020 美味しいご飯をありがとう
ドドドドドド……と空中で無数の爆発が発生する。迫り来るミサイルの雨をルッタについていったアンを除いたシルフたちの魔導銃と、リリの魔導長銃が後方に下がりながら撃ち落としているのだ。しかしその数は多い。そしてついにミサイルが弾幕を抜けてフレーヌへと……
「ふーん、数だけで押せるとでも?」
直後にフレーヌの足首より出ているルミナスフェザーが広がり、羽ばたきと共に光の波が発せられると接触したミサイルがその場で爆発していった。
『ほぉ、さすがはオリジンダイバーというところか」
ルミナスフェザーはフライフェザーと違って魔力で構成された非物質。ラインの乗るシトロニエのセラフィムフェザーほどではないにせよ、出力を上げればミサイルを誘爆させるほどの圧力の波を発生させることは可能だった。
「この程度じゃリリは止められないよ」
『だろうな。君がただのオリジネーターではないのは承知している。しかし問題はない』
「?」
首を傾げるリリにゾッドが笑いながらこう告げた。
『リリ嬢、君は強い。君ならば確かに我がグラン・クラーケに捕まる事はないのかもしれない。しかし、それは君が特別だからだ。君だけがそうなのだ。であれば君がいない風の機師団は、どうだろうかね?』
「……なるほど」
そのゾッドの言葉の意味をリリも理解する。
目覚めてからずっと、リリの帰属意識は風の機師団に、タイフーン号にあった。自身がここで逃げ切ったとしても、風の機師団が壊滅しては意味がない……とでも相手は考えているのだろうとリリは察した。
そして、その認識は正しい。
リリにとっての世界の中心は風の機師団に他ならず、彼らといたいからリリは逃げているし、彼らがいないのであれば逃げ切ったとしても意味はないとも確かに考えていた。
『リリ嬢は、彼らを見殺しにしてまで抵抗するかね? 君にとっての彼らとはその程度の存在かね? ふふ、だから私はここで君を足止めするだけで十分なのだよ』
ゾッドはリリの心情をそれなりに理解しているようだった。彼の考えている通り、タイフーン号が落とされでもしたらリリは逃げる気力を失うだろう。全滅させられたならば復讐に走る可能性もあるが、仲間が人質にとられた場合は従うという選択を取るかもしれない。
『彼らを確保するまで、君はここに留めさせてもらう。とはいえ、戦に絶対はない。大人しく我らの元にくだるのであれば早いほうが良いと思うがね』
だから、ゾッドの考えは間違いではなかった。
「ふっ」
けれども、リリは笑う。ゾッドの乗るグラン・クラーケに視線を向けながら不敵な笑みを浮かべている。その様子にゾッドが目を細めた。機体の中の表情は見えずとも、リリの内にある余裕には気がついた。
『何かおかしいかね?』
「うん。おかしいかな。だって無理だもの。あなたたちじゃあ」
それは心の底からの、本心の言葉だった。
或いは、ヴァーミア天領での出会いがなければ風の機師団とリリはここで詰みだったかもしれない。いや、そもそも辿り着けなかった可能性の方が高かっただろうが。
「リリもよく分からないのだけれどね」
リリがそう前置いて言葉を続ける。
思い浮かぶのはひとりの少年だ。出会ってからずっと彼女の目を奪って離さない、不思議な少年。
「ルッタは本来、飛獣よりもアーマーダイバーとの戦闘をこそ得意としているの」
『?』
その理由はリリにも分からない。ただ、出会った当初からルッタはそうだった。近接戦を主とする飛獣との戦闘よりも、射撃武器をメインとしたアーマーダイバー戦を前提とする動きをしていた。ここまでの飛獣との戦いはむしろ、自身の戦闘スタイルを移行させるための調整に近いものがあったとリリは理解している。
アーマーダイバー戦など経験したこともないはずの少年が何故? とはリリも思うが、イシカワと出会ったことでストンと落ちるものがあった。恐らくルッタはあのイシカワに近い存在なのだろうと、なんとなく理解できた。
それが何を意味するのかは分からなかったが、とはいえルッタの強さの理由などどうでも良いのだ。リリにとって重要なのは
「だからきっとルッタはここでもまた強くなる」
ルッタが自分に並べる人間だということ。或いは自分をも超える可能性があるということだ。
だから、リリは確信をもってそう言える。リリにとって今の状況はそれほど問題ではない。危機感など存在しない。むしろ、リリの中には感謝に近い感情が浮かんでいた。
「ルッタに餌を与えてくれてありがとう。これでルッタはもっと羽ばたける。もっと強くなれる」
『ナッ!?』
何を言っているのか……そう思うゾッドの耳に離れた艦隊より通信が入る。
『ゾッド、ゾッド兵団長。ヤバい。ヤバいのがいます』
『こちら、ガストール隊、このままでは全滅す……ガッ』
『畜生。なんなんだ。なんなんだよ、アレは!?』
『この反応は量産機だろ? だったら何で』
『こ、こんな化けも……ァアアアアアア!?』
無数の悲鳴が通信機から響き渡る。
ゾッドの乗るグラン・クラーケは決戦兵器と呼ばれる大型遺跡兵器であり、竜雲海上でも通常より長距離通信が可能であった。そのために距離のある自軍とも未だに通信が繋がっているのだが、状況を確認しようと通信の範囲を広げても聞こえてくるのは阿鼻叫喚の声だけであった。
『なんだ? 何が起きている!?』
彼の想像力では、通信機の先の惨劇の想像ができない。何が起きているのかが理解に至らない。
ただゾッドは困惑した顔で、ここから離れた戦場へと視線を向けた。
ガトリングガンは無双し過ぎるのでナーフ対象にしたいが、現実はアプデできないから修正パッチが当てられない不具合が発生中。ゴーラは犠牲になったのだ。




