014 疑惑の飛獣
「スカイフィッシュ……知らない飛獣だなぁ。ここら辺のヤツじゃない?」
ルッタが己の記憶を思い返しながら、そう口にする。アーマーダイバーほどではないもののルッタも飛獣の知識はある程度は持っているのだが、それでも遠く離れた地域に生息する飛獣まではさすがに覚えていない。
「だろうな。本来はこの辺りに生息する飛獣じゃないんだが……」
「艦長?」
苦い顔をして答えたギアを見て、ルッタが首を傾げる。
「スカイフィッシュはマガリの故郷であるヴァークレイ天領を落とした飛獣だ」
「!?」
ヴァークレイ天領は、襲われた四つの天領の中で唯一落とされて終わってしまった島だ。そのヴァークレイ天領を落とした飛獣が迫ってきている……という事実にルッタが眉をひそめる。
「こんな偶然ってある?」
「この辺りに住んでる種ならまだしも、限りなくゼロに近いだろうよ」
「つまりゴーラとアルティメット研究会が組んだってこと?」
ルッタが口にした最悪の推測にギアが首を横に振る。
「さてな。ゴーラがいくら腐ろうと天領を落とした連中と手を組むとは考え辛い……が、追い詰められた人間ってのは何をしでかすか分からん。最悪ゴーラ武天領軍に加えて、天導核を喰ったランクA飛獣もいるかもしれんと考えるしかないな」
ヴァークレイ天領は即座に落とされたと聞いている。そのためにヴァークレイ天領を襲った飛獣はランクSに昇華せずに天導核を喰らっただけだろうと予測されていたが、それでも強力な飛獣である可能性は高い。
それがゴーラ武天領軍と共に襲ってくるというのは相当に厳しい状況だが……
「まあ、やるしかないよね」
「そうだな。頼んだぞルッタ」
その言葉に親指を立てて頷きながら、ルッタはガレージへと走り出した。
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「遅いぞルッタ。他は全員、すでに出てるぞ」
「ごめんコーシローさん。艦長とちょっと話してた。ブルーバレットの調子はどう?」
「問題ないな。バッチリだ」
その言葉にルッタは頷きながらタラと共にコックピットに入っていく。
その様子にコーシローがルッタに問いかける。
「ルッタ、タラをいきなり実戦で使うのか?」
「チェックは済んでるし、問題はないよ」
「キーーーーー」
タラもまーかせてと意気込んでいる。
ルッタとタラの二人三脚での機体制御のテストはすでに完了しているし、それは機体に依存することなく、接続したタラをベースとして機能する。タラが感応石から離れれば元の状態に戻すことも容易であるため、ルッタも確認したコーシローもそれほど問題視はしていなかった。もっとも、その事実は別の問題を孕んでもいる。
(要するにデュアルセイヴァーみたいな特別な機体を使わずともタラちゃんたちは有用ってことなんだよなー。イージーモード導入みたいな?)
アルティメット研究会の危険度がまたひとつ上昇した形であった。
なおルッタの見立てでは、タラがいればアーマーダイバーに乗れるだけの素人でもランクDクラスの戦力にすることが可能であろうと予想していた。
飛獣たちを操る技術とオリジンダイバーに匹敵するデュアルセイヴァーの製造に加えて、乗り手の強化すらも用意可能。それは危険思想を掲げる犯罪組織が有して良い戦力ではなかった。
(まあ、そこらへんは俺みたいなお子様が考えるこっちゃないだろうけどさ)
「コーシローさん。ガトリングガンは外して出るよ」
「いいのか?」
「スカイフィッシュはワームに翅が生えたやつで、かなり速いって聞いたからね。ガトリングだと無駄弾を結構出しそうだし、こっちもある程度はスピード出さないと当て辛そうだから」
地球で言われているスカイフィッシュは、ハエなどの虫がカメラの前を横切った際にシャッタースピードが合わず長細く映ったものであると言われている。しかし、このアーマン大陸でのスカイフィッシュの正体は地竜の一種であるワームに翅が生えた変異種である。
実際、ヴァークレイ天領も下から穴を掘って心臓室まで辿り着かれて天導核を喰らわれていたようだった。
(スカイフィッシュ。ランクDの飛獣ならガトリングありきの重量でも対処できると思うけど、親分のランクA飛獣もいる可能性があるしなぁ。それに)
「ちょうどアレを試せるしね」
ルッタがブルーバレットを操作してガレージの横に添えつけられている全自動魔導散弾銃を手に取った。
タラと繋がり召喚弾の許容量が増えたことでドラムマガジンもフル装填可能になっている。前回とは違って、今回は本来の性能を発揮できるはずだ。
「リリ姉。外したガトリングはアンに持ってもらっていい? 後で必要になりそうなんだけど」
『うん。良いけど』
アンを荷物持ちにすることで全体の制圧力は下がるが、継続して戦闘を行うなら船に取りに戻るよりは即座に持ち替えられる。
そしてルッタはこのスカイフィッシュ戦の先の戦いも想定していた。
『ルッタ、やっぱり来ると思う?』
「うん。可能性あるでしょ?」
『だね』
そのやり取りにシーリスとジェットが揃ってため息を吐いた。
つまり今回の戦闘は相当にタフなものになるだろうと予想できたからだ。
『攻撃はルッタとリリのふたりで。ジェットとシーリスは船の防衛だ。シーリスは全周囲を警戒しろ。蜘蛛の子一匹見逃すなよ』
『蜘蛛の子ならルッタと一緒にいるけどね。了解だよ艦長』
つまるところ、スカイフィッシュはただの前菜。であれば次に来るメインディッシュを見逃すなとシーリスは命じられた。果たして、その予測は正しいか否か。ともあれタイフーン号より各機体は出陣し、戦いの火蓋は切られたのであった。
火蓋は切られても落とすことはないのだという。




