028 アタックオンメイサ
※名前が被っていたのでギアの娘の名前をマーヤからマリアに変更しました。
「長旅ご苦労様。 ギア」
「久しぶりだなミーア。いいタイミングだ。助かったぜ」
タイフーン号のブリッジに軍服姿の女性が入ってきてギアとハグを交わした。その様子を周囲のクルーは特に気にしない。それは古参メンバーにとっては見慣れた光景だった。何しろ、彼女はギアの奥さんだ。
ミーア・エントラン。白髪で青色の瞳をした彼女はオリジネーターの血を引くヘヴラト聖天領の上級貴族である。そんな彼女がヘヴラト第五兵団を引き連れてリリと共にやってきた時はギアも流石に驚いたが、連れ合いとの久方ぶりの再会に喜びつつ、これでようやく逃亡生活も終わりかと安堵もしていた。
もっともミーアにしてみれば、何を言っているんだ……という顔だ。彼女は、『とある手段』によってすでに戦場の状況を把握していた。
「何が助かったよ。私が来なくても、もう相手を壊滅寸前だったじゃないの」
「バッカ。ゴーラを俺らが壊滅させたのと、ヘヴラトの顔に免じて連中が退いたのじゃあ、その後の状況に雲泥の差があるだろうがよ」
風の機師団だけでヘヴラト聖天領のお膝元でゴーラ武天領軍を殲滅した……となれば、せっかくここまでどちらからも表に出ないように動いていたのに、さすがに情報を隠しきれない。もちろん今回はそれもやむなしと考えて動いていたが、最終的にヘヴラト聖天領軍にケツを持ってもらう形の方が一クランでしかない風の機師団にとっては望ましい。
「まー、それにしても派手にやったね。ぶっちゃけ引くわー」
「こっちはどの程度の戦果か分かってないんだが?」
「マリアの報告だとウルス艦級一隻大破。サングリエ艦級が一隻大破、二隻が小破。アーマーダイバー五十六機大破、二十一機中破。最後にオリジンダイバー五機も落ちてるって。ほとんど、そっちの青いのに」
「そこまで分かるのな。相変わらずマリアのヴィーニュはおっかねえな」
オリジンダイバー『ヴィーニュ』。
それは魔力の残留から過去をも測定可能な、マリアという女性が乗る機体だ。
戦闘能力を犠牲に、索敵深度と範囲を限界まで引き上げられたその機体があるからこそヘヴラト聖天領軍第五兵団は周辺巡回をメインとしているのである。なおマリアはミーアの娘で、つまりはギアの娘でもあった。
「おっかないのはギア、アンタのところの新人よ。どこで引っ掛けてきたのよ。あんなヤバイの」
口調は柔らかいが、ミーアの顔は引き攣っている。情報を受け取ったヘヴラト聖天領軍の誰もがその内容に首を傾げていたし、報告をしてきたマリアも自信なさげに自分の索敵した情報の間違いの可能性を口にしていたほどであった。
「ま、あとで紹介するさ。しかしルッタも派手にやったモンだな」
「いや艦長。オリジンダイバー五機ってなんすか。俺らにも意味分からんでしょ」
「……だな」
ラニーが困惑顔でそう口にし、さすがのギアも苦笑しながら頷く。ルッタの実力を知っているつもりだった彼らにしても大戦果過ぎるスコアだ。
「なんにせよ、ルッタも無事なようで何よりだがな。まったく、あいつはいつも予想外だ」
戦果こそ派手ではあるが、想定を遥かに超えた数の敵だった。
ルッタにそこまでやらせるつもりなど当然なかったギアにしてみれば、戦果そのものよりもルッタが無事なことの方が重要だった。
そうギアが考えているとブリッジの入り口から、杖をついた坊主の男と縦ロールの金髪少女がやってくるのが見えた。
「ハー、おいギア。派手にやったもんだな新人は」
「ジャヴァか。久しぶりだな。それに」
そう言ってギアがジャヴァと呼ばれた男から少女の方へと視線を変える。
「ギアおじさま、無事でしたわね。ご健勝そうで何よりですわ」
「メイサも相変わらず元気そうで何よりだ」
そう言って自分の姪の頭をポンと優しく叩く。
「おじさま。わたくし、もう子供じゃありませんことよ」
「ふむ。レディに失礼したメイサ」
「分かれば良いのですわ。皆様方もご無事で何よりですわ」
そう言いながらもメイサはソワソワしていた。
このジャヴァとメイサはヘヴラト聖天領へ状況の報告を行うために一時的に離れていた風の機師団の一員だ。メイサはミーアの姪であり、またアーマーダイバー乗り見習いだった。
メイサもタイフーン号がゴーラ武天領軍に襲われていると聞いた時には顔を青くしていたが、実際に合流してみれば全員無事だったので一気に気が抜けていた。
であればと彼女はズズズイと前に出た。
彼女はここに来るまでにずっと待っていたのだ。
アーマーダイバー乗り見習いとして風の機師団のクランメンバーとなり、ブルーバレットの乗り手に選ばれることを夢見てきた。
ケニーというスカウトした新人や、自分よりも子供にその座は奪われて意気消沈していたが、叔父であるギアからの手紙に『メイサ専用機を用意したので楽しみにしておけ』と書かれていたのである。
だからこそメイサのテンションは高い。来る日も来る日も自分の愛機と出会うことを夢見て、実際に夢の中では超絶テクで蝶のように舞い、蜂のように刺す勢いでドラゴンをも倒していた。名前も決めていた。もはや己の恋人のように、彼女はまだ見ぬ愛機に激しい想いを抱いていた。そして……
「おじさま。お手紙に書いてあったわたくしの、メイサ・エントランの機体はどこですの?」
「……あ」
ギアと、その場のクルー全員がスッと顔を伏せたのであった。
これにて強羅業の章終了。
そして、長い逃亡生活もひとまず終わり。
メイサちゃんのために用意された機体はマガリのものになっています。でもメイサちゃんは分かってくれるよね。君は優しい娘だから。
物語的にはここまでが第一部で、次章から始まる第二部はクロスギアーズ中心の予定です。書き溜め期間に入りますので次章の再開までしばしお待ちください。




