019 偉大なる大蛸
「ムン、これで終わりっと」
リリの魔導長銃の一撃で最後のスカイフィッシュが撃たれて竜雲海へと沈んでいく。
(ハァ……ずいぶんと離されたね)
リリがフレーヌの水晶眼を通して、すでに風の機師団とゴーラ武天領軍の戦場になっているであろう方へと視線を向けた。
この場からでは見えないが、ゴーラ武天領軍が追い、タイフーン号が逃げ、さらにはルッタが敵陣の中心に飛び込む形で戦闘が始まっている。
一方で本来狙われているはずのリリがひとりでスカイフィッシュの群れを相手取っていたのは、タイフーン号がスカイフィッシュの攻撃で足を止めてしまえば接近したゴーラ武天領軍の飽和攻撃で沈められてしまう危険があったためだ。
加えて言えば、これでゴーラ武天領軍がタイフーン号ではなくリリの乗るフレーヌを狙って動いたのであれば、タイフーン号とフレーヌは分かれて、それぞれシェーロ大天領を目指す選択も取れた。
リリとフレーヌだけであればゴーラ武天領軍を振り切ることも可能だろうし、現在の位置関係からすれば、オリジンダイバー単独でも辿り着けるくらいにシェーロ大天領には近づいている。
残念ながら、そうした思惑にゴーラ武天領軍は乗ってはくれなかったが、それはそれで正面から叩き潰せば良いだけだとリリは考えている。だから問題なのは……
(周囲にはもう飛獣はいない。結局、統率している上位種は出なかった……これはやっぱりおかしいね)
現状でリリがひとりになる状況が飛獣の襲撃によって成立していることであった。
飛獣の群れは少数であれば、群れの中で最も強い同一種が統率している場合もあるが、その数が増すほどに上位種が率いる確率は高くなるし、大きな群れならば支配構造も複雑化する。
例えば前回ルッタたちが戦ったクィーンビーであれば、ナイトビーなどの直属の群れや、コマンドビーなどを経由したキリングビーの群れなど、複数の群れの集合体であった。
今回のスカイフィッシュはクィーンビーの群れほどの規模ではないにせよ、従えている上位種がいないのはおかしい程度には数がいた。ランクが上のスカイフィッシュランサーもいたが、アレは尖兵的な役回りで自ら戦うことはあっても従えるタイプの飛獣ではない。
「そもそもが近辺にいない、ヴァークレイ天領を落とした飛獣……なら操っている誰かが狙ってこうしたんだろうけど、ここから何もないのであれば船に戻って……ん?」
すでにタイフーン号とはそれなりに距離が開いている。すぐに合流して、ゴーラ武天領軍との戦闘に入ろうとリリが考えた時、フレーヌの真下から反応があった。
「!?」
リリが即座にフレーヌを急発進させて、空中を飛んで旋回すると、直後に機体がいた場所へと竜雲海の中から何かが飛び出してきた。
「触手? 飛獣? いや、機械かな?」
飛び出してきたのは鞭のようにしなる機械の触手だ。
明らかに人工物のソレの出現に眉を顰めたリリが距離をとって身構えていると、竜雲海内から大きな影が見え始めた。
「……大きい」
そして、竜雲海がボコリと小山のように盛り上がったかと思えば、その雲が散らされて巨大な何かが姿を現していく。
「タコ?」
そうリリが呟く。確かにそれは伸びた足を除いても全長三十メートルは超える、タコのような形をした機械に見えた。
『ふん。まさか目標が単独で飛獣の群れと遊んでいるとはな。クク、運は我らに味方したというわけか』
「ゴーラ武天領軍?」
『左様。先ほどギア団長とも挨拶をさせてもらったがね』
その声はゾッド・サーヴェントのものだった。
『改めて名乗ろうか。私は第七兵団『クリムゾンシャーク』の兵団長ゾッド・サーヴェント。さあ、リリ嬢。お迎えに上がりましたぞ。ゴーラ武天領にお戻りいただこうか』
「ゴーラ武天領なんて知らない。リリのいるべき場所はお前たちのところじゃない」
そのリリの返しにゾッドは『フンッ』と鼻で笑うだけだった。ゾッドとて、もはや言葉で解決できるとは思っていない。だからこその、その機体だ。オリジンダイバーを超える、ゴーラ武天領軍が誇る最強の一角。
『結構。ならば、自ら頷いてもらえるようにこちらも手を尽させてもらおうか。この決戦兵器『グラン・クラーケ』でな』
そして八本の足が広げられ、吸盤のような砲塔から無数のミサイルが一斉に飛び出してフレーヌへと襲いかかった。
ノートリア遺跡の超巨大カニ型兵器と同系統の、タイトルにもある決戦兵器ですね。大型ボスです。
ルッタくんがこの系統の敵を一体は倒さないとタイトル詐欺になりますので頑張ってノルマをこなしていただきたい。




