ。加えてドラッグブースターはまだ使用していないが、両腕部に装備した魔導手甲の肘部からも加速用のブースターを起動させてギンナ機まで距離を詰めることで、ルッタが今試合最初の一撃を放った。
ガァン
「お?」
『ヌリィんだよ』
けれども、その拳は届かない。
ギンナ機の右腕のドリルがアヴァランチの一撃を弾いたのである。
(ドリルの回転で弾かれ方が不規則。それだけじゃない。フライフェザーにはない踏ん張り。脚部のローラーはこのためか!?)
ドリルパリィの衝撃にアヴァランチが体勢を崩し、対して脚部のローラーを高回転させることでギンナ機は弾いた衝撃を殺して踏み止まった。攻守交代。ギンナがアームグリップを振り上げて、アヴァランチへと攻撃を仕掛ける。
『おらよッ』
「うわっと」
そしてギンナ機の左腕のドリルが振るわれるも、ルッタはドラッグブースターのスラスターを噴かしてそれを避けた。
(ウッグ!?)
無理な機動による回避はルッタの内臓に裏返させるような衝撃を与えたが、今はそのことを気にしてはいられない。追撃を避けつつ、後ろに跳び下がりながらルッタが笑う。ここまで繰り返した試合の中でも、やはりギンナは別格であった。そのことがルッタは嬉しくて、獣のような笑みを浮かべた。
「さすがにやるねギンナさん!」
ルッタは一度距離を取ったアヴァランチの両足のチックフェザーの出力を最大にして、再びギンナ機へと飛び掛かる。
『舐めてんじゃねぇぞルッタァ』
脚部のドリルを使った蹴りがルッタの放った魔導手甲とぶつかり、ローラーの力で踏み止まるギンナ機に対してアヴァランチの方はやはり衝撃によって機体が弾かれた。
(ドリルの螺旋状の回転が、弾き方の法則性を崩してる。想像以上にやり辛い)
追撃してくるギンナ機の攻撃をかろうじて避けながらルッタは再度魔導手甲を振るうが、ドリルパリィが全てを弾いてしまう。一見してドリルは攻撃性の高そうな装備だが、まさか防御に使うとはルッタも予想外であった。
(経験則ってのはあるだろうし、フライフェザーに対してローラーの安定性が高いってのもある。何よりも腰回りの安定性……なるほど)
数度打ち合っただけで、ルッタの体へのダメージが蓄積されていく。ドリルパリィによる防御は硬く、規則性のない弾きと、機体を通して自身にかかる衝撃が非常に厄介であった。けれども、溢れてくる鼻血を拭いながらルッタは笑う。その瞳は久しくなかったほどに爛々と輝いている。
ルッタとて、剣闘士を舐めていたつもりはなかった。ただ、ここまでの連戦で掴んできていたとは思っていた。それが、こうも簡単に覆される。竜雲海での戦いとは全く違う、剣闘士としての試合。それを実感したことでルッタの闘志がさらに滾っていった。
(慣れれば、対処はできるかも……だけど、それまでに俺が持たないな。だったら)
ボッという音を立てながらアヴァランチがドラッグブースターを噴かして、闘技台の外回りを駆けていく。
『おいおい。当たらなければってか?』
その様子に、ギンナが叫ぶ。
ルッタの狙い、それがドリルのない背後を狙うつもりなのは明白だった。何しろドリルは前に向かって突き進むものだ。その思想を正しく反映させた、この機体のドリルはすべて正面を向いているのだから。
『こっちがそれを見越してないとでも思っているのか?』
そのギンナの言葉に答えることなく、ルッタはワイヤーアンカーを射出して闘技台に突き刺すと、それを軸に遠心力を利用してさらに急旋回しながらギンナ機の背後に向かって加速していった。
『そいつはアメェーぜ、ルッタァア!』
けれども、ギンナ機の脚部はフライフェザーではなくローラーだ。左右の脚部の回転を変え、またドリルブースターも噴かすことでギンナは瞬間的に機体を振り向かせた。ギンナとて剣闘士。己の弱点など己が一番理解している。当然克服もしている。
そして両機は正面から打ち合う形となった。
『真っ向勝負なら俺のドリルは無敵だッ』
ギンナ機の両腕のドリルが巻き付くように合体して巨大なドリルを形成していく。それは大牙剣にも似たギンナ専用の兵装。さらにはドリルブースターと脚部の計四つのドリルも突き出され、巨大ドリルで弾いた機体を貫こうと牙を剥く。その形態にルッタが舌を巻いた。
(正面からの打ち合いは不利。弾かれれば、四方のドリルのどれかに刺さる。ああ、確かに強い。強いよギンナさん。けど)
ルッタは、フットペダルを踏み抜いてさらに速度を上げていく。
速度は力だ。その真理を胸に、ルッタの瞳はただ眼前の敵の一点に集中した。
(狙うは、弾かれぬドリルの中心。そして、ここで放つのは)
ルッタがテンキーもどきを繋げたキーボードをタタタタンッと打っていく。チックフェザー、ドラッグブースター、左の魔導手甲。それら全てを完全なるタイミングで出力を最大にし、アヴァランチの最高速度が闘技台の上に実現した。
「ジャッキー流『拳』術『破城鎚』!」
そのまま巨大な鋼鉄の矢となったアヴァランチの右腕の魔導手甲が、合体ドリルの中心点へと激突した。
『ジャッキー流だとォォ!?』
そしてギンナの叫びとともに両腕の巨大ドリルが砕け、ラゴウは闘技台の外にまで吹き飛んでいったのであった。
ジャッキー流が剣術だけだと誰が言った?
もちろんジャッキー師匠も知らないぞ。




