012 殺意マシマシトラップ
壱狼がリリの寝室へ、三番手の実力を持つ参狼がルッタの寝室へと向かい、そして破壊工作を得意とする弍狼はガレージへと向かっていた。
時間はすでに深夜だが、ガレージ内には人の気配がある。ツェットが戻り、レッドアラームが代わりに外に出たのだから、それは当然ではあったが、気配を殺して移動する弍狼に気づく者は整備班の面々にはいない。
そもそも彼らは整備のプロであって、訓練こそ受けてはいるが戦闘は素人だ。対して弍狼は隠密行動のプロフェッショナルであり、魔術的効果もあって、たとえ彼らの目の前に姿を現したとしても察知されない自信があるほどだった。
であれば、気づかれないのも当然のこと。もっともそれは整備班には……ではあったが。
(オリジンダイバーのそばにはメンテナンスドローンがいる。アレが動くのは自己防衛モードのみだったはず。であれば、狙うのは離れたアーマーダイバー、ジェット・リスボンのツェットが良いか)
タイフーン号が不沈である理由のほとんどは、スペシャルなオリジンダイバーでも、異形のカスタム量産機でも、優秀な狙撃機でもなく、鉄壁の二つ名を持つジェットとその愛機ツェットによるところが大きい。
アレさえ落とせれば、仮に自分たちが失敗したとしても後に続く一手になる。そう考えて、弍狼が一歩前へと足を踏み出すと……
『Pi』
「うん?」
彼は、自分のすぐ横に白い樽のようなモノがあることに気付いた。その正体を弍狼は知っている。事前に報告を受けていたからソレがタレットドローンのシルフであることはすぐに分かった。問題なのはなぜソレがいるのかということだ。
(タレットドローン? まさか自律行動を取っているのか!?)
アーマーダイバーやオリジンダイバーのドローン兵器はある程度のオートメーション化はされているものの、基本的に乗り手が操作するものだ。ここまでの報告でもシルフは常にリリと共に動いており、その操作はリリが行なっているものと彼らは認識していた。
それが実際には自らの意思で活動するマシーンであるなどと、ましてや彼女たちこそが眠り姫を護る『本来のフレーヌの乗り手』であることなど、当然弍狼が知るはずもない。
そしてシルフたちはガレージ内に入ってきた異物をとっくに察知しており、サイレントモードで四機全てが取り囲んでいることに気付けなかった弍狼は次の瞬間には四方からのテーザー攻撃によって意識を失った。
———————————
(ここがそうか)
そして最後の刺客である参狼は、ルッタの寝室へと無事に辿り着いていた。
タイフーン号のルッタ・レゾンの部屋の位置の割り出しはそれほど難しくはなかった。タイフーン号のベースとなっているルナール艦級の内部構造はそれなりに知られているし、中でも乗り手のひとり部屋は限られていて、ルッタが窓から顔を出した部屋の割り出しも事前に情報として得ていた。
事前情報では子供の外見をしているとのことだったし、実際に外見通りの年齢である可能性が高いことも分かっている。けれども参狼はそれで狼狽えるような人物ではない。忠誠を誓うゴーラ武天領のために己が命を賭けることも厭わぬのが彼らだ。実際、彼らはこの任務を片道切符であるものとして認識している。目的を完遂はできずとも、自軍の次のために己が命を費やすことを覚悟していた。
(許せとは言わぬ。私は己が任務を果たすのみ)
参狼が寝室の鍵を開け、ゆっくりと室内へと侵入する。暗闇の先からは子供の寝息が聞こえてくる。そして参狼が一歩を踏み入れたのと同時に、
ドンッ
という音と共に右腕に衝撃が走って体が吹き飛び、わけが分からぬままに壁へと激突した。
「グッ」
うめき声がわずかに漏れる。何が起きたのかは見えずとも、起きた状況を参狼は己の知識からすぐに察した。
(このガキ、ショットガントラップを入り口に!?)
入り口の横には扉を開けるのと同時に発動する魔弾散弾銃のトラップが仕掛けられていたのだ。参狼の着込んだスーツは防弾性能が高く、幸い散弾を抜かせることはなかったが、生身の人間であれば胴体が千切れ飛んだとしてもおかしくない威力。また、その衝撃までは殺しきれない。
(だが、私が気付けぬほどの仕掛け? トラップの……糸が細い? む!?)
そんなことを参狼が逡巡している次の瞬間には、彼の頭部にネバネバした糸のようなものがかかって呼吸が困難となり、
「ハァ。まさか、本当に来るとはね」
ベッドの上にいる子供が握ったガンソード、ソレから放たれた雷撃によって参狼は意識を失った。
スーツが頑丈でなかったらモツが飛び出るスプラッターシーンで掃除が大変だったので、結果的に良かった。




