022 オリジンダイバー部隊
もうちょっとだけ(ルッタくんの無双は)続くんじゃよ
『ウルス艦級ボーダレスが大破。駄目です。アレを止められません』
『量産機だろ。量産機じゃないのかよ』
『ふざけるな。あんな出鱈目相手にどうしろっていうんだ』
通信機からは阿鼻叫喚の声が響く。
すべてはただの一機の所業。ただの量産機の戦果に過ぎぬ。だというのに、まるで同数以上の敵を相手取っているかのよう。それは単機で百を超えるゴーラ武天領軍のアーマーダイバーを圧倒していた。
「こちらラガス・ヴェルーマン。もう出るぞ」
『お待ちください。ゾッド兵団長からの指示は降りていません』
外で戦闘が始まっている間もラガスはガレージの中にいた。また彼の他にもオリジンダイバーが四機もその場に並んでいる。それはラガスの要望によって実現したものだ。
本来であれば、現在展開している戦力だけでもハンタークランの船一隻を相手にするのは過剰過ぎる。けれどもラガスはオリジンダイバーの追加を訴え、ゾッドもソレを承認した。
いくらなんでも……という声は当然上がったが、ゾッドは油断しなかった。彼だけは今回の作戦がゴーラ武天領の存亡に通じるものだと知っていたが故に、少しでも成功率を上げるための準備を怠らなかったのだ。
とはいえ、オリジンダイバー部隊の投入は相手を追い詰めた先の予定ではあった。追い詰めて、追い詰めて、最後に五機のオリジンダイバーを出して抵抗する意思を完全に断った形で風の機師団を捕獲する役割だった。
一年間という期間を逃げられ続けたことに思うところはあるし、始末できるならしておきたくはあったが、幸いなことにこれまで人死は少なかった。だから感情的にも許容可能ではあるし、リリ・テスタメントを従えるための手札は多い方がいい。人質として確保はしておきたかった。
けれども、たった一機の量産機の活躍によって、その目論見は水泡に帰そうとしている。
もっとも、その作戦ミスをゾッドに対して咎めようとはラガスも思わない。どのような状況下でもルッタ・レゾンという少年は抗してくる可能性は高いと考えていたし、追い詰められた時こそ真価を発揮するだろうとも……そんな世迷言を考えて、ラガスはゾッドの命令に素直に従っていた。
もっとも逆の方向で、まったくの見込み違いだった。
完全に想定外だったのだ。ここまでの状況を作り出せる相手だったなどと誰が想像できようか。たったひとりの少年が、たった一機の量産機がゴーラ武天領軍を圧倒してくるなど誰が予想できただろうか。
(はは……ルッタ・レゾン。そこまでか。そこまでのヤツだったか)
そんなことを考えている間にも撃墜数は増えていく。ルッタが暴れ回っていて全体が浮き足立っているせいで、タイフーン号からの狙撃への対処もおざなりになっている。そのため、レッドアラームもすでに十を超える数のアーマーダイバーを落としていた。
この状況下で想定通りの状況はリリを抑えているゾッドのところくらいなものだろう。けれども、そもそもがゾッドがリリを留めているのは、ゴーラ武天領軍が風の機師団を捉えることが前提だ。このままでは当然それも叶わない。
「ウルス艦級も落ちた。アーマーダイバーももう何十機落ちた? ああ、サングリエ級も一艦、今沈んだな。どうする? もはや戦力は半減。最高戦力を温存して全滅する気か?」
『は、はい。ああ、また沈んで……クソッ。発艦許可、許可いたします!』
そして艦長の言葉でガレージの入り口が開いていく。
「ふん。まあ、出たからと言って状況が打開されるか分からんがな」
ラガスは額からツーと冷や汗が垂れるのを感じながら、愛機ノワイエで竜雲海へと飛び出した。
続いてオリジンダイバーが四機追従してくる。乗っているのはみな増魔人と化した者たちだ。
ゴーラ武天領では鹵獲したオリジンダイバーを増魔人に改造した貴族に使わせて戦力としている。
いずれもラガス同様に各家の当主候補であり、自らの肉体を代価にゴーラ武天領への忠誠を誓った者たちだ。
『ラガス隊長、相手は本当に量産機なのですかね?』
『んなわきゃねーだろアスタ。まあ俺のシャルドンが倒すがな』
『……ふん』
『恐るべきはあの剣、アレ以外は問題ない』
これまでの戦況は各々の耳にも入っているのだが、それでも彼らは自らの勝利を疑ってはいない。いずれもオリジンダイバーを駆り、常勝無敗の騎士たちであるが故に、多少はやるとしてもその程度は自らでも可能だと考えていた。
そして、それぞれの言葉にラガスは何も言わない。彼らは一様にプライドが高く、口で言ってどうにかなる相手ではないと理解していた。
それよりもラガスにとっての第一はルッタだ。再びブルーバレットが竜雲海の中に潜ったことは通信で聞いていた。しかし、こうも機体数が多く、魔力が乱れた空間内では敵の位置を探るのは難しく……
ズガガガガガ
目を凝らして下方へと視線を向けていたラガスの耳に連続した銃声が聞こえ、即座に回避行動をとった。他のオリジンダイバーも同じように動き出し、撃たれた方へと視線を向ける。
『ケッ、隠れて、こそこそと……すぐさまこのザイロ・スジャータが』
「馬鹿。ザイロ、下だ!」
『ハッ?』
直後、ザイロの乗るシャルドンの真下から青と黒の機体が飛び出し、ガツンと機体同士が激突した。
『な……んで?』
直前までレーダーの反応はなかった。そもそも撃ってきた方角からして、間を置かずに真下から突撃してくるなど不自然極まりない。
ザイロの脳裏にそうした疑問が走ったが、すでに遅い。
『まずは一機』
無慈悲な全自動魔導散弾銃からの重弾ゼロ距離射撃が連続で放たれ、オリジンダイバー『シャルドン』は呆気なく大破して竜雲海の中へと落ちていった。




