026 第四勢力
とある未来の酒場のハンター「お前たち、ゴーラ武天領軍の第七兵団クリムゾンシャークのオリジンダイバー5機とアーマーダイバー100機、戦艦2隻を単独で落として壊滅させたことで鮫殺しの異名を世界に深く刻みつけた最強のハンター、ルッタ・レゾンさんのことは知っているな?」
シャーク・ホットスプリングでの上書きは失敗。なお軍関係者からお漏らしされた情報なので数字も微妙に実数に近く盛られている模様。
「馬鹿な……あり得ん」
リリ・テスタメントとの戦いの中、決戦兵器グラン・クラーケの中でゾッド・サーヴェントは取り乱していた。
リリの乗るオリジンダイバー『フレーヌ』の性能は標準的なオリジンダイバーの域を出ず、キャリバーの一撃は強力なれど、シルフのすばしっこさは厄介なれど、それは無数の機械触手を操ることで鉄壁を誇るグラン・クラーケにとっては勝てなくとも負けもないと思える相手だった。
これは生け捕りが目的であるために、人質となるタイフーン号の拿捕までの時間稼ぎを狙ったゾッドの思惑と、未だ本調子ではないために抑えてフレーヌを操作しようとしているリリの思惑が噛み合った結果であった。どちらかが早期の決着を望んでいれば状況はまた違ったのだろうが……ともあれ、ゾッドの困惑はそこにはなかった。
ゾッドは先ほどから通信機から聞こえてくる、自軍の報告の意味の分からなさにパニックになっていたのだ。
(は? 100を超えるアーマーダイバーの三分の二以上が落ちた? 戦艦二隻が大破した? オリジンダイバー部隊が全滅した? にも関わらず、タイフーン号にほとんど損傷はなく、敵アーマーダイバー三機も健在で、そもそも量産機一機にほとんどが落とされた? こいつらは何を言っているのだ?)
全くもって理解不能。まごうことなく異常事態。現実と乖離したかのような不可解な報告はゾッドを混乱の渦に突き落としていた。
戦場の狂気に当てられて気でも触れたのかとも思ったが、他から聞こえる阿鼻叫喚の声が報告は事実であると伝えている。
(どういうことだ? 我々が相手にしているのは高々雲海船一隻のクランだぞ? 過剰戦力にオリジンダイバー部隊まで加えて万全の状況のはずだぞ? ヘヴラトが来たとしても対応できるだけの戦力なのだぞ?)
ここまでの数を集めた理由は風の機師団だけが理由ではない。
オリジンダイバー部隊と大型遺跡兵器のグラン・クラーケを用意したのは最悪、ヘヴラト聖天領軍との戦闘の想定してのもの。いかなる状況でもリリ・テスタメントをゴーラ武天領まで連れ去れるようにと念入りに整えた戦力のはずだった。
しかし、現実は残酷だ。
『動きが鈍い。もう終わり?』
考え込むゾッドにリリの声が響く。
現在のこう着状態にリリは焦れていた。故に相手を誘って早期の決着を狙い、ゾッドもそれに乗った。彼とてもはや、のんびりと構えていられる状況ではなくなっている。悪夢の世界から逃れるためにももがいていた。
「まだだ。まだグラン・クラーケの真価は出せていない」
報告が確かなら、戦況はすでに逆転している。であればタイフーン号が来る前に、危険な量産機がたどり着く前にリリを確保してこの場を離脱せねばまずいと、ゾッドは自ら動くことを選択した。
「ここでお前を確保さえできれば、まだ我々の勝利は」
そう声をあげたゾッドの声と共に竜雲海に隠れていた第二の頭部である巨大鮫の顎門が突き出て、さらにその場に砲撃音が響き渡った。
もっとも、その砲撃はグラン・クラーケ側からでも、フレーヌ側からでもなく……
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「カナミさんさぁ。結局、最後まで投入しなかったんだねぇ」
「馬鹿抜かせ。あんのクソ軍隊ども。結局、ロクにダメージ与えられてねえじゃんか。ピカジロー、テメェはうちの可愛いスカーちゃんに死ねっつってんのか? あーん?」
そこは風の機師団とゴーラ武天領軍の戦場より離れた、竜雲海に浮かぶ小型雲海船の甲板上であった。
そこにいるのはアルティメット研究会のピカジローとカナミのふたりだ。彼らはここから離れた戦場へと視線を向けつつ、そんな言葉を交わしている。
「ルッタ・レゾンって言ったな。ありゃバケモンだわ。ここまでの実績は知っていても、実際に見てみねえと分かんねーもんだな。あのチェーンソー擬きとか絶対にスカーちゃんに近づけたくねー」
「クィーンビーもアレで倒してたからね。ランクSでも防御特化型の概念防御でもないと止められなさそうだ」
ふたりはまるでその場で見てきたかのように、そんな言葉を交わしていく。
「ま、当たらなきゃ良いだけだけどな。ど素人のヒムラはともかくよ。俺とテメェのデュアルセイヴァーならなんとかなんだろ?」
「さてね。カナミさんはともかく僕は乗り手としては未熟だから。それに流石に今回はここから漁夫るのには風の機師団にダメージがなさ過ぎるよね」
「あーあ、ゴーラつっかえねー」
カナミの言葉にピカジローが肩をすくめる。
彼らの目的はリリ・テスタメントの身柄だった。
風の機師団とゴーラ武天領軍を戦い合わせて、双方弱ったところで横槍を入れてリリを掠め取る……そういう作戦だったのだ。
そのためにスカイフィッシュを仕向けて足止めをし、ゴーラ武天領軍が優位に働くようにお膳立てをしていた。けれども、想像以上に一方的な結果となってしまった。残念ながら、これでは彼らの入り込める余地はない。
「それに……今回はタイムオーバーだろ。結局のところ、ゴーラの連中は運も実力もなかった。そんな泥舟に乗らなくて正解だったって話じゃねーの?」
「ふふ、そうだねぇ。ま、今回は諦めて『母さん』の指示を仰ぐとしようじゃないか」
そう口にする彼らには見えている。
観測用に放った蟲の複眼を通して風の機師団、ゴーラ武天領軍、それに自分たちも含めたすべての勢力とは違う、第四の存在が迫っているのが視えていた。
それは軍勢。燕を象ったヘヴラト聖天領の紋章を掲げる無数の戦艦の姿がすぐそこまで迫っていたのだ。
漁夫ろうとしてずっとスタンバってました(失敗)。




