023 怪物の生態
「本当に化け物さ。俺ぁよ。あそこまで繊細に機体を動かすヤツってのを今まで見たことがねえ」
「繊細?」
ザンカとギンナが首を傾げる。
その様子にロウシュが苦笑した。
「近づかねえと分かんねえかもしれねえな。あいつの操作は刻み方が尋常じゃねえんだよ。フェイントを混ぜる、油断を誘い一気に距離を詰める、視界を読んで死角に入り込む。まあ剣闘士に限らず、アーマーダイバー乗りで腕があるならやってることだが、そのひとつひとつの精度が尋常じゃあない。その結果として無理なく、無駄なく、機体を動かせてるってわけだ。まあ、俺らがアーマーダイバーに任せてる部分まで手動で、より己の意思に沿わせる形で正確にやってるわけだから当然だわな」
「マジかよ」
ザンカが驚きの顔で尋ねる。もっとも闘技場で見ていた時には気づけていなかったが、言われれば……と思い当たる節もあった。あまりにもアヴァランチの動きが滑らかだったのだ。ザンカとて序列四位。それを察せられるだけの眼は持っていた。
「マジだ。恐らくは負荷も少なく、実際に相対すれば体感速度も量産機以上のものに感じられるはずだ。出力は量産機のものだから打ち合いならそこまでではないだろうが、そもそも打ち合わねえしな。近接戦の動きに関しちゃ、高出力型とやり合ってると想定した方がいい。マジでヤバいわあの子供」
ロウシュがそこまで話し終えると紙巻き煙草を吸って、プハーと煙を吐き出した。
「アンタがそこまで褒めるのは珍しいな」
ここまで話を聞いていたギンナがロウシュにそう返す。
「たりめーだ。相手の実力が測れねーなら、俺ぁとっとと剣闘士を引退してるよ。ただぁ」
「うん?」
ロウシュが目を細め、逡巡しながら続きを口にする。
「ありゃ、どう考えても熟練の技なんだよなぁ。天才とか要領が良いとか……そういう才覚に寄ったもんには見えなかった。経験則に基づいた達人の動き。だから本当に子供なのかが疑わしい気がする。ひょっとしてアイツ、長命種なんじゃあないのか?」
「間近で見た感じは普通にガキでしたがね。闘技場でも姿見せてたし。耳も長くはないからエルフじゃあねえ。そもそも魔力も量産機に乗れるギリギリって感じだったはずだ」
ザンカがそう返す。試合後にルッタが姿を現すことは度々あり、ザンカもソレは見ていたし、獣人族でも、エルフやドワーフでもない、ただの原種人族であるように見えていた。
「となれば、噂に聞く不老者か。本当にガキの頃から延々と乗らされ続けてきたのか……何にしろ実際つえーよ。それにこれまでハンターの戦いしかしてなかったからだろうな。試合を重ねるごとに剣闘士としての動きに最適化されつつあって、伸び代もある」
「うぇえ」
ザンカが思わず嗚咽を漏らした。
今までの試合でも自分が勝てるかというと首を傾げる技量なのだ。その上に成長しているというのであれば、なんともいえない顔になる。
「それとだ」
眉をひそめてそう口にしたロウシュに、ギンナとザンカが再び首を傾げる。
「アヴァランチ……って、多分アレ。メテオナックルだよな? なんで、あの子供が乗ってんだ?」
「ああ。バラン爺さん、去年死んだでしょ」
「そうだな。確かお前はバラン爺さんに可愛がられた口だったな」
その返しにギンナが肩をすくめる。
「それはどうでもいいでしょ。あの機体はランダンの工房で売られてましたよ。ボロッボロの状態でね」
「なるほど。バラン爺さんの息子が手放したか」
ルッタの乗っている機体の元の持ち主を彼らはよく知っていた。かつてはナックルマスターの二つ名も持っていた男だが、引退後はバラン爺さん、或いはバラン教官と呼ばれていて、ギンナの師匠でもあった。そのバランの愛機がメテオナックル、現在ルッタが乗っている機体だったのだ。
そして彼の機体は現在、バランの息子が所有していることを彼らは知っていたのだが……
「あの人の息子がハンターだってのは聞いたことがありますよ。三流で悪い連中とも遊んでるって言ってました。身内の教育を失敗したって」
だからこそであろうか。ギンナは生前のバランから息子のように可愛がられていた。実の息子が手放した機体。であれば……とギンナは息込んでメテオナックルを買おうと動いたのだが、ランダン機人商店に再度行った時には既に購入済だった。
だから、ギンナとしても複雑な気分なのだ。
「コイツ、買おうとしたらタッチの差であの小僧に買われたらしいっすわ」
「うるせえぞザンカ」
ギンナが不機嫌そうにそう言うが、ロウシュは「ああ、だからか」と口にした。
「ロウシュさん。だからってのは?」
「さっき言ったようにアイツは剣闘士としての動きを身に付けつつもあったが、機体自体も探るように操作してたんだよ。武器もこっちに合わせて変えてきてたからな。俺らを舐めてんのかと思ったが……いや、こっちを練習相手にしか見てねえってんだから実際舐められてんだが」
「そういや今回のシエラとの対戦でようやく、対戦相手と違う武器で出てきたな」
「魔導手甲……か」
それは肘部分にブースターを、拳に衝撃波を放つ機構が備わったアーマーダイバー用の攻撃型手甲だ。そして魔導手甲ベースの専用武装がメテオナックルのメイン武装でもあった。
「なるほどな。あの機体の武器をアイツは見つけたってわけか」
視線を向けた先、闘技場には既にアヴァランチの姿はない。
けれども、かつて憧れた機体に乗ったルッタの足音が徐々に近づいてくるような感覚を受けて、ギンナはニタリと笑みを浮かべた。




