028 ドラッグブースター
『それでは一日明けての『ルッタ・レゾン序列上位最速チャレンジ』を再開いたします』
『本日一回戦目の相手は序列十二位ギザ・ランヂ。序列一桁は目前。今期の戦績次第では上位にも手をかけるだろう中堅のエース。果たしてギザはルッタの連勝記録を止められるのでしょうか』
『そうですね。非常に気になる一戦です。そして手に汗握る戦いがこれから始まるわけですが……おや、ルッタの機体の装備が一昨日までとは違いますね』
『はい。足元の短いフライフェザーはチックフェザーでしょう。扱いが難しい玄人好みの装備ですよ』
『ハハハ、リフレクトフィールドの発生翼を詰めることで強力な跳躍力を生みますが、下手すると派手にすっ転びますからね。ですが、そちらも気になりますが目立っているのはバックパックウェポンの方でしょう。武器ではなくブースターのようですが』
『メインブースターの左右に対のスラスター。胸部まで覆われたノーズは……んん? アレってシエラのドラッグブースターじゃないですか?』
『確かに……似ている? いや、補助翼に描かれた流星のマーク。アレ、まんま彼女のですね』
『どういうことでしょうか?』
そんな解説者たちのやり取りを受けながら、ルッタとギザの機体が闘技台に上がり、向かい合った。
『ふぅん。もう武器を取っ替えることはしないんだな』
ギザの機体からそんな言葉が発せられる。
ルッタはこれまでの多くの試合を相手側の武器に合わせて戦ってきた。だが、前回のシエラ戦に続いて今回のギザ戦でも彼の持つ魔導戦鎚とは違う、魔導手甲を装備している。対してルッタの答えは『まあね』であった。
『武器はこれが一番使いやすい。他の装備はまだ試してるところだけど』
『試してる……ねぇ。その背負ってるのってシエラのだろ。どうやって手に入れた?』
『ギンナさんに頼んで売ってもらった』
『ハァ?』
ギザが眉をひそめるのも仕方のないことだった。
世間一般的な噂ではルッタとギンナは水と油、犬猿の仲であるはずだ。そもそもこのチャレンジのきっかけが、ギンナが序列上位を巻き込んでルッタの頼みを拒絶したことから始まったはずなのだ。だというのにルッタはギンナにパーツを売ってもらったという。
『お前……ギンナとは仲が悪いんじゃないのか?』
『ん? なんで? いろいろと相談に乗ってくれてるし、良い人だと思うけど』
『???』
どういうこと……とは会場内全員の心の声であった。
ともあれ、ルッタにとってそんな空気など知ったことではなく、話を続ける。
『ギンナさんにブースター売ってる店を尋ねたら提案されてね。なんか一昨日の試合でシエラさんの機体、背骨のフレームが歪んで修理代がヤバいらしくてさ。修理の代金にしたいからって、ギンナさん経由で売ってもらったんだよね』
『なんだそりゃ。いや、あの女はいつものことだがよぉ』
シエラは色々な意味で金のかかる女で、ギンナも彼女が借金漬けで碌でもない目にあわないように金の融通を色々としているのであった。苦労人である。
『まあ良い。だがそいつはドラッグスター、シエラのイカれ装備だぜ。テメーに扱えんのかよ』
『試運転は当然してるけどさ。実践で通じるかは……今から試すつもりだよ』
『はっ、上等』
『東門、アンカースの英雄ルッタ・レゾンの駆る『アヴァランチ』。対するは西門、中堅のエース、鉄塊ギザ・ランヂが駆る『ヴァスチオン』。これより試合を開始する。双方構え……ファイト!』
そして両者が一斉に動き出す。
貴族出身であるギザの乗る機体はフォーコンタイプベースの高出力型だ。その安定性の高さから打ち合いではめっぽう強いフォーコンタイプを強化した機体で、堅実な戦いをするギザとは相性が良い。意外性がなく、面白みのない試合運びが多いために人気は微妙なものの、その実力は確かだ。しかし……
『こいつ、初っ端から加速!? 自殺する気か!?』
ルッタの乗るアヴァランチが加速してギザ機に接近する。
それをどうにか避けるギザ機だが、横を抜けたアヴァランチはギザ機が頭部の水晶眼を後方に向けるよりも早く機体の軌道を曲げた。それはチックフェザーによる瞬間的な減速と、シエラのドラッグブースターについているスラスター制御が合わさって可能となった機動だ。
『消えた!?』
あまりにも鋭利な角度で曲がったアヴァランチをギザ機は追いきれない。そのままギザ機の背後に回ったアヴァランチに気付けない。直後、背後からの衝撃にギザ機のコックピットが揺れた。
『グアッ。背後を取られた? クッ、おおおりゃあああ』
ブースト付きの魔導戦鎚でギザ機が回転しながら反撃を行うが、アヴァランチはすでに距離をとっている。
『予想以上にGがキツイなぁ』
『コイツ』
『やっぱり時間かけると体が持たないか』
『こんのぉ』
体勢を整えたギザは機体を制御し、次の一撃を放とうとアームグリップを操作する。だが戦鎚を振るって伸び切った腕ではそう易々と反撃には出られない。そして再度ドラッグブースターが火を噴き、アヴァランチが前に出る。
『させるかぁああ』
ギザが機体の装甲パージを起動する。それは爆発反応装甲と呼ばれる類の特殊装甲であり、攻撃された際に、自ら攻撃方向に向かって装甲を射出して衝撃を相殺することを目的とした兵装だ。それをギザは自ら発動させることで、攻撃手段とした。
本来射撃兵装は禁止ではあるのだが、防御用の兵装として分類されていること、射程距離が短いことからレギュレーションギリギリで認められているのがこの爆発反応装甲だ。
それをルッタは……
『そういうのもありなんだね』
瞬間的に左に避けることで回避する。
『速い!?』
瞬時の回避。その種はギザもある程度は理解できている。
アヴァランチの新しい翼『チックフェザー』。それは竜雲海で飛ぶことを前提としないフライフェザーの一種で、発生翼を小さくすることでフィールド構成範囲を絞って圧縮リフレクトフィールドを生み出す兵装だ。この圧縮リフレクトフィールドは、構成維持限界が短くなることと引き換えに大きな反発力を持つため、バネのような勢いの超加速を生み出すのだ。けれどもそれだけでは60点だ。ルッタはチックフェザーで避けた直後にアヴァランチの左腕の魔導手甲から衝撃波を発生させ、さらなる変速機動を実現していた。それは魔導手甲に備えられた魔力衝波と呼ばれるものだ。対象物に衝撃波を出してダメージを与えるものだが、出力の調整を行うことでルッタは機体の軌道修正にも利用していたのである。だからアヴァランチの速度はギザの予想を超え、気づいた時にはもう目の前に近づかれていた。
『消え……いや、そっちにいるのかよ!?』
『これで終わりッ』
そして踵を返すような形でギザ機の真横へと入り込んだアヴァランチは、その勢いのままに右の魔導手甲から発生させた魔力衝波を叩き込んだのである。
ようやくアヴァランチの本領が見えてきた模様。
ドラッグブースターはメインブースターと左右二基のスラスターで構成。チックフェザーはジャンピングシューズに近い動き。加えて魔導手甲の肘ブースターと魔力衝破による微調整により脅威の機動力を実現……という感じで。ルッタくんの体の負荷を考えなければ良い組み合わせです。
それと今章後半を書き切るのに少しお時間が必要なので10日ほどお休みします。
次回更新は8月20日となりますので少々お待ちくださいませ。




