032 ドリドリドリドリドリ
『……よう、ルッタ。来たか』
ルッタが東門から闘技台へと進んでいくと、そこには先に入場を果たしていたギンナの機体があった。
(高出力型ではない、モワノータイプベースの改造機体か。フライフェザーを廃して、移動はブースターとローラーを使ってる。ずいぶんと思いきった改造だけど……なるほど、速そうだ)
『ラゴウ』。そう名付けられたギンナの機体はルッタのアヴァランチと同じ量産型のモワノータイプであったが、その外観はずいぶんと違っていた。
とはいえ、それは魅せるために彩られたものではなく、一見して歪な姿ながら、己が実力を生かすために改造し続けた結果なのだろうとルッタには理解できた。
特にフライフェザーを使用しないビルドというのは、アーマーダイバーの専門家とも言えるルッタから見ても珍しいものであったし、それが平坦な闘技台のみで戦う剣闘士であれば実用的であることも理解できた。
(というか、それ以上に……さ)
ルッタの視線がマジマジとギンナ機のとある部分に向けられる。
(アレ、ドリルじゃん。ドリルドリルドリルドリルドリルドリルじゃん)
そう、ドリルだ。ドリルドリルドリルドリルドリルドリルなのだ。
ギンナの機体ラゴウの両腕にそれぞれ装着されているのは螺旋状に尖っている円錐状の武器、すなわちドリルであった。
また両足の爪先にも同じようにドリルがそれぞれ付けられており、バックパックウェポンもドリルが付いたブースターだった。
ローラーで走る、ドリルが六つ生えている異形の機体、それがギンナの愛機『ラゴウ』であったのだ。
(ああ、なるほど。この人。イシカワさんの同類だったんだ)
その機体を見てルッタはそう解釈した。なんとなくこれまでの行動に納得がいったルッタだった。
「言われた通りにちゃんと上がってきたよ、ギンナさん。来年じゃあなかったけどね」
『ああ、そうだな。最年少のソロドラゴンスレイヤー、アンカースの英雄。俺程度で計れる相手じゃあなかったってぇわけか』
「そんなことはないけどさ。正直ギンナさんの提案は助かったよ。剣闘士としての立ち回りを覚えたくても、これまではそれができない環境だったし」
ランクBのハンタークランなら、依頼を受けて天領を渡り歩くのは常だ。加えてゴーラ武天領軍から逃げ続けてきたのだから、腰を据えて試合を組むようなこともルッタはこれまでできなかった。
「まあ、駆け足になったのは確かだけど、その分経験は積ませてもらったよ」
そのルッタの言葉にギンナは反論しない。このシェーロ大天領でルッタが試合をしたのはわずか四日。その期間で剣闘士の何が分かったのか?……とは返せない。
何しろルッタは、駆け抜けた四日の間に四十試合をこなしている。それは通常の剣闘士の半年の試合数に匹敵するのだ。加えて全戦全勝、呆れてしまうほどの実績だ。それだけの試合をこなせば、新人であっても剣闘士としては十分に認められる。それをギンナも理解していた。
「後はギンナさんが俺を剣闘士として認めてくれれば、完璧かな」
『そんなもの……いや、そうだな』
ギンナは首を横に振った。
そもそもギンナはとっくにルッタが剣闘士であることを認めていた。己よりも格上であると分かっていた。
少なくとも四日で四十試合などという無謀な真似はギンナにはできず、試合内容もギンナを唸らせるには十分なもの。ルッタは、わずかな時間で剣闘士としても完成しつつある。
けれどもルッタ・レゾンの言葉に応えられるのはギンナ・エルゴの薄っぺらい言葉ではなく、己の拳であると知っている。
シェーロ大天領闘技場の序列二位剣闘士の螺旋拳ギンナとして迎え撃つことこそが、最大の敬意であると理解している。
『剣闘士なら、自分で認めさせてみな』
「そうだね。そうする」
そうして両者が構え、
『東門、アンカースの英雄ルッタ・レゾンの駆る『アヴァランチ』。対するは西門、螺旋拳ギンナ・エルゴが駆る『ラゴウ』。それでは試合を開始する。双方構え……ファイト!』
開始の合図とともにふたつの鋼鉄の塊が闘技台を駆けた。
なお、ギンナさんの機体『ラゴウ』はアキハバラオー最強レアロボ武器商店が改造しており、ヘッジホッグのプロトタイプに当たる系譜の機体となっております。




